□ 手足の代わりに得たもの 5 □










 シンと静まり返った車内にエンジン音が二人の鼓膜を叩く。
 チラリと隣に座るロイに視線を向ければ眉間に皺を寄せ目蓋を閉じ胸の前に両手を組んでいる。
 
 あ〜あ、端正な顔が台無しだな。
 つか。
 もしかして、これが初めてじゃねーのか?
 コイツの顔をまともに見るのは………。

 そう思うや否やエドワードはロイに体を向け座りなおした。

 ああ、やっぱり顔は整っている。
 硬そうな髪。
 でも、綺麗だな。
 触ってみたい。
 そういえば、目も黒か。
 確か、黒曜石のようにとても綺麗で輝いていた。
 見てみたいけど目を閉じてるし。

 口をへの字にしてじっと睨むように見詰めていればロイが小さな吐息を漏らした。

「言いたいことがあるならいいなさい」
「目を開けて」
「目を?」

 ゆっくりと目蓋が上がりエドワードに視線を向けると同時にロイは驚愕に目を見開いた。

「な、なななな」
「なにどもっているんだよ」
「どもりもする!前を向きなさい!!」

 エドワードの顔を前に向かせようとする両手を反対に捕らえられて。

「なんで?」
「なんでって」

 キョトンとした顔で問うエドワードにロイは言葉を詰まらせ思考を巡らせていると。

「ロイって端正な顔をしているんだな」
「?!」

 困惑しているロイを余所にエドワードはペタペタと顔に触れた。

「エ、エドワード」
「ん?」

 脱力したロイが名を呼べばエドワードは嬉しそうに笑った。

 可愛い―………じゃなくて!

「キミは一体何をしたいのかね」
「ロイの顔を見て、触れたい」
「男の私の顔をかね」

 女性ではなく?

「ロイ以外の男に興味は無い」
「―………その発言は余り頂けないな」
「そうか?」
「そうだよ」

 そうかな、と言いながらエドワードはロイの目元を指先で何度も何度もなぞった。

「綺麗な瞳だな」
「そうかい?」
「うん。黒の中に光がある」
「光、かね」
「うん。とても温かくそして」

 悲しい光―………。

「エドワード?」

 悲しげな瞳を向けるエドワードにロイは怪訝な顔で名を呼んだ。

「ね。アンタの傍にいてもいい?」
「エドワード」
「ロイの邪魔はしない。だから、オレをアンタの傍においてよ」

 目元をなぞっていた指をロイの頬に下ろし、エドワードはトンと額を男の胸にあてた。
 サラリと金糸が前に流れる。
 ロイは誘われるようにその髪に指を絡ませた。

「何故、私の傍にいたい?」
「理由は言わないといけない?」
「言えないのか?」
「そんなことはないけど」
「けど?」
「聞かないほうがアンタの為だよ」

 ニカッと笑うエドワードをロイは訝しげに見下ろした。

「いいじゃん。利用できるものは利用しておくことに越したことは無いだろう」
「馬鹿を言うな。子供を利用するなど私はそこまで落ちぶれてはいない」
「じゃ、文献目当!」
「なに?」
「国家錬金術師しか拝読できないという論文や本を見たいから」
「今まさに思いついた理由だな」
「いけない?」

 上目遣いに見詰めてくるエドワードにロイは盛大な溜息を吐いた。

「―………いいだろう」
「ロイ」
「国家錬金術師に推薦してやろう」
「本当?!」
「ああ」
「じゃ、じゃ、試験が受かったらロイの傍にいてもいいんだよな?!」

 目を輝かせ身を乗り出すエドワードにロイは頷いて。

「但し、キミが二十歳になるまでは私の邸で居候だ」
「マジ?やったー!」

 願ったり叶ったりだ!と喜ぶエドワードをロイは複雑な眼差しで見詰めた。

 男と一緒に暮らすことがそんなに嬉しいのか?
 でも。
 弟がいたらこんな感じなのだろうな。

 穏やかな笑みを見せロイはエドワードの頭を撫でた。
 そうして。
 二人を乗せた車は邸に着いた。

「幽霊屋敷」

 車から降りた早々、エドワードが目を見開くなり冒頭の台詞を口にした。

「言われてみればそうだな」
「そうだなってそのままだろう」

 手入れがされていない庭。
 邸の外壁にはつるがまきついている。
 とてもじゃないが、人が住んでいるとは思えない。

「この邸には先週引っ越してきたばかりなんだ」
「ふぇ?」

 引越し?

「今までアパート暮らしだったのだが、書物が増えてね。それで仕方なく一軒家を購入した」

 高い鉄の柵を潜り、草が覆い茂った庭の間を突き抜けた先に大きい厳寒のドアが見えた。

「ジャングルだな」
「うむ。いい例えだ」

 や、別に例えてねーし、と胸中で突っ込みながらエドワードはロイの後を追った。
 玄関を潜り中に入れば。

「前言撤回。幽霊屋敷じゃなくてゴミ邸だ」
「失礼だな」
「じゃ、このザマをなんていえばいい!」

 廊下はダンボールで埋め尽くされ、その上リビングはゴミの山だ。

「掃除をする暇がなくてね」

 微笑するロイにエドワードは頬を引きつらせて。

「ちょっと聞くけど」
「ん?」
「アンタ、もしかしなくても家事全般は―………」
「ああ、駄目だな」

 はい。
 オレの初仕事決定!
 錬金術の勉強でもなく。
 この男を口説き落とすでもなく。

 大掃除だ!!!





   - 続 -



   05/06/11UP