| 男が荒々しい息で身体を揺さぶっている。 それを自分は他人事のように眺めていた。 『へ、へへ、いいぜ。お前、しまりがいいっ』 理解できない言葉が荒い息とともに降り注がれる。 ガクガク、と揺れる自分の身体。 意味を成さない声。 視界には見知らぬ男。 ここはどこ? わたしはねむっていたはず。 あたらしいいえで。 あたたかいいえで。 なのに。 このひとはだれ? 「よういちにいちゃ」 まもりは口唇を震わせて、兄の名を呼んだ。 「よういちにいちゃん、にいちゃん、にいちゃん!」 「まもり!」 はっと目を覚ませば、心配そうに覗き込む妖一の顔が視界に入ってきた。 「どうした?魘されていたぞ」 「にいちゃ」 「ん?どうした」 サラリ、と長い指がまもりの前髪を後ろに流す。 優しい手。 温かい手。 そこで、先ほどの見知らぬ男が脳裏を横切った。 ブルリ、とまもりが身体を震わせる。 「どうした?」 「ゆめをみたの」 「夢?」 訝しげな顔で問う妖一にまもりは小さく頷いた。 「どんな夢だ?」 「し」 「し?」 「しらないひとがわたしのうえにいて」 「!」 「うごいているの」 その言葉でまもりの夢を察した妖一は、少女を両腕に抱きしめた。 「よういちにいちゃ」 温かい腕に包まれて、まもりはボロボロと涙を零した。 なにもかなしいことはないのに………なんでっ。 「忘れてしまえ」 「にいちゃ」 「忘れろ。まもり」 わすれる? あのゆめを? 「眠れるまでずっと傍にいてやるから」 「にいちゃ」 少し身体を離し、妖一の親指がまもりの涙を拭う。 「忘れろ」 そんな夢、と呟きを漏らして妖一はまもりを抱き上げた。 細くて小さなまもり。 少しでも力を入れたら壊れそうなほどで。 妖一は真綿のように優しく抱きしめて自室に足を向けた。 「よういちにいちゃ」 「ん?」 「そばにいて」 キュと小さな手が妖一の夜着を握り締める。 妖一はまもりの茶髪に口唇を寄せて。 「ああ、いるよ」 口付けた。 「お前が願わなくても、傍にいてやる」 ずっとな。 妖一の優しい囁きは、まもりに安らぎを与えた。 その晩から。 妖一とまもりは同じ布団で眠った。 夢はもう見ない END 06/09/05UP |