□ 見守る影 3 □










『この一年間でロイに安らぎをあたえてやる』


 と、宣言してから早一ヶ月。

 本当にあたえることが出来るのか謎だ。

 目の前で熟睡している男ことロイ・マスタングを呆れ顔で眺め溜息を吐いた。

 忙しいのはわかる。
 疲れて帰ってくることも知っている。
 しかしだ。

「軍服のまま寝るか?普通」

 そう、ロイは上着こそ脱いではいるがシャツ、ズボンはそのままで。
 
 これが酔っ払いならわかるが、そうじゃない。
 少将ともあろう者が、たく。

「おい!起きろ!!朝だぞ」

 身体を揺さぶり起すが、それも無駄なことだとわかりきっている。
 ここに来た次の日、コイツは何度起しても起きなかった。
 普通、軍人は熟睡していても人の気配で起きるはずなのにコイツときたら。

 盛大な溜息を吐き、二、三歩後ろへ下がる。

 安眠しているのか。
 それとも単に疲れているのか。
 どちらにせよ起きないんだよ。
 このオヤジは!!

 タンッとその場で軽く跳ねて駆け出す。
 そして。
 ジャンプしてロイにダイブ!

「ぐぁっ!」

 悲鳴、とは程遠い声を上げたロイに「やっと起きたか」と呆れ顔で身体を起き上がらせ跨った。

「エディ・・・・すまないがもう少し」
「いつも通り、普通に優しく起したけど起きなかったのはロイだろ!」
「ヴッ」
「それにまた軍服のまま寝たな」
「や、それは・・・・」
「誰が」
「エ、エディ」


「だ〜〜〜〜れが洗濯すると思ってやがるんだ!!このオヤジ!!!」


 額に青筋立てて怒鳴るエドワードの声はきっと、否、絶対に外まで轟いたことだろう。

「ほら、起きろ!朝食も出来てるっとその前にバスに行ってこい!」
「バス?」

 面倒そうな顔をするロイにエドワードは額に二つ程青筋を増やして。

「アンタさ〜一応まがりなりにも少将という地位にいるんだから」

 ニッコリと笑ってベットから降りると同時にロイの襟首を掴みそのままバスへ直行。
 ドアを開けるとともにロイを放り込み、見下しながら。

「その面をさっぱりさせろ。部下に示しがつかないだろうが」
「それだったら洗面」

 ジロリンと睨み。

「オレが念入りに洗濯した軍服に汚れた体で着るというのか?言わないよな。言うわけ無いよな」
「・・・・・・ハイ」
「宜しい。じゃ隅から隅まで洗ってこい。服はその籠に入れておけよ」

 ロイが了承したことを確認しエドワードはバスを後にし、寝室へ戻りベットのシーツを剥ぎ取る。

 たく、あれじゃいい男が台無しだろうが。
 つーか。
 アイツの嫁になる奴って苦労しそうだな。
 や、その前に来るのかが問題だ。

 そこで手を止めて数秒ほど頭を回し。

 ・・・・来ることにはくるが・・・・直ぐに離婚してそうだな。
 アイツの周りにいる女は外面しか見てないからな〜。
 あ、でもリザさんは別か。
 
 再度、手を動かし全てのシーツを取り外したエドワードはそれを持って寝室を後にした。

 なんにせよ。
 アイツは仕事馬鹿で自分の身体を顧みない奴だってことなのは確かだ。
 そろそろぶっ倒れてもおかしくはないんだけどな。

 リビングを通ってキッチンの反対側にあるドアを足で開け洗濯籠にシーツを放り込む。

「さて、朝食の用意は出来てるからあとはコーヒーだ」

 コーヒーは入れたてのほうが美味しいからロイが起きてくるまでは絶対に入れない。
 美味しいものは美味しく食べる(または飲む)がオレのモットーだ。

 仕度をしているとロイがさっぱりした顔でひょっこりと顔を出した。

「エディ、コーヒー」
「今やってる。先に食べろ」
「わかった。あ、エディ」
「なんだよ」
「おはよう」

 ウザそうに顔を向けると満面の笑顔で朝の挨拶。

 あ〜〜〜この顔か。
 この顔だな。
 女達が騒ぐのは。

「エディ?」

 中々挨拶を返してくれないエドワードに首を傾げる。

 今度は子供みたいな顔をして。
 わけわかんねー奴。

 エドワードは軽く吐息を吐いて。

「おはよう。ロイ」

 その言葉にロイは満足そうな顔をしてダイニングへ足を向けた。

 やっぱり子供だな。

 沸騰したヤカンを片手にまずはカップに湯を入れてそれから豆を挽いた粉に湯をゆっくりと落としていく。
 慌てずにゆっくりと。

 これは親父直伝の入れ方。

 ま、親父の場合は試験管とかでやっていたが。
 そんなモノで飲んで美味しいのかと尋ねたら「入れ物が違うだけで味は変わらないからね」と笑顔で答えた。
 それはそうだが、と半分は納得。
 もう半分は・・・・わからなかった。
 やっぱりコーヒーはちゃんとしたカップで飲むのが一番だと思う。

 湯が落ちきったのを見計らってカップに入れてた湯を捨てコーヒーを注ぐ。
 たっぷりと入れた二つのカップを両手にエドワードはダイニングに足を向けた。

「お待たせ。コーヒーだぞ」

 朝食を盥上げ新聞を広げていたロイの前にカップを置く。

「有難う」
「ロイ、髪乾かしたか?」
「え、いや、そのうち乾くだろう」
「ばっか!何を考えている!!」

 エドワードは慌ててバスへ走りタオルを片手に戻ってきた。
 そのままロイの後ろへ立ち、漆黒の髪を整えるように水滴を拭う。

「いつもすまないね」
「と、思うなら自分でやれ!」
「メンドクサイ」
「それでも人の上に立つ奴かよ!」
「立ってるし、仕事も頑張ってる」

 こんの!
 あーいえばこーいう!!

「はいはいはいはい、ロイ・マスタング少将は確りとしたとても優しく(女性にだけ)爽やかな笑顔で部下に慕われているとてもいいオトコです」
「棘がある言い方だね」
「気のせいだろう。それよりも毎朝のアンタを部下に、いや、女に見せてやりたいね」

 特に彼女になりたいと夢見がちな女にな。

「それは嫌だね。ゆっくり寝ることも出来ない」
「嘘をつけ」
「本当だよ。それに私はエディだから安心して眠れることができるんだよ」
「オレだから?」
「そう、キミだから」

 ロイは振り返り優しく微笑んだ。

 この笑顔も曲者だよな。
 つーか。

「そういう言葉は彼女に言え。いるんだろう」

 ロイの顔を正面に戻して再度髪を拭う。

「いないよ」
「嘘をつけ!」
「何故嘘をつかねばならないんだ?」

 首を捻るロイにエドワードは目を瞠った。

 おい、マジかよ。

「アンタマジで結婚しないつもりか?」
「ああ」

 あっさりと答えたロイに目を瞠ると彼はクスリと笑って。

「以前にも言ったが結婚をするつもりは無いよ」

 わからない。
 もてるくせに何故か特定の人を作らない。
 否。
 拒んでいると言った方いいかもしれない。
 何故だ?

「何故?」

 疑問を言葉にすれば。

「何故だろうね」
「はぐらかすな!」
「ははは」
「笑って誤魔化すなって。たく、はい終わり」
「有難う」
「どういたしまして」

 結婚話はタブーだな。
 気をつけることにしよう。

 エドワードはタオルを片手にロイの前に座り、先ほど入れたコーヒーを飲む。

「で、今日も遅いのか?」
「いや、今日からは早いよ。昨日で事件が解決したからね」
「そりゃおめでとさん」
「だから今日は外で食事をしないか?」
「は?!」
「家事全般頑張ってくれているからね。そのご褒美だよ。どうかな?」
「どうかなって言われてもロイはいいのか?」
「いいもなにも誘っているのは私だが?」
「そうだけど・・・・ここ最近忙しかったんだろ。だったら家で食事して風呂に入って寛ぎたいんじゃないのか?」

 ロイは目を瞠ってエドワードを見詰めた。

 まったくこの子は。

「別に家事は苦じゃねーからさ。気にすること無いぜ」
「そうかい」
「ああ、今日早いならご馳走を作っててやるよ」
「じゃ夕食代を」
「食費ならまだある」
「しかし」
「無駄使いは駄目だ!」

 ギロリンと睨むエドワードにロイは苦笑して。

「本当に確りしているね」
「親父が研究ばかりしていたからな。ならざる終えなかったんだよ」

 少し照れた顔でそっぽ向くエドワードは年相応に見えてとても可愛かった。

 親父、ね。
 ・・・・・・彼は今頃イーストシティで。

「それよりロイ」
「な、なんだね」

 弾ける様に顔をエドワードに向ければ壁にかかっている時計に指を指していた。
 ロイは時計に視線を向けて。

「あ!」
「外にはもう車が着てるぞ」
「何故早く言わない!」
「手こずらせた仕返しだ」

 ニヤリと笑うエドワードにロイは頭を抱えて。

「ホークアイ大尉に打たれるのは私なのだが」
「亡骸は拾ってやる」
「はいはい」

 コーヒーを一気に流し込み腰を上げて玄関に向かう。
 エドワードもロイに続いた。
 見送りは毎朝の日課。

 玄関のドアを開ければハボック中尉が煙草を片手に待っていた。

「おはよう。中尉」
「おっす!大将」
「おはよう。ハボック中尉」
「おはようございます。少将」
「じゃエディ行ってくるよ」

 振り返ってロイが言うと。

「気をつけてね」

 おしとやかに微笑むエドワードにロイは笑顔で答え、後部座席へ身を滑らせた。
 ハボックがドアを閉めて運転席に回る。

「あ、ロイ」

 コンコン、と窓ガラスをノックして開ける様に促す。
 半分開いた窓にエドが身を乗り出して。

「今夜、何を食べたい?」
「これといってないが」
「じゃ肉類でいい?」
「構わないよ」

 その言葉に頷いて。

「いってらっしゃい。ロイ」

 ロイの頬に口付ける。
 恋人のように。

「いってきます」

 ロイもエドワードの頬に口付け、車はゆっくりと発車した。

 このキスも条件の内に入っていた。
 外では恋人のように振舞うこと。
 どうすればいいのか分らないエドワードにロイが教えたのが先ほどのコトで。

 ううう、やっぱり恥ずかしい・・・・・・。

 胸中で赤面しつつも、外面は満面の笑みで恋人を送りだした。

 こういう時の自分はいつも偉いと思う。

 自分自身を褒め称えてエドワードは邸に戻った。





「大将、なれてきたっすね」
「ああ、最初は手こずったがな」

 初日を思い出しロイは苦笑を漏らした。

「しっかし、大将の豹変振りはすごいっス」

 感服しますよ、と言うハボックにそれはロイも同意した。
 一ヶ月であそこまで豹変できるとは本当に凄いとしか言いようがない。

 だが、本番はこれからだ。

 目蓋を伏せとても楽しそうに微笑む上司をバックミラーで見るなりハボックはエドワードにご愁傷様と呟いた。





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   04/05/12UP