□ 15歳と6歳  夢 □










 男が荒々しい息で身体を揺さぶっている。
 それを自分は他人事のように眺めていた。

『へ、へへ、いいぜ。お前、しまりがいいっ』

 理解できない言葉が荒い息とともに降り注がれる。
 ガクガク、と揺れる自分の身体。
 意味を成さない声。
 視界には見知らぬ男。

 ここはどこ?
 わたしはねむっていたはず。
 あたらしいいえで。
 あたたかいいえで。

 なのに。

 このひとはだれ?

「よういちにいちゃ」

 まもりは口唇を震わせて、兄の名を呼んだ。

「よういちにいちゃん、にいちゃん、にいちゃん!」
「まもり!」

 はっと目を覚ませば、心配そうに覗き込む妖一の顔が視界に入ってきた。

「どうした?魘されていたぞ」
「にいちゃ」
「ん?どうした」

 サラリ、と長い指がまもりの前髪を後ろに流す。

 優しい手。
 温かい手。


 そこで、先ほどの見知らぬ男が脳裏を横切った。


 ブルリ、とまもりが身体を震わせる。

「どうした?」
「ゆめをみたの」
「夢?」

 訝しげな顔で問う妖一にまもりは小さく頷いた。

「どんな夢だ?」
「し」
「し?」
「しらないひとがわたしのうえにいて」
「!」
「うごいているの」

 その言葉でまもりの夢を察した妖一は、少女を両腕に抱きしめた。

「よういちにいちゃ」

 温かい腕に包まれて、まもりはボロボロと涙を零した。

 なにもかなしいことはないのに………なんでっ。

「忘れてしまえ」
「にいちゃ」
「忘れろ。まもり」

 わすれる?
 あのゆめを?

「眠れるまでずっと傍にいてやるから」
「にいちゃ」

 少し身体を離し、妖一の親指がまもりの涙を拭う。

「忘れろ」

 そんな夢、と呟きを漏らして妖一はまもりを抱き上げた。
 細くて小さなまもり。
 少しでも力を入れたら壊れそうなほどで。
 妖一は真綿のように優しく抱きしめて自室に足を向けた。

「よういちにいちゃ」
「ん?」
「そばにいて」

 キュと小さな手が妖一の夜着を握り締める。
 妖一はまもりの茶髪に口唇を寄せて。

「ああ、いるよ」

 口付けた。

「お前が願わなくても、傍にいてやる」

 ずっとな。

 妖一の優しい囁きは、まもりに安らぎを与えた。


 その晩から。


 妖一とまもりは同じ布団で眠った。 



 夢はもう見ない





   END



   06/09/05UP