表紙:桜沢まひろ様










□ 学園パニック □










「数十人といた候補の中から残ったのはキミ達だけか」

 キングは目の前に立つ青年達を横目に、一人掛けソファに深く身を沈めた。

「キミ達は私の跡継ぎになる為に、ここまできたわけだが」

 頬に手を当て、キングは目を眇め。

「本当に跡を継ぎたいと思っているのかね」

 青年達を探るように見つめた。
 その問いに誰も答えなかった。
 キングの口の端を上げて。

「興味はないのかな?」

 私が持っている全てのものに。
 その問いに一人の青年が口を開いた。

「ない、といえば嘘になります」

 ですが。

「幾億人もの社員を背負っていけるかは」
「自信がない、と」
「はい」
「では、キミは何故ここにいる?」
「………」
「何故、ここにいる?」

 キングは厳しい口調で再度、問うた。
 青年は答えることは出来なかった。
 答えはキングが求めるものではないからだ。
 俯いた青年に、キングは目を眇めて。

「わかっているとは思うが、キミ達は私の跡継ぎとしてここにいる」

 また。

「キミ達の後見人もそれを望んでいる」

 わかってはいるな、と問えば、青年達は頷いた。
 理解している、と。
 その為に自分はここにいる、と。
 キングは一人、一人の青年の顔を見つめた。
 私はキング・ブラッドレイ。
 世界を股にかけて企業経営をしている。
 その上、父から受継いだ莫大な財産。
 世界屈指の大富豪でもある。
 そんな私の周囲に群がるのは、財産目当てばかりで。
 私は心底、人間不信に陥っていた。
 そんなある日のこと。
 一人の女性が私の前に現われた。
 それが、妻であるリザだった。
 出会った当初は、かなり冷たい態度をとった。
 彼女も財産目当てだ、と………。
 そんな態度をとったにも関わらず、リザは文句も言わずに、秘書の仕事をこなしていった。
 私はリザの誠実さと優しさに触れて、ゆっくりと警戒心を解いていった。
 いつしか。
 リザを見つめている自分に気付く。
 そして。
 いつしか、心が奪われて。
 彼女の全てを自分のものにしたくて。
 引き寄せられるように、リザに想いを告げ、手を伸ばした。
 リザは驚いてはいたが、抵抗は無かった。
 私を受け入れたリザは一筋の涙を流して、嬉しい、と言って抱きしめてくれた。
 互いに愛を確かめ合った。
 そう、思っていた。
 なのに。

 翌朝、リザは姿を消した。

 私は絶望と怒りが込み上げてきた。
 何故、消えた?
 熱い夜を交えたのに。
 何故!
 私はリザを探した。
 探して。
 探して。
 探し出したリザは田舎の古小屋に暮らしていた。
 扉を叩けば、出てきたのは一回り、痩せたリザだった。
 長かった金髪はバッサリと切られ、随分と印象が変っていた。
 問い詰めても、リザはゆるく頭を左右に振るだけで、何も答えない。
 嫌がるリザを連れて、キングは邸に戻った。
 すると。
 顔色を変えたのは、私が留守にしている間、我が物顔で邸に居座っていた従兄弟だった。
 私はリザを執事に預けて、従兄弟を問い詰めた。
 が。
 自分は何も知らない、と言う従兄弟を殴って、再度問うた。
 暴力など、受けたことなどない従兄弟は恐怖に怯えて、ベラベラと話し始めた。

『姉さんが、脅したんだ!』

 従兄弟の姉が私の財力目当てに、リザを脅したのだという。
 脅しの標的はリザの祖母。
 リザは両親を早く亡くし、祖母に育てられた。
 育ての母を脅しの標的にされて、リザはさぞ心を痛めたことだろう。
 なんてことだ。
 そんなことも知らずに、私はリザばかりを責めて………。
 情けない。
 本当に情けない。
 初めて心から愛した女を何故、信じてやれなかった。
 姿を消したならば、勘ぐるべきだったのだ。
 それもせずに、私はリザを責めて………。

『二度と、私の前にその顔を見せるな!』

 怒鳴りつけて従兄弟を邸から放り出した。
 執事には二度と邸に入れないよう、命じて私はリザがいる居間に足を向けた。
 居間の扉を開ければ、ソファに腰を下ろして小さくなっているリザが目に入った。
 私は沈痛な面持ちで歩み寄った。
 リザは私を見るなり、もう構わないで、と叫んだ。
 それは出来ない相談だった。
 私はリザを愛して、彼女に溺れているのだ。
 手放すことなど、できない。
 リザの前に膝をついて、リザを見上げた。
 小刻みに震える細い手を握り締めて。

『リザ』
『っつ』
『リザ、キミが消えて、私は絶望と怒りの毎日を過ごしていた』

 裏切られた、と。
 私の想いを受け入れてくれたと想っていたのに、と。

『だが』

 それは違った。
 私はキミを責めるばかりで、何も見えていなかった。

『キング、もう、私のことは放っておいて』
『駄目だ』
『お願い。もう、もう』
『守るから』
『!』
『私がキミを、キミの全てを守るから』

 だから。

『私の傍にいてくれないか』

 震える声で懇願した。
 初めて心から願った。
 愛しいキミと生涯を共にしたい、と。
 こんなにも女を恋焦がれる日が来ようとは思いもしなかった。
 リザはポロポロと涙を流して、キングの肩に顔を埋めた。
 そして。
 小さな声でぽつ、ぽつと話してくれた。

 祖母をたてに脅された。
 キングの傍から離れろ、と。
 そう、脅されたのはキングと想いを通じ合う二日前。
 悩んだ。
 キングから離れたくない。
 だって。
 だって、好きなの。
 愛しているの!
 離れたくないっ。
 でも。
 離れなければ、祖母が………。
 悩みに悩んでいる中、キングと想いが通じ合った。
 優しくも激しく抱かれて、求められて。
 ああ、もう、これで私は幸せだと思った。
 心と身体にキングを刻み込まれて。
 幸せだと、心から涙して、キングが目を覚まさないうちにベッドを抜け出した。

 私はリザの言葉に胸が締め付けられた。
 好きだ、と。
 愛している、と。
 初めて想いを言葉にされて、心が歓喜し、幸福が身体中を満たした。
 私はリザを力強く抱きしめて、耳元で囁いた。

 好きだ。
 愛している、と。

 リザは、新たな涙を流しながら、キングの背に回した両腕に力を込めた。

 そうして。

 私とリザは婚約をし、三ヵ月後に結婚をした。
 それが五年前のこと。
 それから暫くして、リザに子供が出来ないことが発覚。
 そのことをどこから聞きつけてきたのか。
 親戚と遠縁、血縁者が後継者問題などに口を挿むようになった。
 わざわざ、私の邸に来てリザの目の前で、だ。
 その上。
 娘を連れくる始末。
 暗に離婚して、我が娘と再婚をしろ、と言っているようなもので。
 その所為で、リザは倒れてしまった。
 大切な。
 愛しい妻の体調に気づかなかった自分を責めて。
 または。
 リザを追い詰めた血縁者に怒りを覚えて。

 孤児から、私の後継者を選ぶ。

 と、宣言をした。
 血縁者は血眼になり、優秀な孤児を探し出し、私の前に連れてきた。
 数十名の孤児を前にして、私は様々な試練を受けさせて厳選した。
 孤児である子供達は必死だった。
 貧困から脱する為に。
 それでも、落ちる子供は落ちた。
 孤児院に帰りたくない、と泣きながら訴える子もいた。
 その子供を連れてきた血縁者は無情にも、孤児院に返した。
 役立たず、と言って。
 私はそんな子供達を助ける術を持っていなかった。
 否。
 一人を助ければ、全員を助けなければいけない。
 だから、手を差し伸べなかった。
 厳選に厳選をして、絞られた子供達が以下の六人だ。

 黒の髪と瞳の青年、マース・ヒューズ。
 金の髪に青い瞳の青年、キース・リー。
 赤茶の髪に黒い瞳の青年、ゾル・ブラッド。
 茶の髪に緑の瞳の青年、カステア・クロフォム。
 銀の髪に群青の瞳の青年、ヒラリー・アスティア。
 そして。
 漆黒の髪と瞳を持つ、ロイ・マスタング。

 どの子も、個性のある優秀な青年で、私の後継者には十分な素質を持っている。
 ただ、一つだけ足りないものがあるが………。
 キングは口を開いた。

「では、最後の試練だ」

 キングは招待状を六枚、テーブルに置いた。

「半年後、ミシェルホテルでパーティを開く。そこで、私が決めたお前達の婚約者を紹介する。その婚約者に選ばれた者が、私の後継者だ」

 お前達に。

「拒否権はない」

 わかっているな。
 青年達は一斉に返事をし、テーブルに置かれた招待状を手に取った。

「それではこれまで通り、勉学に励みたまえ」

 用は済んだ、とキングが青年達に退場を促した。
 青年達が出て行くのを横目に。
 さて、どう出るか。
 キングは顎に手を添えた。
 後継者としてよりも、勉学に励みたい。
 普通の子供のように、学校に通い。
 そして。
 自分の未来は自分で選びたい。
 六人とも、そう思っていることだろう。

「いや、一人だけ」

 私が目を掛けている。

「ロイ・マスタング」

 後継者にも。
 自ら未来を望んでもいない。
 全てに興味がないようだ。

「困ったな」

 私はあの子を後継者にしたいのに、このままでは落ちてしまう。
 手放すには勿体無い逸材だ。

「さて、どうしたものかな」

 フム、と顎を撫でると。

「キングおじさん!」

 バン、と居間の扉が勢いよく、開かれた。
 顔を向ければ、親友の忘れ形見である愛娘。

「エドワード」

 金の長髪を乱して、大きな金の瞳でキングを睨みつけた。

「どうした?」
「どうした、じゃない!」

 ガウ、と噛み付きながら、ズンズン、とキングに歩み寄り、バン、とテーブルに両手を叩きつけた。

「何を勝手に婚約者なんて決めているんだよ!」
「ああ」

 そのことか。

「そのことか、じゃない!」

 オレは。

「婚約なんてしないぞ」
「それは困る」
「何で!」
「今は亡き親友のヴァンとトリシャに約束したからだ」
「約束?」
「そうだ。活気で短気で誰にでも優しいエドワード、キミの将来の相手は私が見極める、とね」
「な?!」

 何を勝手に!!

「人を疑うことを知らない純粋な心を持つということはとても素晴らしいことだ」

 だがね。

「それが怖いんだよ」

 私は。

「怖い?」

 首をかしげるエドワードに、キングは頷いた。
 怖いのだ。
 人の表だけしか見ないことに。
 そう、思うのは自分が様々な人に出会ったからだろう。
 だから。
 見えるものがある。

「キングおじさん」
「エドワード、婚約は決定事項だ」
「!」

 キングは目を細め、エドワードを見つめ。

「拒否は許さん」

 厳しい口調で言った。

「お前のことはくれぐれも宜しく、とヴァンとトリシャに言われているのでね」
「でも!」
「エドワード」
「っつ」
「先ほども言ったが、これは決定事項だ」

 いいね、と念を押す。
 エドワードは奥歯を噛み締めて、荒々しく部屋を出ていった。
 その背を見送り。

「やれやれ、騒がしいことだ」
「そうさせたのは、あなたですよ」

 隣室の扉を開けて入ってきたのは。

「リザ」

 水色のネグリジェを身に纏い居間に入ってきたリザに、キングは慌てて立ち上がり、早足で駆
け寄った。





   〜続きはオフにて〜