| フラフラと頭を抱えながら男は歩道を歩いていた。 空は陽が落ちた午後八時。 冷たい風が頬を撫でる。 が。 「きもちいい」 十一月になり、夜は冷え込み温度は十二度。 それなのに気持ちいいとは。 どうやら、熱が更に上がったようだな。 熱っぽい吐息を吐き出して、男はコンクリートの壁に身体を寄せた。 シャツ越しから伝わる石の温度。 ああ、きもちいい。 ズルズル、とその場に座り込み、男は半目で夜空を見上げた。 真っ暗な夜空に輝かしいばかりの満月。 けれど。 目がかすんで見えない。 月は好きなのに………。 胸中で嘆息して、男は目蓋を閉じた。 と、その時。 「おおーい、おっさん」 おっさん? それは私のことか。 ムッとしながら薄っすらと目蓋を上げれば、金が視界に入った。 「おお〜い。生きているか?」 生きているとも。 「おおーい」 うるさい。 静かにしろ。 頭痛にくる。 眉間に皺を寄せ、潤んだ漆黒の瞳で睨めば、金は右手を伸ばし男の額にあて。 「あっつっ」 飛び退くように手を引いた。 「な!高熱じゃねーか!!っておい、アンタ、大丈夫か」 大丈夫なわけがないだろ。 つか。 耳元で吠えるな。 うるさい。 男は胸中で訴えるも、徐々に意識が朦朧としていった。 「っておい!寝るな!起きろって」 そう言われても仕方がないだろ。 もう、意識が―………。 男は目蓋を閉じ、意識を手放した。 「ああ!ちょ、ちょっと!!」 遠くで金が怒鳴る声が聞こえたが、もう何も答えることが出来なかった。 § § 自分よりも二回り大きい木偶を引きずり、自宅に帰りついた金は玄関に男を転がし、玄関の扉に鍵を閉めてから脱力したようにその場にしゃがみこんだ。 「このヤローの所為でいらない体力を使った」 はぁ〜〜〜、と盛大な溜息をついて金は玄関に明かりをともしてから、四つん這いで男に近寄った。 苦しげに眉間を寄せ。 目じりを赤く染め。 熱い吐息を吐く口唇。 汗をかいているのか。 漆黒の髪が額や頬にへばりついている。 苦しそうだな。 ちゃんとした所に寝かせねーと。 金は立ち上がり、男の身体を玄関先の床に横たわらせてから、脱衣所に駆け込みタオルを水で濡らししぼってから、再度男の下に戻り、汗で濡れた前髪を掻き揚げた。 「あ」 こいつ、端正な顔をしている。 つか。 美形! 金は暫し、男を見つめてから視線を身体に向けた。 身体はどうだろう? 鍛えているか。 それともなよっているのか。 金はとても気になった。 身体と男の顔を交互に見やって。 「ごめん!」 一言謝り、金は四つん這いになり男の顔の上を覆って両手でシャツを首下まで捲り上げた。 そして。 視界に入ったのは。 「やっ」 慌てて口唇を両手で塞ぐ。 やった! すっげーいい筋肉ついているじゃん! 今日は今一のモデルばっかり撮っていたから気がめいっていたんだけど。 「最高!」 緩んだ顔で金はガッツポーズをとった。 あ、じゃ足は? という感じで、金は全身男の身体を確かめて、歓喜の声を上げた。 「もうもうもう、最高!!大好きだ!!!」 高熱を上げて唸っている男の頬に自分の頬を摺り寄せて。 「いい拾い物をしたな〜。オレ!」 ムフフ、と気味が悪い笑いをして金は男の額に濡れタオルを乗せて、スキップで一階の客間に駆け込んだ。 布団一式を敷いて、男の下に戻り、引きずってリビングから客間に入った。 汗で濡れていたシャツとズボンを脱がし、バケツに湯を張ってタオルで全身の汗を拭い、父が使っていた夜着を着せ帯を締めてから、布団に寝かせた。 「よっし!あ、そうだ」 リビングのテーブルに置いていたデジタルカメラを片手に、金はレンズ越しに男を見つめてシャッターを切った。 「うん。やっぱり映えるな」 ニコニコと満面の笑顔を見せて、金は嬉々として男の看病に取り掛かった。 「さっさと熱を下げてくれよ。しっかりお礼をしてもらうからな」 鼻歌交じりに、金は台所に足を向けた。 翌日。 鳥の鳴き声によって目を覚ました金は、欠伸をしながら右手を男の額に伸ばした。 が。 ふさふさ。 へ? あるはずの無い触感に金は目を向けた。 するとそこには。 「い、いいいいいい?!」 犬?!! 大きな大きな犬が、布団で眠っていた。 「なぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」 エドワードの絶叫が静かな朝を打ち破った。 − 続 − 07/01/19UP |