□ 蝉時雨 □











     ◇ ◇ ◇

 ミーン、ミンミンミン。

 うるさい。
 蝉の泣き声に漆黒の髪と瞳、藍の浴衣を着た子供は眉間に皺を寄せ、上を見上げた。
 周囲は木々に囲まれ、緑茂った枝と葉っぱの間から青い空が視界に入る。
 いい天気。
 だが。

「なんなんだ。この暑さは」

 うんざりとした顔で子供は足を踏み出した。
 避暑に行こうと言い出したのは父だった。
 都会は暑い。
 お前たちが夏休みの間は田舎で過ごす!
 とか何とか言って、本音は夏ばて気味の母さんを思ってのことだ。
 オレはついで。
 ちなみに。
 オレには兄がいる。
 が、今回は友達と勉強会があるからと家で留守番。

「だが」

 それは建前だということは重々承知している。
 父さんと母さんのラブラブに当てられたくなくて逃げたに違いない。

「ずるいよな〜」

 オレはといえば、夏休みの宿題も半分は終えて、することも無ければやることもない。
 かといって。

「当てられるのも………」

 辞退しようとしたのだが。

「時既に遅し」

 右に父さん。
 左の母さん。
 二人に挟まれて、強引に車に乗せられたのだ。
 それを兄貴は笑顔で見送ってくれた。
 そうして。
 オレは父さんの実家に連れてこられた。
 爺ちゃんと婆ちゃんは皺皺な顔を更に皺を増やし、笑顔で出迎えてくれた。
 大きくなったと言ってはギュと抱きしめて、髪をもみくちゃにされて。
 オレは頬を膨らませ、ぐちゃぐちゃにされた髪を手で直していたら、背後から母さんが許してあげてね、と言って櫛で梳いてくれた。
 畑仕事を毎日こなし。
 自然に囲まれて。
 隣人は数メートル先。
 車じゃないとかなり時間がかかる距離だ。
 老人二人っきりは寂しいのだ、と母さんが言った。

『でも、一番は孫であるサスケに会えたことが嬉しくてたまらないのよ』
『え?』
『一年に二、三回しか会えないから、喜びは一入ね』

 孫は実の息子よりも可愛いのだと母さんは言った。
 それを聞いて、オレは爺ちゃんと婆ちゃんに寄り添って。
 オレも会えて嬉しい、と口にした。
 すると。
 爺ちゃんと婆ちゃんが一瞬だけ目を丸くして、ギュとオレを抱きしめてくれた。
 細い腕。
 父さんや母さんよりも小さな身体で。
 ギュと大切に抱きしめてくれた。
 そして。
 オレは婆ちゃんが作ってくれた浴衣を着ている。
 兄貴とオレに、と言って布から作ってくれたらしい。

『うんうん。浴衣は夏の風物詩の一つだ。田舎にいる間は浴衣で過ごそう』

 などという始末。
 父さんは甚平。
 母さんは浴衣を着て過ごしている。
 それも婆ちゃんの手作りだ。

『母さんにはできないわね』

 浴衣を見て、母がポツリと呟いていた。
 そういえば、母さんは裁縫が苦手だったな、とそんなことを思いながら、オレは森を抜けて川に辿り着いた。

「やっと着いた」

 太陽の日差しを受けて、オレは川に足を踏み込んだ。
 冷たくて気持ちい。
 浅い川、と聞いていたが、膝下まで浸かった。

「ちょうどいい」

 浴衣が濡れるのも構わず、その場で腰を下ろした。
 胸元まで浸かり、熱の篭った身体を冷やす。
 気持ちよかったが、太陽の日差しが強く、日陰になるところを探そうと周囲を見渡すと。

「だれ?」

 突然、背後から声がかけられた。
 驚いて振り返れば、オレは眼を見張り声をなくした。
 海のように青い大きな瞳。
 太陽の日差しに輝かんばかりの金髪のツインテール。
 白い肌には山吹色の浴衣。

「お前だれだってばよ」

 首を傾げて問う子供。

「………お、お前こそ誰だ」
「オレはナルトだってば」
「ナルト?」
「うずまきナルト」





   〜続きはオフにて〜