□ 手足の代わりに得たもの 3 □










退院したエドワードとホーエンハイムを駅まで見送ったヒューズは肩から溜息を吐いて。

 まったくアイツはあんな子供まで魅せるとは・・・・我が悪友ながら・・・・恐るべしつーか節操無いな〜。

 さてと。 

 気を取り直してその本人の所へ行くとしますか。

 自分の仕事場である東方司令部へ足を向けた。





「いよう!元気に仕事をしているか」

 執務室に入るや否や明るい声を張り上げて書類と格闘している上司であり悪友であるロイ・マスタングへ声をかける。

「貴様も仕事をしろ」

 書類から目を離さず言うと。

「オレの仕事はお前の書類の中だ」

 だから早く終わらせろ!といわんばかりに椅子を引き寄せ腰を下ろす。

「早く終わらせて欲しければ邪魔をするな」
「ははは、構って欲しい癖に」
「寝言は寝て言え」

 眉間に皺を寄せて吐き捨てるように言うロイにヒューズは周囲を見渡しそっと顔を寄せて。

「今朝エドワード・エルリックが退院した」

 その言葉に息を詰めてヒューズへ視線を向ける。

「もう・・・・動けるのか・・・・」
「ああ、そりゃもう元気だったぜ〜。で、ついさっき父親と一緒にリゼンブールへ帰った」
「そうか」

 どこか安堵した顔を見せて再び書類へと視線を向けた。

「ホーエンハイムが礼を言っていたぞ」
「礼を言われることなど何もしていない」
「そういうな、受取っておけ。あと」
「早く言え、こっちは忙しい」
「エドワードが来年、国家錬金術師の試験を受けに来る」

 言葉と同時にグシャと書類を握りつぶして今度は驚愕を露にした顔を上げるとヒューズは真剣な眼差しで見詰ていた。

「な、何故・・・・」
「さぁな」

 フッと笑みを漏らして。

「お前さんに魅せられたのかもな」
「?」
「ま、エドは優秀な国家錬金術師になるぜ。なんせあのホーエンハイムの息子だからな〜」
「だが、あの子はまだ」
「子供だな。心は大人と変わりないが」
「・・・・受ける訳を知っているな」

 ヒューズの言葉に眉間の皺を増やしてロイが問いただす。
 それを笑い飛ばしヒューズは腰を上げた。

「来年、お前の下へエドがくることは間違いない。ちゃんと面倒見てやれよ」
「お、おい!ヒューズ!!」
「仕事早く終わらせろ!こっちは暇でしょうがねーや」

 ヒラヒラと手を振って執務室を後にするヒューズの背を見送り、胸中で嘆息し書類へ視線を戻した。

 あの小さな子が国家錬金術師に・・・・。
 確かに。
 ホーエンハイム・エルリックといったら錬金術師ならば知らないものがいない程の有名人だ。
 錬金術の教科書とまで言われている。
 その逸材を軍が見逃すはずもなく何度も好条件で誘ったにも関らず当の本人は断り続けた。 
 理由は『面倒』その一言。
 変わり者だと軍部で噂になった程で・・・・。

 だが、ま。

 ヒューズが見せてくれたエルリック親子の写真を見たらなんとなくだがわかった。
 美人で容姿端麗な妻に可愛い息子達。
 軍に入隊しいつ己の命が危機に見舞われるかわからない所へ行かされるよりは喉かで温かい家族に囲まれてマイペースに研究をした方が合うと判断したのだろう。
 研究の為に家族を犠牲にする必要は無い。
 
 最後の書類へサインをし、腰を上げ目の前にいる女性へと声をかけた。

「ホークアイ中尉、全ての書類へ目を通しておいた」
「お疲れ様です」
「この後の予定は」
「十五時から会議です」

 今は十三時か。

「それまで休憩を貰うよ」
「はい、お気をつけて」

 書類を腹心のホークアイ中尉に任せてロイは執務室を後にした。
 廊下で下士官等に敬礼されながら外へ一歩踏み出す。

 温かい。

 冬が過ぎ去り春が来て街の人々も服装が徐々に変わっていった。
 分厚いコートから軽いジャケットへ。

 そろそろ衣替えの時期か。
 今度の休みにクローゼットの整理でもするかな。

 温かい風が通り過ぎ真っ青な空へ顔を上げる。

 来年、あのおチビがくる・・・・か。
 しかも。
 村を焼き払った私の下へ・・・・。

 自嘲気味に笑って。

 父親が断り続けた国家錬金術師になるという。

「一体何を求めて国家錬金術師になるというのか」

 あのおチビさんは・・・・。
 
 温かい風に背を押されてロイは街へくりだした。   





 




 イーストシティから二日かけて一ヶ月半ぶりにリゼンブール帰ってきたエドワードは驚愕した。
 
「凄い・・・・元に戻っている・・・・」
「まだ完全とはいかないけれどね。皆寝る間も惜しんで村を復興させたんだよ」

 それに、と付け足して。

「軍から支給もあったしね」
「軍から?」
「ああ、きっとマスタング大佐が根回しをしてくれたんだと思う」
「思う?」
「支給してくれた人の名は伏せてあったからな」

 感だ!と胸を張って言うホーエンハイムの腕に抱かれているエドワードは苦笑した。
 
「さ、早く我が家へ帰ろう」
「う、うん」
「何だ?歯切れが悪いぞ」
「だ、だって・・・・」
「自分で決めたことだろ?」
「うん」
「もし、アルフォンスや母さんが反対してもなると決めたことだ。今更くよくよと悩むな」
「うん!」
「よし、帰るぞ」

 力強く頷くエドワードの頭に大きな手が優しく撫でる。



 家に帰りつき、エドワードを温かく出迎えたトリシャとアルフォンスに。

「大事な話がある」

 真剣な眼差しを二人へ向けて言った。
 トリシャとアルフォンスは不思議そうに眺めつつも居間に移動した。

 それから数分後。

 ホーエンハイムの腕から椅子へと移ったエドワードは口を開いては閉じての繰り返しで。
 トリシャは不思議そうに首を傾げエドワードの後ろにいるホーエンハイムへ視線を向けると肩を竦め一歩前へ出てポンと小さな背中を押した。
 まるで勇気を押し出せと言わんばかりに・・・・。
 
 父さん。
 そうだ、オレは決めたんだ。
 
 二人を真っ直ぐに見つめて口を開けた。

 そして。

 予想通り額に青筋をたてたアルフォンスが。

「ぜっーーーーたいに駄目!!」

 外にまで聞こえる大声を上げて目の前で縮こまる兄・エドワードを睨みつけた。

「国家錬金術師なんてとんでもない!絶対に駄目!!」
「でも、オレはどうしてもならなければいけないんだ!」
「どんな理由があろうとも駄目ったら駄目!」
「アル!」
「まぁまぁ二人とも落ち着きなさい」

 それまで二人のやり取りを見守っていたトリシャが優しい声で宥めた。

「で、でも!」
「アル、理由も聞かずに頭ごなしに反対は駄目よ」
「だって、お母さんも知っているでしょ!国家錬金術師またの名を軍の狗。戦争がおこれば否応なしに参戦しなければいけないんだよ」
「ええ、知っているわ」
「だったら!」
「それでもエドにはそれなりの理由があるはずよ。ね、エドワード」

 優しい微笑みを見せてエドワードへ顔を向けるトリシャに頷いた。

 父さんや母さん、アルに反対されてもなるって決めた。
 アイツの為に!

「エド、国家錬金術師になりたい理由を教えて頂戴」

 ニッコリと微笑みながら問うトリシャにエドワードは真っ直ぐに見詰て。

「守りたい人がいる」
「それは資格を取らないと駄目なの?」
「うん、アイツの傍に行くにはどうしても国家錬金術師になるしかないんだ」
「アイツ?」

 首を傾げて問うトリシャにエドワードは言葉を詰まらせ仄かに頬をピンクに染めて瞳を泳がせる。

「エド」
「・・・・ロイ・マスタング大佐・・・・」
「エドを助けてくれた方ね」

 コクンと頷いてそろそろっと目線をトリシャへ向ける。
 トリシャは変わらず優しく微笑みを見せてエドワードの頭を撫でる。

「そう、じゃ頑張って錬金術の勉強をしないといけないわね」
「か、母さん、反対しないの?」
「して欲しいの?」

 フルフルっと頭を左右に振って。

「なら私は応援するだけよ」
「か」

 母さん、有難うと言おうとした。
 その時。
 やり取りを見守っていたアルフォンスが声を張り上げた。

「お母さん!駄目だよ!!」
「アル」
「応援なんて何で!」

 悲痛な顔でトリシャに訴えるアルフォンスの頭を優しく撫でて。

「だってエドは頑固だし言い出したら聞かないし」

 父親そっくりよね〜とぼやくと苦しい咳払いがエドワードの背後から聞こえてきた。

「それでも!」
「それに、守りたい人が出来たのならそれを止めるすべなんて私達には無いのよ」
「どういうこと?」
「そのうちアルにもわかるわ」

 ね、と宥めるトリシャにアルフォンスは訳がわからないといわんばかりに顔を剥れさせる。

「きっとエドのことだからアルが反対しようとも来年になればセントラルに行って試験を受けるわよ」
「!」
「アルフォンス」
「・・・・ボクはどうしたらいいの・・・・」
「見守ってやりなさい。それがエドの支えになるから・・・・」

 アルフォンスを両腕で優しく包み込んで。

「お母さん」
「アルの気持ちお父さんもお母さんも同じよ。でもね、誰もエドが進む道を塞ぐことなどできないのよ」
「でも!」
「大丈夫!私たちの子はとても丈夫にできているもの」

 「だから」と満面の微笑みを向けてトリシャはアルフォンスを促す。
 アルフォンスはトリシャからエドワードへ視線を向けて。

 ああ、そうだね。お母さん。
 兄さんの瞳には決意という名の焔が点っている。

「わかったよ、ボク兄さんを見守る」
「アル!」
「偉いわ、アルフォンス」
「兄さん、試験頑張ってね」
「おう!任せておけって。オレの溢れんばかりの才能を軍にみせしめてやるぜ!!」

 やっと二人に笑顔が戻り胸中で安堵したトリシャの肩にポンと手を置かれて振り向くとそこには最愛の夫・ホーエンハイムが立っていた。

「あなた・・・・本当は不安だわ」
「ああ、私もだよ」
「でもあの子はもう自分の道を決めたのね。また十一なのに・・・・」
「寂しいな」
「ええ、でもそれは半分。もう半分は嬉しいわ」
「どうしてだい?」
「フフ、言ったらあなたが卒倒するから言わない」

 人差し指を唇に当てて微笑むトリシャにホーエンハイムは首を傾げる。
 
 卒倒ってどういう意味だ?

「さ、来年まで存分にエドの温もりを感じておかないと」
「何故だい?」
「だって国家錬金術師になったら早々帰ってこれないでしょ」
「受かると決まってないのに?」
「受かるわ。だってあなたの子だもの」

 優しく微笑みそっとホーエンハイムの胸へ頭を預ける。

「エドの分まで私がお前を抱きしめてあげるよ」
「あなた」

 既に二人の世界へいった両親にエドワードとアルフォンスはまたかと呆れつつもそんな二人がとても温かく見えて。

「いいな、互いを想いあい支えあうって・・・・」
「兄さん?」
「羨ましい」
「・・・・」

 何故か。
 お父さんとお母さんを見つめる兄さんがとても遠くにいる気がした。
 前と変わりないのに・・・・。
 何故だろう・・・・寂しい・・・・なんて・・・・。

「エド、明日から特訓だぞ」

 いつの間にか。
 二人の世界から舞い戻ってきたホーエンハイムに声をかけられて。

「おう!」
「それと同時に機械鎧をつける。時間が余り無いからな。やれるか?」
「やってやるさ!」

 それでロイの下へ行けるなら。
 何でもやってやる。

 その日からエドワードの地獄が始まった。
 機械鎧をつけるには大の大人でも悲鳴を上げるという。
 だが。
 エドワードは悲鳴のひさえ上げなかった。
 そのことに機械鎧のエキスパートであるピナコ・ロックベルは大変驚かされたとか。
 ホーエンハイムのスパルタも根を上げずに毎日寝る間も惜しんで励んだ。
 ただ一人を想って。
 



 
 それから一年。





 金の髪は肩までのび三つ編みで纏めて、上下ともに黒い服を着たエドワードがカバンを片手に家を出た。
 その後に続くようにアルフォンス、トリシャ、ホーエンハイムが見送りに出てくる。

「エド、忘れ物ない?」
「ないよ、母さん」
「頑張ってこい」
「うん、父さん」
「兄さん、絶対受かるよ」
「サンキュ、アル」

 キュっと唇を引き締めて。

「じゃ、いってきます!」
「「「いってらっしゃい、気をつけて」」」

 家族に背を向けて片腕を上げる。
 まだ雪が残る道を踏みしめてエドワードは真っ直ぐに前を向いた。

 行く先はイーストシティ。
 ロイ・マスタング大佐の下へ・・・・。





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   04/1/23UP