□ 同じ時を共に □










 ロイが殺された。










 ウロボロスとの戦いに勝ち、エドワードは人体練成を行った。
 軌跡のようにエドワードは腕と足が戻り、アルフォンスは肉体を戻した。
 但し十歳の姿で五年間の記憶も無かった。
 そのことに胸を痛めながらもエドワードはアルフォンスとロゼにリゼンブールへ向うよう言い自分は中央司令部に向った。
 愛しい人とともに喜びを分かち合う為に………。

 だが。

 それは叶わなかった。

「な、何で大佐が?!」

 中央司令部に着いて出迎えてくれたのはホークアイ中尉。
 白い包帯がとても痛々しく目に入った。
 だが。
 エドワードが一番気になっていたのはロイのことだ。
 姿がないことに尋ねれば「死んだ」の一言。

「ブラッドレイを殺して玄関まで出てきた所で………アーチャー大佐に銃を向けられて………」

 気力、体力ともに使い果たしたロイは避けることもかわすことも出来ず銃弾を受けたというのだ。

 そ、そんな………。

「そんなこと信じられるか!」
「エドワード君」
「大佐がそんな簡単に死ぬわけがないだろう!!」

 悲痛な声で叫ぶエドワードにホークアイは沈痛な面持ちで顔を逸らした。
 その仕草でエドワードは頭を弱弱しく左右に振る。

「大佐は何処だ」
「霊安室よ」
「場所しらな」
「この廊下の突き当たり」

 エドワードの言葉を遮りホークアイは何かを振り切るように言った。
 コクンと唾を飲み込みエドワードは駆け出した。


 大佐、大佐、大佐、ロイ!!


 重い足に叱咤しながら暗く冷たい廊下を駆け抜け、重苦しい扉の前に立った。

「っつ」

 小刻みに震える両手で扉を開け、視界に入ってきたのは真っ白なシーツに覆いかぶされた横たわった死体。

 ロイ………。

 一歩、一歩ゆっくりと歩み寄り、白いシーツを捲ればそこには見知った。
 否。
 見慣れた顔が真っ青な顔であった。

「っつ!!」

 言葉が出なかった。

 うそ、うそだ。
 うそだ、うそだ、うそだ!!

 胸中で否定しながら眦からは涙が零れ落ちる。
 頬を両手で挟む。
 ひんやりとした冷たい感触にエドワードはすぐさま手を離した。

 なんで?
 どうして?
 別れる時に言っただろう。


『また、後ほど』


 そう、耳元で囁いてくれたじゃないか!
 言った本人が、本人が!


「死んでんじゃねーよ!!!!」

 
 ロイの胸元をかき抱いて顔を埋め泣いた。


「何を勝手に死んでるんだよ!オレは生き残ったぞ!!アンタの言うとおり約束を守ったんだぞ!!!なのに、なのに、アンタがっ……バッカヤローーーーーーー!!!!」


 霊安室に響き渡る悲痛の叫びに答えるかのようにロイの肉体が金色に光り出した。

「な?!」

 なんだ?!!

 − ヒトリニナド……シナイ −

「え?」

 脳に直接伝わる声にエドワードは目を見開いた。

 この声は。

「ロイ!」

 − ワタシハココニイル −

「何処だ!」

 − トビラノ……ムコウ…… −

「!!!」

 ま、まさか。
 真理の向こう側に?!!

 − エディ………アイタイ −

「オレもだよ!」

 − キテ −

「!」

 − コチラニ…… −

「ロイ……」

 − ワタシノサイゴノワガママ −

「何処が我侭だよ」

 − エディ −

「いってやるよ」

 − イイノカイ −

「来いって言ったのはロイだろ」

 − オトウトガカナシムヨ −

「アルは大丈夫。肉体も戻ったしオレがいなくても幸せにやっていけるさ」

 五年の記憶が無くてもアイツの周囲には温かい人がいる。

 でも。

 オレはアンタ無しでは駄目だから………。
 ロイが向こう側に居るなら行くだけだ。

「今度こそオレを放って何処かに行くなよ」

 − イカナイ −

「ずっとオレの傍に居ろよ」

 − イルヨ ワタシノ エディ −

「その言葉忘れるなよ」

 パンと両手を合わせ、ロイの身体に触れる。
 するとより一層、ロイの身体が光を帯びエドワードを包み込む。
 目蓋を上げれば黒い門。
 重々しく開きエドワードを吸い込むように飲み込む。
 門の向こうにある一筋の光に向って………。










「……ィ……デ………エディ」

 頬を軽く叩かれてエドワードは目蓋を震わせながら上げた。
 ぼやける視界に入ってきたのは潤んだ漆黒の瞳。
 整った顔。
 優しく心地いい声。

「ろ……い……」
「ああ、エディ!」
  
 歓喜に打ち震えたロイがエドワードを抱きしめる。
 その温もりにエドワードは両腕をロイの背中に回す。

「ロイ」
「エドワード!」
「ロイィ!」

 お互いの温もりを確かめ合うかのように抱き合った。
 だが。
 それだけでは足りなくてロイか顔を上げ、エドワードの顎を掴み口唇を重ねた。
 最初から貪る接吻。
 舌を絡め吸い上げる。
 エドワードはそれを素直に甘受した。
 
「んっ……ふぁっ」

 息も唾液も飲み込むような接吻に酔わされながらロイはエドワードを押し倒した。
 二人を包み込むように二人を受け止めるベット。

 柔らかい?

 そのことにエドワードは奪い取られていた思考を回し始め、ロイに退くよう背中に回した両手を叩き訴える。
 渋々、口唇を離したロイは不機嫌そうにエドワードを見下ろして。

「なんだね」
「なんだね、じゃ、ねーってここ何処?」
「扉の向こう側」
「や、それはわかってる」

 そうじゃなくて。

「エルリック氏のアパートかな」
「エルリック氏って親父の?!」
「そうだよ」

 エドワードは目を見開き周囲を見渡す。
 二人が横たわっているベット、扉の横に小さなタンス。
 ベージュの壁に床は木が張られている。

「ここは私に宛がわれた寝室だよ」
「ロイに?」
「ああ」
「親父は?」
「出かけている。今日は帰ってこないと言っていた。ついでに五体満足だよ」
「?」
「キミの身体」

 ロイに言われてエドワードは両手と両足に視線を向けた。

「なんで?」
「人体錬成をしたわけではないからだろうとエルリック氏は言っていた」
「そ、そうか」
「あと」
「?」
「キミは完全にこちら側の人間になった。ま、私もだが」
「!」
「あちらに戻ることはもう出来ないそうだ」
「ロイも?」
「ああ、私もだ」

 そっか。
 こちら側のロイはもう死んでいたのか。

「エディ」

 そっとエドワードの頬を撫で上げて。

「後悔はしていないかい?」

 辛そうな顔で問うロイにエドワードは苦笑を漏らした。

「するわけがないだろう」
「しかし」
「オレは」

 ロイの言葉を遮り、背中に回していた両腕に力を込めて引き寄せた。

「ロイさえ傍にいてくれればいい」
「エディ」
「アンタ以外、いらない」
「私もだよ」
「野望は?」
「ブラッドレイを殺すとともに焼き払った」

 ヒューズの弔いの為にロイは野望を焔で燃やし尽くした。

「ヒューズのおっさん、呆れているかな?」
「きっとね」

 クスリとロイが笑う。
 それに釣られてエドワードも笑みを漏らした。


『馬鹿だな〜お前ら』

 そう言葉にしてからニカッと笑って。

『ま、らしいちゃらしいけどな』

 と天国で言っていることだろう。
 

「だが」
「だが?」
「こちら側はあちらと違って錬金術が使えないのが不便だが宝の山だ」
「宝?」
「あちら側に無かったもの見たことが無いものが当たり前のようにある」

 そう言ってロイは漆黒の瞳を輝かせ窓の外に視線を向けた。

「好奇心旺盛だな」
「エディもだろう」
「まぁね」

 二人が見合って笑みを漏らす。

「でもその前に」

 チュとエドワードの口唇を掠めるように口付けて。

「エディが欲しい」
「!」
「こちらに来てもう二度とキミには会えないと思っていたから………夢じゃないということを確かめさせてくれないか」
「いくらでも確かめろよ。オレもロイを感じて確かめたい」

 ギュっと両腕に力を込めるエドワードに答えるかのようにロイも抱きしめる腕に力を込めた。

「ロイ、これからはずっと一緒だ」
「ああ」


「「一生」」


 はもったことにまた笑いが込み上げてきた二人はどちらともなく口唇を重ね、ベットに沈んでいった。



 知らない世界。



 未知数の世界。



 それでも。



 貴方さえ傍に居てくれれば幸せだから………。





 同じ時を共に。





   END



   04/10/21UP






アニメの最終回では余りにも現実逃避したくなりまして、号泣きしながら原稿をしつつ「最終回でロイエドラブじゃ!!」と訳がわからないことを言っておりました。
で、今回書き上げた次第です。
本当に自分の世界に走っております。
「どうしてロイが向こう側に?」という問い合わせはご遠慮願いします。
妄想だけで書きましたので(^^;)
楽しんで頂ければ幸いですvv