| イーストシティに降り立ったエドワードは人の多さに眩暈を覚えた。 き、気持ちわりぃー。 左右にふらつきながら、改札を出ると同時に影に覆われた。 「エドワード様ですね」 「?」 顔を上げれば、黒のスーツを身に纏いサングラスをかけた大男が二人。 「誰だ?」 イーストに知り合いはいないぞ、と答えれば。 「トリシャ様からのご命令でお迎えに上がりました」 「トリシャ?」 聞いたことも無い名にエドワードは首を傾げた。 「はい。ロイ様の下までお連れするように、と」 「!………ロイだと?!」 「はい」 巨体で筋肉質な体型ではあるが、誠実な言葉に姿勢。 人攫いにはみえねーんだよな〜。 ま、連れて行ってくれると言うならばお言葉に甘えよう。 もし、人攫いだったら逃げればいいし。 「じゃ宜しく」 「ではこちらへどうぞ」 男二人はエドワードを伴い、黒い車の後部座席のドアを開けた。 「これは?」 「車、という乗りものです」 「へー」 興味津々に概観を眺め、中に入った。 皮張りのソファに腰を下ろせば、ドアが閉められ運転席に一人が乗り込み、反対側にもう一人が乗り込むと同時に車の車体が沈んだ。 っつ! お、お〜い、沈んだぞ〜。 これ動くのか? 動けるのか? ダラダラと冷汗を掻くエドワードを余所に、車は発進した。 動いたー………。 マジかよ。 どういう仕組みになっているんだ? 車内を不思議そうに見回すエドワードを連れて車は街はずれの邸に向った。 * * * * * 「客?」 「はい。奥様から本日ロイ様にとって大切な方がお見えになると」 「義母から?」 ロイの真向かいの部屋は客室であり、空き部屋であった。 そこにメイドが数名、慌しく掃除をしていた。 不思議に思い問いかければ先ほどの言葉が返ってきた。 客? 昨日は何も言っていなかったが。 「朝方、電話がございまして」 「電話が?」 「はい」 「そうか。呼び止めてすまない」 「いえ、失礼します」 一礼し、メイドはシーツを両手に廊下を駆けていった。 「客、ね」 ナニかを見たのか。 義母は義父と結婚する前は先見であったと聞いた。 結婚してからは見ていないと言っていたが………。 「私にとって大切な者、ね」 廊下の窓に視線を向けると一台の車が正門を潜り、玄関に止まったことを確認したロイは一階のロビーに足を向けた。 「到着しました」 頭を下げ後部座席のドアを開けた男を横目にエドワードは車から降りた。 「ふわぁ〜〜〜」 無駄に大きな家。 こんなに大きいと掃除が大変だろうな。 あーでも教会よりもマシか。 「エドワード様、こちらへ」 男達に促されエドワードは石畳の階段を上り、重厚な玄関の扉が左右に開いた。 広い玄関ホール。 そこには漆黒の髪と瞳を持った青年が立っていた。 エドワードは目を見開き。 ロマン! 「ロイ様」 男の言葉にエドワードは目を見張り。 ロイ?! こいつが?! ロマンそっくりじゃねーか!! 「こちらは?」 「トリシャ様の命により、お迎えに上がってきました。エドワード様、こちらがロイ・エルリック様です」 「ロイ・エルリック?マスタングじゃないのか!」 「何故、その名を?」 ロイが目を眇め、エドワードを見据えた。 「ロマン・マスタング」 「!」 「オレを育ててくれた牧師様の名だ」 「父が牧師を?!」 怪訝な顔を向けるロイにエドワードはコートの懐から銃を取り出した。 「これに見覚えは?」 取っ手の刻印をロイの目の前に翳す。 写真にもこの銃は少年の手の中にあった。 見覚えはあるはずだ。 この銃を。 この刻印をー………。 「………確かに父の銃だ」 エドワードから銃を受取り、ロイは懐かしそうに見詰めてはそれを撫でた。 「ここで事情を話しても?」 「………いや、私の書斎に移動しよう」 メイドにお茶を持ってくるように命じ、ロイは銃を片手に階段を上った。 その後姿を眺めて。 本当にロマンそっくりだ。 歩き方も。 話し方ー………はロマンの方が崩れいたか。 仕草も。 そして。 声までそっくりで………。 間違えてしまいそうだ。 けれど。 違う。 アイツはロマンじゃない。 ロマンじゃないんだ。 頭を左右に振り、エドワードはロイの後を追った。 書斎に一歩踏み込めばそこは広い部屋であるが、本棚が左右の壁を覆い中央にデスクに椅子。 そして。 正面には窓がありカーテンで半分に閉ざされた傍にロイが立っていた。 「椅子に座りたければ」 「いや、ここでいい」 言うなり、エドワードはその場に座り込んだ。 「そうか」 ロイはエドワードに歩み寄り、目の前に腰を下ろしたと同時にメイドがお茶を運んできた。 それをロイが受取り、メイドに人払いを命じ下がらせた。 「軍人にはならなかったのか?」 カップにお茶を注ぐロイを見詰め、エドワードが問うた。 「何故?」 「ロマンが、ロイは軍にいると言った。この国を変えるためにー………」 「そうか」 カチャとポットをトレーに戻し。 「覚えてくれていたのだな」 「?」 「父は教会で牧師を?」 「ああ、オレ達孤児を分け隔てなく育ててくれた」 「父は子供が好きだったからね」 懐かしそうに目を細めるロイにエドワードは思わず目を逸らした。 だ、駄目だ。 ロイを見ていたらロマンと比べちまう。 「だが、物書きだけを教えていたわけではないだろう」 「っつ」 「父のことだ。エドワード、キミ達がこの国で生きていけるように叩き込まれただろう」 身を守る術を。 ビクッと身体を震わせたエドワードにロイは手の中にある銃に視線を下ろした。 「別に責めはしない。いや、父に感謝するべきか」 今、国は荒れに荒れて人が人とも思わない状態になっている。 「銃がここにあるということは父は」 「軍に……殺された」 「………そうか。子供達は?」 頭を左右に振ることで答えるエドワードにロイは「そうか」と小さく呟いた。 「私でも父の所在はわからなかったというのに」 「軍もわからなかったさ。アイツが捕まらなければ」 「アイツ?」 「去年、国を変えてやると言って教会を出て行った奴が大総統に捕まった」 「なるほど。その情報を得て、父を殺し、身を守る術を叩き込まれた子供達を連れて駒にしようとしたわけか」 「そんなことになるぐらいなら死を選ぶ!」 鋭い眼差しを向けて断言するエドワードに、ロイは一瞬目を見張り眇めた。 「そうなれば死ね、と父に命じられたのか?」 「え、いや」 低い声が一層低音になったロイにエドワードは眼差しをゆるめた。 「だったらそう簡単に死を選ぶなどと口にするな」 「え?」 「何の為に父がキミに身を守る術を教えたと思う。生きて欲しいからだろう」 「っつ」 「荒れた生きにくい国でも強く生きて欲しいからキミに持たせたくない銃を持たせ教え込んだ。違うか?」 下唇を噛み締め、エドワードが頷く。 「だったら生きろ。それが父の願いだ」 クシャリ、とエドワードの髪を撫でる大きな手に安堵し、ポロリと涙を零した。 「辛かっただろう」 「っ」 その一言で何かがぷつりと切れエドワードは涙を流し、声を上げて泣いた。 外見は鍛えることが出来ても、内側までは鍛えることなど出来ない。 ましてやこんな子供が…………。 泣くことも出来なかったとは………。 ロイは痛々しい顔を向け、両手でエドワードの頬を優しく挟み、指で涙を拭った。 ピクリと震えたが、それも一瞬のこと。 すると大きなロイの手に頬を摺り寄せてエドワードは泣きじゃくった。 - 続 - 05/09/15UP |