□ ぬくもりを味わって □










今日は年に一度のバレンタイン・デー。
 女の子は頬を赤く染めて可愛くラッピングされたチョコレートを両手に愛しい 人へ 告白する為、または過ごす為に胸を膨らませる。
 それは男の子も変わらない。
 いつもらえるか、今年はくれるのかと思いを馳せて体中をソワソワさせて落ち 着き が無い。
 毎年のお祭り。
 毎年の光景。
 オレには関係ない。
 無縁のことだと思っていた。

 去年までは・・・・。
 今年は訳が違う。
 オレも男だから貰う方なのだとは思うが、相手が相手だ。
 貰うことはないだろう。
 でも。
 オレがあげる立場では・・・・あるかもしれない・・・・。

 盛大な溜息を吐いて。

 面倒だな〜。
 街中がチョコレートの匂いで充満している中、金髪の髪と瞳を持つ少年ことエ ド ワード・エルリックはさてどうしようかといわんばかりに雲に覆われている空を見上げた。
 賢者の石を求めて放浪の旅をしているエルリック兄弟はたまたま昨日の夕方にイーストシティへ着いた。
 本当にたまたまだったのかと問われるとNOである。
 兄といつも世話になっている大佐のことを思い弟ことアルフォンスはセントラ ルへ行く汽車で熟睡していたエドワードを起さぬように抱いてイーストシティ汽車に乗 り換えたのだ。
 本当に気のきく弟である。
 そして。
 そのことにはまったく気づかず汽車を乗り間違えたのだとアルフォンスの言葉を信じたエドワードは今現在にいたる。

 しっかし何で汽車を乗り間違えたんだろ。
 今までこんなこと無かったのにな〜。

 今更考えても仕方が無いことを脳裏がよぎる。

 ま、いいや。

 どうせセントラルに行ったところで見たい文献があるわけじゃないし、それに アル も休もうとか言ってたしな。
 うん、今日ぐらいは・・・・ってその今日が問題なんだろ!オレ!!

 そう、今日は二月十四日。
 バレンタイン・デーなのだからやっぱりあげないといけないんだろうな〜。

 チラッと右手にある店へ視線を向けると女性がこれでもかといわんばかりに群がっている。  

  なんだかバーゲンセールの時みたいだ。

 セントラルに行った際、ヒューズの愛妻・グレイシアに付き合ってデパートへ行ったことがあった。
 その時、何かのバーゲンセールだとかで女性の群れに揉みくちゃにされるわ蹴っ飛ばされるわで酷い目にあったことを思い出して。

 や、やっぱり買うのは後にしよう。

 すごすごとその場を後にしたもののあの群れは今日中に引かないだろうと言うことは何となく分かっていたエドワードはまたもや溜息を吐いた。

 どうしよう。
 どうしよう。
 どうしよう。

 悩みに悩みながら着いた先は東方司令部。

 あ〜〜〜無意識って怖い。

 自分自身に呆れながら正門で佇むエドワードにポンと頭に手が置かれ一瞬驚き とと もにビクリと体を震えさせた。

「おいおい、そんなに驚くか?」

 聞いたことがある声に振り返るとそこにはトレードマークのタバコを銜えたハボックが立っていた。

「久しぶり、大将」
「ひ、久しぶり・・・・」
「ん?元気ねーなー」
「そんなことは」
「それに顔色もワリィーなー」
「そ、そうか?」
「どうせまた疲れを溜めているんじゃねーのか?」

 そこで何かに気づいたハボックは周囲を見渡してからエドワードに視線を戻し。

「アルはどうした?」
「オイルを買っていたからきっと今頃宿で磨いている最中だと思う」
「へ〜〜〜で、大将は大佐に会いにきたと」
「ち、違う!!」
「違わないだろ。何ていったって今日はバレンタインだし」
「や、だから」
「いい、いいもう何も言うな。わかってるから。じゃ行くか」

 言うや否やエドワードの背中を押して正門を潜った。

「だ、だから人の話を聞けって!!」
「のろけ話は聞く耳持たないっす」
「のろけじゃねーーー!」

 中々歩みを進めないエドワードに「照れるな照れるな」と満面の笑みでいうと今度は腕を掴み前へ出て引きずるように中へ入っていった。

「だーかーらー人の話は最後まで聞けって!!」

 甲高い叫び声は司令部内に轟いているだろう。
 もちろん、首を長くして待っている上官ことマスタング大佐はデスクに向かって苦笑を漏らしているに違いない。

 やれやれ、一体何が違うのか。
 大将が司令部まで来てやる事は三つしかないだろうに。
 一つは報告書。
 一つは文献。
 もう一つは大佐に会う為。
 どれもこれも大将にとっては大切なもの。
 それ以外だと絶対に司令部には近づかない。
 軍人嫌いだからな〜〜〜。

 司令室のドアを開けると「来た来た」といわんばかりにフュリー、ファルマン、ブレダが歩み寄ってきた。

「よう、久しぶりだな。エド」

 ハボックが前にエドワードを突き出したと同時にグリグリと力任せに髪を撫でなでるブレダ。

「お久しぶりです。元気そうで何よりです」

 微笑とともに挨拶をするフュリー。

「お元気そうでなによりです」

 笑みを見せて肩へポンポンと叩くファルマン。
 顔馴染みの皆が挨拶し終わるとハボックは「道明けろ」とタバコを片手に言っ た。

「あ、それはすまん。オレ等より大佐に会いたいよな」
「そうでしたね、すみません。気づかなくて」

 ブレダとフュリーが謝罪とともに道を作る。

「大佐はあの中か?」

 ハボックが指した先は大佐の執務室。

「ああ、アレは大佐命令でさっき違う部屋に移動させたぞ」
「さっすが行動が早いな〜♪じゃ行ってこい。大将」
「だ、だから」

 ポンとハボックに背中を叩かれて二、三歩前へ進み振り返るが四人とも満面の笑顔で。

「「「「いってらっしゃ〜い♪」」」」

 何も言い返せずエドワードはクルリと前へ向き直り執務室へ歩み寄ってドアをノックした。

 返事するな。
 返事するな。
 返事するな。

 呪文のように胸中で繰り返したものの神様は意地悪で。

「入りたまえ」

 返事が返ってきた。

 くっそ〜〜〜何でいるんだよ!クソ大佐!!

 半分自棄になりながらドアを思いっきり開けて閉めた。

「・・・・鋼の、静かに入ってくることは出来ないのかね」
「悪かったな」

 久しぶりのロイは呆れた顔を見せながらも瞳は優しい色を湛えていたからそれがとても嬉しくて怒りが半減したエドワードはロイへ歩み寄ろうとした。
 その時。

「お久しぶりね、エドワード君」
「お、お久しぶりです。中尉」

 いつの間に傍にいたのか。
 中尉が書類の束を両手に抱えてエドワードへ微笑む。

 き、気づかなかった・・・・。

「中尉、明後日までの書類はそれで全てかね」
「はい、大佐」
「では私は早退しても?」
「問題はありません」
「有難う」
「では、失礼します」

 敬礼の変わりに一礼して執務室を後にしたホークアイを見送って。

 明後日までの書類?
 早退?

 首を傾げるエドワードの両脇にこれもまたいつの間に来たのかロイの両手が滑り込み持ち上げる。

「う、うわぁ!」
「あいかわらず軽いね、エディ」
「ち、ちゃんと食べてるぞ!」
「パスタとパンかい?」
「に、肉も食べてる・・・・たまに・・・・」

 真っ赤に染まった顔で突然抱き上げたロイを睨みながら審問に答えるエドワードに苦笑を漏らして。

「たまにかい」
「いいだろ!食べないよりは!!」
「そうだね、私の約束を守ってくれて嬉しいよ、エディ」

 片腕に腰を降ろさせて唇へ触れる口付けを送る。

「お帰り、エディ」
「ただいま、ロイ」

 もう一度唇へ口付けてロイはデスクへ歩み寄りエドワードを降ろした。

「ロイ、机の上は行儀悪いだろ」
「構わないよ。仕事も済んだことだし」

 そういう問題じゃないと思うけど・・・・。

 ロイの両手が離れて少し寂しいと思いながら視線で追う。
 デスクを迂回し引き出しからナニかを取り出しそれを片手に戻ってきたロイはエドワードに差し出した。

「ロイ?」

 差し出されたシンプルな包みとロイを見比べて問うように名を呼ぶと。

「開けてみなさい」
「う・・・ん・・・」

 それを受取り包みを剥がして蓋を開けるとそこには大粒のチョコレートが八つ 。

「え、これって」
「今日はバレンタインだろ」
「あ、え、でも・・・・」

 どうしよう、ロイが用意しているなんて・・・・。
 オレ、何にも用意してない。

「どうした?食べないのかね」
「あ、あのな、ロイ」
「ん?」
「オレ・・・・その・・・・」
「エディ?」
「ご、ごめん!これ貰えない!!」

 言葉を濁していたエドワードが突然チョコレートをロイに押し返した。
 今にも泣き出しそうな顔で。
 ロイは微笑しエドワードの両手を包み込む。

「チョコは嫌いだったかな?」
「ううん、好き」
「では、私からのチョコが嫌い?」
「そ、そんなことない!」

 慌てて否定するエドワードの頬に口付けを落として。

「理由を教えてくれるかな?」
「・・・・オレ」
「ん」
「用意してない・・・・」

 下唇を噛み締め申し分けなさそうに呟くエドワードにロイは思い至り。

「そうか」

 少し残念そうに呟くとエドワードはロイを真っ直ぐに見つめて。

「ちゃんと用意するつもりだったんだ!でも店に女の人が群がってて・・・・もう二度と揉みくちゃにされるのは嫌だったから・・・・後で買いに行こうって思って ・・ ・・」
「わかっているよ、エディ」
「お、怒ってない?」
「ちょっと残念だけどね」
「ごめん、あ、そうだ」

 満面の笑みに一変して。

「今日一日ロイの為にオレが出来ることをする!それがオレからのバレンタイン だ」
「私の為に?今日一日かね」

 突然の発案に少々驚きながらもとても嬉しくてロイは久々に胸中が温かくなる こと 実感しエドワードの言葉に耳を傾けた。

「うん、あ、でも仕事がまだ残っているよね?」

 上目使いに問うエドワードに「もう終わったよ」と囁くと嬉しそうに微笑み。

「じゃ今は何をして欲しい?」
「今かい?」
「だって仕事終わったんだろ」

 右へ首を傾げて問う。

「ああ」
「大佐からロイに戻ったんだろ」

 左へ首を傾げて問う。

「そうだね」
「じゃオレの恋人だよなvv」

 満面の笑顔で言うエドワードにロイは笑いを誘われて。

「な、何で笑うんだよ〜。オレおかしなこと言った?」
「いいや、可愛いことは言ってくれたがね」
「可愛いことなんて言ってない」
「私には可愛いことなんだ。エディ」

 ウィンクをして言うとエドワードは頬を赤く染めて。

「フ、フ〜ン、ま、いいや。で、何して欲しい?」
「そうだね」

 視線をエドワードと自分の手の中にあるチョコレートへ向けて。

「このチョコレートを食べて欲しい」
「それでいいの?」
「今はね」

 そっとエドワードの両手から手を離して左腕は腰へ回し、右腕は髪を撫であげる。

「じゃ、いただきます」
「どうぞ」
 一つ摘み口へ放り込む。

 あ、美味しい。

「どうかね」
「うん、美味しいvv」
「気に入ってもらえたようで嬉しいよ」
「有難う、ロイ」
「どういたしまして」

 前髪を掻き揚げて額へ口付けを落とす。

「愛しているよ、エドワード」
「オレも・・・・」

 耳まで真っ赤に染めるエドワードに。

「オレも?」
「・・・・分かっている癖に」
「エディ『オレに出来ること』」

 それを言われてエドワードはやっと己の失態に気づいた。

 ああ〜そうだった〜。
 あんなことロイに言ったら・・・・。

 チラッと目の前の恋人を覗き見ると優しい微笑みを向けて言葉を待っている。

 裏の無い微笑み。
 オレこれに弱いんだよな〜・・・・。

 胸中で嘆息し知らず知らずの内に口元へ笑みを見せて胸倉を掴み目と鼻の先まで引き寄せて。

 「好き、大好き・・・・愛してる」
 「エディ」
 「ロイだけだよ、オレがここまで想うのは」

 後先考えず言動、行動を起こしてしまうのはロイだけだ。

「私もだよ、エディ」

 こんなに好きになって、どうしようもないくらい愛してしまって。

「エディ?」
「責任とれよな!」

 言うや否や目の前の恋人へキスをした。
 己れの想いとともに・・・・。

「わかったか」

 少し、呆気にとられていたロイは苦笑して。

「本当にエディは可愛いね」
「答えになってねーーーー!」

 嬉しそうに微笑むロイと真っ赤に染まった顔で怒鳴るエドワード。
 そして。
 互いを見合って笑い。

「今日はずっとロイに抱かれたい」
「もちろん、そのつもりだよエディ」

 この時、ロイとエドワードの『抱かれたい』の意味が違ったことは言うまでも無い。

 二人が司令部を出ると同時に振り出した雪。
 それは朝方まで止むことなく降り続いた。

 まるで。

 二人のぬくもりを包み込むかのように。

 優しく、静かに・・・・。





   END



   04/02/26 献上日
   05/02/03UP






このお話はくらげさんのイラストからできたお話です。
バレンタインのイラストということでかなり甘いです。
や、うちは楽しかったですがvv
くらげさんも喜んでくれて本当に嬉しかった一品ですvv