□ 続・目を背けることができない真実 3 □










「あああ、もうあの店にいけねー」

 つか、行きたくもない!

 ズンズン、と怒りを露に歩くエドワードの背後からクスクスと楽しそうに笑っているのは。

「ロイ!お前の所為だぞ!」

 振り返り、エドワードは睨み付けながら怒鳴った。

「私の?私は何もしていないよ」
「しただろ!店であ、あああ、あんなことをっ」
「あんなこと、とは」

 すっと流れるような動きでエドワードに歩み寄り、後頭部に片手を回し、耳元に口唇を寄せて。

「綺麗にするよ」

 低いテノールで囁き、耳朶を食した。

「っつ!」

 ぎゃああああ!

 胸中で雄叫びをを上げてるも、声には出来ず、エドワードは身体を硬直した。

「ほら、また固まって、普通は顔を赤くして喜ぶところだぞ」
「よ、よよよよよ、喜ぶわけがないだろう!」

 馬鹿!と青い顔で悲鳴のように怒鳴るエドワード。
 そんな彼女にロイは楽しそうに目を細めて。

「本当にエドワードは可愛いな」
「お前、本当に眼科に行け!で、視力のあった眼鏡を買って来い」
「失礼だね。私は両目とも2.0だよ」
「………だったら趣味が悪いんだ」
「それこそ失礼だな。私は趣味なんて悪くないよ」
「悪くなければ、オレを可愛いなんて言うわけがない」
「キミは―………」

 ロイは盛大な溜息を吐いて。

「何度も言っているだろう。エディ自身はダイヤの原石だと」
「んなことを言っても」
「信じられない?」

 口唇を尖がらせるエドワードを真っ直ぐに見つめて問えば、コクン、と頷いた。

「やれやれ、この姿を見ても信じられないとは」
「こ、これは………偶々だ」

 総レースは嫌だと拒否して、それではとロイが持ってきた服は白のキャミソールに青のシフォン素材のブラウスにサブリナデニム。
 足は白のサンダル。
 着てきた服と靴はロイが肩から下げている紙袋の中。
 その中には、ロイが見繕った服も数着入っている。
 支払いはロイがした。
 しかもクレジットカードだぞ!
 何で狼のくせに、そんなものを持っているんだよ。
 オレでも持っていないんだぞ!
 (エドワードはニコニコ現金払い主義である)

「偶々ではないよ。エディだから似合うんだ」

 言い切るロイに、エドワードは思わず赤面をした。

「ば、馬鹿いうな!」
「おや、照れているのかい」
「五月蝿い!」
「可愛いな。エディは」
「可愛くなんてない!」

 赤い顔で言われても信憑性がないな〜とロイは言いながら、エドワードの腰に片腕を回して歩き出した。

「ちょ、この腕!」
「人が多いからね」

 逸れないように、とまたもや耳元で囁くロイに、エドワードは思わず、肘でロイの腹に一撃食らわしていた。

「っつ」

 身体を前倒して、痛そうに顔を歪めれば、エドワードは慌ててごめん、と謝り大丈夫かと心配そうに聞いてくる。
 そんな彼女を横目に、ロイは胸中で笑った。

「本当にキミは」

 可愛くて優しいな〜、とロイは両腕でエドワードを抱きしめた。

「ちょっ」

 バタバタ、と暴れるエドワード。
 それでも先ほどのことを気にしているのか。
 本気で抵抗しないエドワードに、ロイは楽しそうに笑った。

 そして。

 ああ、いいことを思いついた。

「エディ」
「な、だ、だから耳元で」
「いいことを思いついたよ」
「は?」

 ロイはエドワードを少し離し、エドワードを見つめてニッコリと笑った。

「キミが磨かれていく姿を、写真に収めよう」
「?!………は」
「だったら、エディも自分の本当の姿がわかるだろう」
「い、いや、オレは写真嫌いだし」
「?………カメラマンだろう」
「そ、それは相手を撮るのは好きだけど、自分が撮られるのは嫌いなんだ」
「そうか」
「うん」
「じゃ」

 ロイは更に笑顔を増して。

「好きになってもらうしかないな」 
「?!」
「携帯のカメラでもいいが、やっぱりデジカメの方がエディを綺麗に撮れると思うし」
「ちょ、ちょっと」
「エディ、デジカメは持っているかね」
「そりゃ持っているけど」
「じゃそれを貸してもらえるかな?」
「だ、駄目だ!貸したらオレを撮るんだろう」
「そうだよ」
「駄目だ。絶対に駄目!」
「じゃ仕方がない」

 肩から荒々しい息を吐くエドワードに、諦めな雰囲気を見せるロイに安堵しつつも、次の言葉で目の前が真っ暗になった。

「じゃ次は電化製品の店に行くぞ」
「は?」
「デジカメを貸してくれないなら、買うしかないだろう」

 な、なに〜〜〜〜!!

「さ、エディ行くぞ」
「い、行くぞって、そんな勿体ない」
「勿体なくなんてないよ。エディの素晴らしさをおさめることが出来るなら」

 できるならって。

「それを見て、エディに二度と自分を卑下するような言葉を言わせない」
「!………ロイ」

 真摯な漆黒の眼差しを向けられて、エドワードは反抗が出来なかった。

 そんなにオレって魅力的なのか?
 小さい頃からブスだの、ネクラだの、言われていたオレが………。

「さ、エディ」
「ちょ、ちょっと待て!わかった。オレのデジカメを貸してやるから、つーか、やるから」
「エディ!」

 歓喜に満ち溢れたロイの笑顔。

 何でそんなに喜ぶんだ?

 疑問に思いながらも、エドワードの胸にはほっこりと温かい何かが満たしていた。

「ほら、もういいだろう。帰るぞ」
「駄目だよ」
「は?」
「次は美容院だ」
「は、はぁ?!!」
「私の腕は確かだが、徹底的にしてもらうにはプロが一番だ」

 再度、エドワードの腰に片腕を回して。

「行くぞ!」
「う、うっそだろー」

 いーやーだー、と嫌がるエドワードを抱き抱えながら、ロイは街の中を歩いていった。



 そうして。



 その日は徹底的に、磨かれたことは言うまでもない。
 髪、爪、美顔などなど。
 振り回されるだけ振り回されて、家に帰ってきたのは夜十時。

「つ、疲れた〜〜〜」

 もう動かないぞ、とリビングのソファに沈んでいると。

「エディ」

 呼ばれて、振り向けばシャッター音。

 な?!

「フム、疲労が露な顔だね」
「あ、当たり前ってロイ、何処から取り出してきた!」
「取り出すも何も、エディのカメラのバックに入っていたよ」
「!」
「勝手に拝借して悪いと思ったが、早く今日のエディを撮りたくてね」

 口を金魚のようにパクパク開閉しているエドワードにまたもやカメラのレンズを向けられてシャッターが落とされた。

「ああ、携帯のカメラにもエディの写真を収めておこう」
「ちょ!」
「待ち受け画面にして持っておくよ」
「な!」
「もちろん、毎日差し替えるから」
「ちが!」

 パシャリ、と携帯のカメラに撮られて。

「今日からエディをこのデジカメと携帯のカメラでしっかりと撮っていくよ。キミがいかにダイヤの原石だったのか証明するためにも」
「っつ!」

 ロイはそれはそれは綺麗な笑顔を見せて。

「楽しみにしておいで。エディ」

 できるかー!

 っていうか。
 オレはまだ一枚だけしかロイの写真を撮ってないのに、ロイはオレの写真を数枚も撮っている。

 プルプルと身体を震わせて。

「ロイだけズルイ!オレも撮る!!」

 撮られる嫌悪感は何故かなかった。
 それよりも、カメラマンとしての血が騒いで、結局二人して互いを撮りあって夜が更けていった。



 翌日、お互いが寝不足だったのは言うまでもない。





   − 続 −



   08/06/27UP