□ コトバ □










天然まんぼう ふじみや涼様のオフ本のロイ×猫エド
(My HomeCatのその後のお話)


      ◇ ◇ ◇


「エドー、エドー」

 ピクピク、と白い猫耳を動かして、エドワードはゆっくりと目蓋を上げた。

「エドワード」

 再度呼ばれて、エドワードは上体を起こし両腕を上げた。

「ん、に〜〜〜」

 背伸びをして、手の甲で目を擦る。
 ペンペンと白い尻尾をリビングの床に叩きつけて振り返った。
 目の先には愛しい人。

「にーーーー」

 漆黒の髪と瞳を持つロイは優しい微笑みを向けて、エドワードに歩み寄った。

「ここで寝ていたのかい」
「にー」

 白い尻尾を大きく振って、ロイに両腕を差し出せば、腕ごと抱きしめられた。

 ん〜〜〜ロイだ〜〜〜。

「ベッドで寝ていると思っていたから、探したぞ」
「に」
「ん?」
「に、に、にー」
「お腹が空いたのかい?」
「ににーーー」

 ブンブン、と頭を左右に振る。

「まだ、眠いのかい?」

 ロイは首を傾げながら問えば、違う、と激しさを増してエドワードは頭を左右に振った。

 そうじゃない。
 キスをして欲しいんだよ。
 この無能!

「ああ、そんなに頭を振ったら目を回すよ」

 大きな手がエドワードの頬に添えて、それを止めた。

「今日も元気だね。さ、おやつの時間だ」

 おやつ?
 それよりもキス!

「に、にに」
「ん?」
「にーーーーー」
「ああ、すまない。エド、何を言っているかわからないよ」

 その言葉にエドワードはピクリと一瞬だけ動きを止めた。

 わからない。
 自分の言葉が―………。
 ロイに伝わらない。

「どうした?エド」

 急に静かになったエドワードを案じ、ロイはその場に跪き、顔を覗き見た。
 そこには。
 辛そうな。
 悲しそうな。
 顔をしたエドワード。

「ど、どうした?どこかが痛いのか?苦しいのか?」

 そうじゃない。

 エドワードは小さく頭を左右に振った。

 違う。
 そうじゃない。

「エドワード」

 心配そうに覗き込むロイに、エドワードはキュと口唇を引き締めて、両腕を男の首に巻きつけた。

「エド」

 ギュと抱きつけば、ロイはエドワードの背中に両腕を回し、優しい手つきでポンポンと撫でてくれた。

 ロイの匂い。
 ロイの体温。
 ロイの優しさ。

 全てが大好き。
 全てが愛しい。
 オレの帰る場所。

 行動だけでは限られてしまう。
 オレの想い。

 コトバ。

 そうだ。
 言葉を理解できれば、ロイに伝えることが出来る。
 して欲しいことが言える。

 けれど。

 そうするにはどうすればいいのか。

 すりっとロイの肩に頬を摺り寄せて、エドワードは目蓋を閉じた。





      §            §





『ロイさんにコトバで伝えたい?』

 場所はハイデリヒ家のリビング。
 ロイとともにハイデリヒから料理を教わる為にエドワードは遊びに来ていた。
 そして。
 弟に相談。
 ロイに想いを告げたい、と。

『うん』
『無理だよ』
『アル〜〜〜』
『だって、見た目は人間と変わらなくても僕たちは猫なんだよ』
『わぁーってるよ。だけどさ』
『だけど?』
『して欲しいことを行動で示すのは難しいんだよ』
『して欲しいこと?ご飯とか』
『違う』
『じゃ遊んでもらうこと?』
『それもあるけど、違う』
『兄さん?』

 答える度に顔が赤くなっていくエドワードに、アルフォンスは首を傾げた。
 白い尻尾がペシペシ、と床を叩きつける。

『何を怒っているんだよ〜〜〜』
『怒ってなんていねーよ』
『だったら、尻尾を床に叩き付けないでよ』
『五月蝿い』

 剥れるエドワードにアルフォンスは盛大な溜息を吐いた。
 そんな弟を横目にエドワードは口を開いた。

『アルはさ』
『ん?』
『無いのか?ハイデリヒにして貰いたいことを言葉にしたいって思ったことはないか?』
『ん〜〜〜〜』

 その言葉にアルフォンスは少し考えて。

『無いよ』
『え』
『だって、ハイデリヒは直ぐに気づいてくれるから』
『………そうなのか』
『うん』

 嬉しそうに、アルフォンスは黒い尻尾をゆらゆらと左右に振って答えた。

『そっか』

 だったら。
 何でロイが気づいてくれないんだろ。
 オレを帰る場所と思ってくれるなら、わかってくれてもいいのに―………。

『でも、言葉は無理でも文字なら書けるんじゃないかな』
『文字?』
『うん。ほら、僕たちも五本の指が人間と同じようにあるわけだし』
『うん』
『なんといっても、僕たちは賢いし』
『自分で言うなよ』
『兄さんがはじめに言ったんじゃないか』
『そうだったか?』
『そうなの。だから、文字を覚えてそれでロイさんに伝えたいことを紙に書けばいいじゃない』

 問題解決!、と満面の笑顔で言い切るアルフォンス。

 確かに。
 そうだけど―………。

『それを誰から教わるんだ?』
『あ………』

 そうだった、とアルフォンスは笑顔から反転。
 ドン、と背後に暗い影を落とし、ごめんと呟きを漏らした。

『い、いや、そこまで落ち込まなくても』

 いいぞ、と励ましながら、エドワードは胸中で。

 文字、か。

 いい案かも知れない、と思っていた。





      §            §





 それからは、ロイの書斎室に入って本というものを手にしては睨み付けるように目を通した。
 が。

『わからない』

 綴っている文字を人差し指でなぞり、小さな溜息を吐いた。

『やっぱり、独学は無理か』

 かと言って、ロイに教えろ、と言ってもわかってはくれないだろうし。

『どうしようかな』

 伝えたいことがあるんだ。
 身体で伝えることもできる。
 でも。
 それだけじゃ、伝わらない。
 オレの想いを………伝えたいんだ。

『ロイ』

 ポソリ、と呟きを漏らして白い猫耳を下げた。
 そこへ。

「エド?」

 いつ帰ってきたのか。
 ロイが書斎の扉を開いて、本棚の前で座り込んでいるエドワードに歩み寄った。

「にににーにに」
(お帰り、ロイ」
「ただいま、エドワード」

 通じた?

 エドワードが小さく目を見張り、ロイを見上げれば、額に口唇が触れる。

「こんな所で何をしていたんだね。ん?本が読めるのかい」

 その言葉にエドワードは頭を左右に振った。

 読みたいわけじゃない。
 ただ、文字というものを知りたいだけだ。

「文字は知っているのかい?」

 フルフル。

「じゃ、本は読めないだろ。夕食が終わったら、読みたい本を持ってきなさい。私が読んでやろう」

 ロイが読んでくれる。
 
 その言葉にエドワードは白い猫耳を上げた。

 じゃそれで文字を覚えられるかもしれない。
 ああ、でも。
 書けなければ意味がない。
 それでも。
 知らないよりはマシだ。

 ムン、と気合を入れてエドワードは持っていた本をロイに差し出した。


 その日から。


 エドワードは毎夜、ロイに本を読んでもらった。
 文字を指先でなぞって。
 ゆっくりと。
 丁寧に。
 言葉を降り注いでくれた。
 その間。
 ロイとオレは密接しているわけで………お互いに盛る時もあったけれど。
 それも。
 ロイとの甘い一時でオレはとても至福だった。


 そうして、二ヶ月が過ぎた。


『か、書けた』

 ロイに読んで貰った文章を紙に何度も書いて練習した。
 それが、ロイにバレる羽目になったのは一ヶ月前のことだ。

 ― 文字を書きたいのかい? ―

 その言葉にオレは大きく頷いたもんだ。
 それからは読書とともに文字も教えてもらった。
 そして、オレは書きたかった。
 ううん。
 伝えたかったコトバを紙に書けたことで、頬を緩ませた。
 とてもじゃないが、他人に見せられるような文字ではない。
 それでも。
 ロイに見て欲しかった。

 オレの想いを………。

『これで伝わる』

 ロイにオレの想いが伝わる。

 ギュと文字を書いた紙を抱きしめて、エドワードは玄関でロイの帰りを待った。
 今か今かと。
 扉を見つめて。

 そして。

「ただいま。エドワード」

 扉は開いた。





   END



   06/09/06UP






ずっと書きたかったお話が書けて感激な忍です。
天然まんぼうことふじみや涼様の猫本を読んでから、ふつふつと話が思いついていきまして、今回の新刊『My HomeCat』を読んでポン、と話が固まった次第です。
固まったら書きたくて書きたくて仕方がなく、ふじみや様の了承を得て書かせてもらいました!!
有難う!!ふじみや様!!
もう、書けた時は感激で(誤字脱字はともかくっておい!)胸の内がすっきりとしましたvv
晴れやか〜♪
ふじみや様の猫本はほのぼのとしてとても素敵なお話です。
読まれていない方は是非是非、読んでみてください。
すっごくおススメです!!
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最後に。

ふじみや様。
拙い文章を送りつけてしまい、申し訳ありませんでした。
書かせてくれて、有難うございました。