□ 影を照らす光 □










 外は夜のように暗い。
 昨夜から雨が降り続いている所為だ。

 よく降るな・・・・。
 気がめいるぜ。

 大きな窓から外を眺めて溜息を吐く金の髪と瞳を持つ少年、エドワード・エルリックはイーストシティの清閑住宅街の一角にあるマスタング邸で日々の激務による疲れを恋人とともに癒していた。
 
 窓から目の前のソファへ座って本を読んでいる恋人ことロイ・マスタングへ視線を向ける。

 また・・・・あの瞳・・・・。

 漆黒の瞳は暗い影を落としていた。
 
 あれじゃ文字など頭に入ってないな。

 腰を上げて傍へ寄りロイから本を取り上げると怪訝な瞳をエドワードへ向けて。

「何をする」
「何をするも何も読んでもねーくせに」
「・・・・・」
「また、イシュヴバールのことを考えていたのか?」

 ロイの横へ腰を下ろしそっと頬へ手を寄せる。
 その上から大きなロイの手に握り締められて。

「エドは温かいな」
「ロイも温かい」
「・・・・私は温かくなど・・・・ない・・・・」

 瞼を閉じて顔を俯けるロイの頭を片腕で抱きしめ己の胸へ引き寄せる。

「ロイ」
「雨が降ると否応なしに思い出すよ。彼らの顔を・・・・」
「・・・・」
「泣き叫ぶ女と子供。憎しみ、恐れ、全ての負を赤い瞳にのせて私を睨むイシュヴァールの民を今でも鮮明に思い出せる」
「・・・・」
「そして・・・・彼らを私は焔で」
「ロイ、もうあなたは十分苦しんだ」

 その言葉に頭を左右に振って。

「その上、ロックベル夫妻を・・・・リゼンブールを・・・・」
「ロイ!それ以上自分を追い込むな!!」
「・・・・」
「過去を振り返って後悔しても彼らは帰ってこない。わかっているだろ」
「・・・ああ」
「ウィンリィの両親だって同じだ」

 黒髪へ口付けて。

「償いは今しているじゃないか」
「・・・・」
「過去を振り返ってばかりじゃ先へ進めないぜ」

 それにアンタらしくない。

「エドは・・・・私を軽蔑しないのかね」
「して欲しいのかよ」
「いいや・・・・でも」
「でも?」
「・・・・なんでもない」
「ほら!」

 両手でロイの顔を挟んで上げる。
 黒の瞳は今だに影が潜んでいて。
 エドワードは己のことのように辛くてそっと瞼へ口付けた。

「またそうやって直ぐに溜め込む。悪い癖だぜ、ロイ。オレの前だけでもいいから全てを吐き出せよ。そうしないと仕舞いにロイ自身が」

 駄目になってしまう。

「エドは優しいな」
「ロイにだけだよ」

 優しく微笑みかけて。

「初めてこの瞳を見た時思ったんだ」

 左手の人差し指と中指でロイの瞳の輪郭をなぞる。

「守りたいって・・・・」
「エドワード」
「こんなガキが大の大人を守るなんておこがましいかもしれない。でも」

 真っ直ぐに漆黒の瞳を見つめて。

「心の底から想ったよ。ロイのことだけを・・・・」
「エド」
「二度とこの綺麗な瞳に影を落とさないことを願って・・・・オレはロイの下へきたんだ」

 例え辛いことがあろうとも・・・・。
 苦難が待ち構えていようとも。
 オレはあの日、心に誓った。
 自分の全てを投げ打ってでもロイを守るって。
 それだけの為にオレはここにいるのだから。

「私はエドに甘えてばかりだな」
「オレもロイには甘えてばかりだぜ」
「ではお互い様か」
「うん、そうだよ」

 たくましい両腕が細い腰を抱きしめる。

「有難う、エド。これからも片時も離れずに傍に居てくれ」
「もちろん、ロイが嫌だって言っても離れはしない」

 離れないよ、ロイ。

「少し眠たくなってきた」

 ずるずるっとロイの体がずれてエドワードの膝に頭を預ける。

「ロイ」
「ほんの少しの間だけでいいからこの・・・・まま・・・・」

 言葉が途切れたかと思うとロイから寝息が聞こえてきた。
 顔はとても安らかで。
 エドワードは優しく微笑み黒髪を指で梳いた。

「ロイ、愛している。どんな罪を背負っていても・・・・心から愛している」

 雨が止み重い雲は千切れてその隙間から光がぬれた地を照らす。

 眩しそうに目を細めてエドワードはロイの心もそうであって欲しいと心から願った。 





   − 終 −



   04/01/25UP