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男になる。
身も心も………そう、決意したのに心は張裂けんばかりに金平糖が溜まっていく。
今にもあふれ出しそうで押さえ込むのがとても苦しい。
苦しい。
辛い。
そして。
痛感する。
自分がどれほどロイのことが好きなのか。
男になどなれるはずがない。
オレは女としてロイを好きになった。
それを全て否定するということは自分自身も否定することになる。
けれど。
女としてロイの傍にはいることはできないから………。
ロイはそれを望んではいないから。
だけど。
既に身体も心も悲鳴を上げている。
辛い。
苦しい、と………。
このままじゃオレ自身がバラバラになっちゃうよっ!
助けて。
助けて。
ロイっ!!
「エドがおかしい」
教室の窓際で女子と他愛無い話をしているエドワードの姿を眺めながらウィンリィが唸った。
「ああ、おかしいな」 「そうよね!絶対おかしいわ!!」
一週間前、エドワードが突然髪を切って登校してきたから学校中が大騒ぎ。 ロイと同様学内で人気があるエドワードはアイドル的存在だ。 その彼女が大切にのばしてきた髪をばっさりと切ったとなれば騒動にもなるだろう。 本人に問えば。
「気分転換」
その一言で片付けられた。
嘘をつけ!
とウィンリィとマースは胸中で突っ込みはしたものの金の瞳が曇っていることに気付いた二人は何も言わなかった。 しかし、日に日に酷くなっていくエドワードに流石の二人も見るに見かねていた。
「こりゃロイと何かあったかな?」 「けど、ロイは仕事で忙しいんでしょう?エドと会う暇あるの?」 「そうなんだよな〜」
ロイの殺人的な忙しさはマネージャーであるリザから聞いて知っている二人は首を傾げた。
「だが、エドがアソコまで変貌するのはロイにおいていないし」 「そうだけど………」
髪を切っだけならともかく言葉使い、仕草は元々荒かったけれど近頃は輪にかけて酷くなっていた。 まるで。
「男のような言葉使いね」 「そうだな」
ような、ではなく実際男そのものである。 ズボンを好むエドワードはスカートをたまにしか穿かない。 例えばウィンリィが着てみないと言えば渋々だけれど穿いてくれるのだが、この一週間エドワードははそれを断り、終いには持っていたスカートを全てゴミに出したというのだ。 それを聞いたウィンリィは激怒したが、エドワードは首を傾げて。
「オレには一生必要ないものだから捨てた」
怒るウィンリィを不思議そうに眺めながら言いのけたのだ。 ウィンリィは怒りを通り越して疑念を感じ始めた。 アルフォンスに問えば首を左右に振ってわからないと心配そうに呟く始末。
「どうする?」 「どうするもこうするも」
マースは仮面の笑顔を貼り付けているエドワードを一瞥し、溜息を吐いた。
「このままじゃ見ているこっちが辛い」 「そうね。まずは本人に尋ねてみる?」 「や、それは無駄だろう」
エドワードの頑固さを熟知しているマースは首を左右に振る。
「じゃどうするのよ」 「そうだな。ロイを学校に来させてエドの反応を見るか」 「…………来れるの?」 「さぁな。でもエドのことになるとアイツ見境ないから来れるんじゃねーか」
マースは呑気に答えながら携帯を取り出し、メールを打つ。
「不思議に思っていたんだけど」 「ん〜〜〜?」 「なんでロイはエドに告白しないの?」 「したくてもできないんだよ」 「?」 「好きで好きで大好きで誰よりも大切で傷つけたくないんだと」 「は?」 「だからロイはエドにゾッコンなんだよ」 「だったら告白すればいいじゃない!」 「その告白でエドが傷つくかもしれないと思っているんだろう」
マースの言葉にウィンリィは頭を抱え込んだ。
「馬鹿?」 「まぁそう言ってやるな。余りにも近い存在だっただけに怖いんだ」 「怖い?」 「そう、怖いんだよ。ロイもエドもな」 「似た者同士」 「そういうこと」 「そういえば随分前になるけどエドに彼氏ができたって聞いたわよ」 「あれはロイを忘れる為のお試し付き合いだよ」 「は?!」
スットンキョンな声で顔を顰めるウィンリィにマースは苦笑して。
「エドが男を紹介してくれって言うからな。オレのダチを紹介した。直ぐに切れる奴をな」 「え、ちょ、直ぐに切れるって?」 「エドにとってロイ以上の存在はありえないってことだよ」
それをわからせる為にマースは女に余り興味がないが誠実な男をエドワードに紹介した。 予想していた通り、エドワードは一週間もしないうちにその男と別れた。
『紹介してくれたのにごめん。やっぱり………アイツ以外の奴とは無理だった』
別れた後、エドワードは申し訳なさそうにマースに謝罪してきた。 だからワザと尋ねてやった。
『なんで駄目だったんだ?』 『アイツはさ。どこにでもいるんだ』 『?』 『ポスター、テレビ、雑誌。まるで忘れようとすればするほど目に入ってきてさ。思い知らされた。どれだけアイツのことが好きなのかを…………忘れられるはずがないんだよな』
自嘲気味に笑ったエドワードにマースはそうかと囁いた。 眦から零れる雫から目を逸らしそっとハンカチを手渡した。
『オレ、これからもアイツのことを想っていくよ』 『告白はしないのか?』 『しないよ。だってもう失恋しているから』 『?!』 『アイツさ。好きな奴にいつでもどこにいても見て欲しいが為に芸能界に入ったんだって。それを聞いた時オレ目の前真っ暗になっちまった。あ〜あ、失恋か〜とか思って………けどさ、想いはつのっていくばかりで………余りにも女々しいから他の男と付き合ったけどそれも無理だった。だから勝手に想うだけならいいかなって』 『エド………』 『内緒だぜ。マース』
アイツを困らせたくはないからと呟いてニッコリと笑ったエドワードにマースは沈痛な顔で見詰めた。
「馬鹿だわ」 「どっちが?」 「どっちもよ!ロイはエドが好き。エドはロイが好き。なら告白して幸せになればいいじゃない!」 「そうだな。けれどロイもエドもお互いが自分よりも大切だから言葉にはできないんだよ」 「だから馬鹿っていうのよ!」
バンと机に拳を振り下ろすウィンリィはまるでその痛みに耐えるかのように苦しい顔をして下唇を噛みしめていた。
「ウィンリィ」
送信ボタンを押しながらマースは目の前の幼馴染みを苦笑しながら見詰めた。
「もう本当に馬鹿なんだからっ」 「そうだな。でもそういう恋もあるってことだ」 「そんな恋いらないわ」 「ウィンリィ」 「いらない!互いが傷つく恋なんていらない!!」
言い切るウィンリィにマースは目蓋を閉じて。
「………ああ、そうだな」 静かに同意した。
そうして。
マースの携帯に受信メールが届いた。 それに目を通し、簡単に返事を送ってから。
「そろそろ、ケリをつけようか」
そう呟いてマースは席を立った。
不器用な恋をする二人の為にオレからのクリスマスプレゼントを用意しよう。
「エードー」
女子に囲まれているエドワードに声をかけながらマースは口の端を上げた。
お前等の片思いに終止符を打ってやるよ。 それだけ片思いをしたならもういいだろう。 それに。 見ているこっちが辛いからな。 いい加減、くっついてくれや。
そう、胸中で呟きながらマースはエドワードに約束を取り付けた。
雪が降ってくれたらいいのにな〜などと思いながら。
マースとの約束の日。 それは十二月二十四日。 クリスマス・イブ。
「すげー人」
左を見ても。 右を見ても。 正面を見ても。 カップルが溢れかえっている。 もちろん、カップルだけじゃない。 親子ずれもいることはいる。
「ま、当たり前ちゃ当たり前だよな〜。イベントだし」
エドワードは携帯を取り出しスケジュール帳を開く。
二十四日 ○○十字路のもみの木前のカフェに二十時。
確認してから目の前のカフェに視線を向け小さく溜息を吐いた。
満員御礼ですよ。 マースさん。
もう一度携帯に視線を落とし時計を確認すると十九時三十分。
早く着きすぎたな。
もみの木から少し離れたベンチに腰を下ろし、重い雲が覆われている夜空を見上げた。
降ってきそうだ。
ブルリと身震いをして二の腕を摩る。 白い息を吐いてエドワードは一週間前のことが脳裏を横切った。
今夜、四人で騒ごうと言い出したのはマース。
『久々に四人で騒がないか?』 『四人って?』 『オレとウィンリィ、お前とロイ』
ロイの名が出てエドワードは胸を高鳴らせた。 そのことに叱咤しながら胸に手をあてギュっと服を握り締める。 そんなエドワードをマースは胸中で嘆息しながらも「どうする」と誘う。
『さっきロイにメールを送ったら日を空けてくれるっていうし』 『ロイが?!』 『ああ、オレの顔が見たくてしょーがねーんだと』
嘘だけど。
ぺロと胸中で舌を出しながらも表面上は悪戯っぽい笑みを向けるマース。
『来るだろ』 『いや、オレは』 『なんだよ。ロイと会うのは久々だし、積もる話もあるだろう』 『あ………うん』
会いたいけど………会ったら箍外れそうで怖い。
影を落とすエドワードに首を傾げて。
『どうした?ロイと何かあったのか?』 『や、なにもって会ってないし』
マースの言葉に驚愕しながらもそれを慌てて否定する。 結局、エドワードはマースに丸めこまれて行くことになった。
けれど。
なにもクリスマス・イブじゃなくてもいいじゃないか。 こんなにカップルばかりの中、失恋相手に会うほど虚しいものはない。 マース、怨むぞ。
理由を知らないにしても誘ったマースに恨み言を呟いてエドワードは目蓋を閉じた。 その時。
「こんな所で寝ると風邪を引くぞ」
馴染んだ声が鼓膜を叩く。 エドワードが驚愕とともに顔を上げれば二週間ぶりのロイが立っていた。
「ロイ………」
一瞬にして身体が震えたと同時にエドワードは眦に涙が溜まった。
「っつ」
慌てて顔を俯かせて両手を握り締めた。
「久しぶりだな。マースとウィンリィは?」
辺りを見渡しながら尋ねるロイにエドワードは何も答えることはできなかった。
なんで? どうして? ロイの顔を見ただけで震えが止まらない。 涙が溢れ出る。
ポタポタと雫が手の甲に零れ落ちる。
もう………駄目だ。
「エド?どうした」
周囲を見渡していたロイだったが返事をしないエドワードに疑問を思い視線を向けると俯いて身体を震わせているではないか。 ロイは慌ててその場に跪き、エドワードの顔を覗き見た。
「エド?」
透明の雫が頬を伝い零れ落ちる様にロイは目を見開いた。
「どうした?エド」 「っつ………」
頭を弱弱しく左右に振るエドワードにロイは困惑しながらも親指で涙を拭いながら頬を撫で上げるように添えた。 触れられたことにエドワードはビクリと体を震わせた。 ロイは慌てて手を引っ込めようとしたがその手をエドワードは両手で掴みとめた。
「エド?」
ギュっと握り締めてそっと指先に口付けを落とす。
「!」
何度も、何度も………。 その様をロイは呆然と眺めていた。 エドワードの柔らかい唇が指から伝わってくる。 夢ではないことを証明するかのように。 けれど。
何故だ? 涙を流し、私の指に口付けを落とすなんて。 これではまるで。 まるで………。
ロイは高鳴る胸を押さえながらエドワードの横髪を指に絡めて後ろへとかきあげた。 髪に隠れた顔が露になるや否やロイは息を詰めた。 金の瞳は潤ませ頬を仄かにピンクに染め、口唇は赤く涙で濡れてとても艶かしい。
誘惑しているようだ。
ゴクリと唾を飲み込んでロイは絡めた髪とともに頬に手を添えた。 その手の平に頬をすり寄せてエドワードは目蓋を閉じた。 眦に溜まっていた涙が零れ落ちる。
ああ、なんて綺麗なのだろう。
ロイの右手を自分の胸にあてエドワードは口を開いた。
「ろい」 「ん?」 「オレ………もう、無理」 「?………なにが?」
弱弱しい声にロイはエドワードに顔を近づける。
「自分を騙すことに」
泣き声で呟くエドワードにロイは首を傾げる。
騙す? 自分を? どういうことだろう。
「エド、すまないが順におって話してくれないか」 「でも言ったらロイに嫌われるから」
人の話を聞きなさい。 じゃなく。 嫌う? 私がエドを?
「それは………ありえないだろう」
エドが私を嫌うことがあっても私がエドを嫌うことなどありえない。
「本当に?」
涙で濡れた睫毛が震わせてゆっくりと目蓋が上がる。 金の瞳が不安そうに漆黒の瞳を見つめた。 ロイは優しく微笑んで。
「ああ、私はエドを嫌うことなどありえないよ」
力強く頷きながら言えばエドワードは肩から少し力を抜いた。
「本当は隠し通すつもりだった」 「うん」 「でも、もう苦しくて辛くて金平糖が溢れ出してとまらないんだ」
苦しくて辛い? 金平糖? ?マークを飛ばすロイに構わずエドワードは言葉を続けた。
「きっとこの想いを告げたら迷惑になるから」
想いって………。
「好きな人がいるってわかっている。それでもこの想いはとまらなかった。ごめん、ごめんね。ロイ」 「エド」
とまっていた涙が再度零れてロイは慌てて指で拭った。 エドワードはギュと目蓋を閉じて。
「好き」
小さな、本当に小さな声でエドワードは顔を真っ赤に染めて呟いた。
時間が止まった。
そう、思った。
ロイは目を見開き驚愕を露にし、まっすぐにエドワードを見詰めた。 エドワードはロイを見ることができず更に顔を俯かせて小刻みに震えていた。
「エド」 「っつ」
エドワードはビクと体を震わせることで答えた。 ロイは右手を引き寄せてエドワードの指に口付ける。
「!」
それに驚愕し、エドワードは顔を上げ、呆然とロイを見詰めた。
「ロイ」 「嬉しい」 「え?」
エドワードの両手を己の手で握り締めて。
「私も好きだよ」 「!」 「好きだ。エドワード」
零れ落ちそうなほど目を見開くエドワードにロイは微笑んで両手を白い頬に添え引き寄せた。 コツンと額をあわせる。
「ずっと好きだった。エド、キミだけを見詰めていたよ」 「え、だって、好きな奴が」
戸惑うエドワードにロイは苦笑しながら「あれはキミのことだよ」と囁いた。
「え?!」 「エドに見て欲しかったんだ。いつでもどこでも」 「オレ?」 「そう、キミだ。エド」
うそ、マジかよ。 信じられねー。 じゃなにか? オレはオレ自身に失恋していたのか?
そこまで思い至りエドワードは体から力を抜きロイの肩に顔を埋めた。
「エド?」 「オレって馬鹿?」 「そうなのかね」 「だって自分に失恋したと思っていたんだぜ」
クスクスと笑うエドワードの背中に右腕を回す。
「けれど私も失恋したと思っていたのだが」 「へ?」
エドワードは慌てて顔を上げた。
え、なんで? ロイが失恋? オレに?
「私の知らない男とデートをしていた」 「あ!」
アレを見られていたのか。
申し訳なさそうな顔をするエドワードにロイは「どういうことか説明してくれるね」と尋ねる。
「あ、あれはその………他の男と付き合ったらロイのことを忘れるかなって思って」 「私を忘れる?」 「だ、だってロイには想い人がいるってわかって………それでも想いはつのるからその」 「違う男と付き合って忘れようとしたのかね」
その言葉に頷き、「ごめん」と呟いた。
「だってロイを想えば想うほど苦しいぐらいに金平糖が溢れるんだもん」 「先ほどから言っている金平糖とはなんだ?」 「あ、えっと………ロイへの想い」 「私の?」 「そう、ロイのことを想ったり考えたりするとココに甘くて色とりどりの金平糖が溜まっていくんだ」
エドワードは自分の胸に手をあてながら言葉にする。
「ほう」 「最初は少しずつだったんだけど、想いを隠せば隠すほど多くなっていってもう溢れ出してとまらない」 「エド」 「とまらない………この想いを言葉にしたくてたまらなかったっ」
またもや瞳を潤めるエドワードの眦に口唇を落とした。
「っつ!」 「もう、泣かないでくれ。泣き顔はとても可愛いけれど綺麗な金の瞳がとけてしまうよ」
そう言ってロイはエドワードの頬、額、鼻先に口付ける。
「そ、そんなことを言ったって」
嗚咽を漏らすエドワードにロイは立ち上がり宥めるように優しく包みこむように抱きしめた。 そして。 エドワードの耳元で囁いた。
「好きだ。愛している」
今まで心に溜めていた想いを優しく甘く言葉にした。 エドワードは両腕をロイの背中に回して。
「オレもずっとずっと好きだったよ」
甘くてけれど辛くて苦しいぐらいに。 ロイを想わない日はなかった。
そうして。 お互いに顔を向けてゆっくりと重なり合う。 ロイはエドワードの頭にフードを被せた。
今のエドを誰にも見せたくないからね。
目の前にいる少女は恋する乙女そのもので。
いつまで私の理性がもつかな。
胸中で苦笑を漏らし、赤い口唇を舌で舐めてから啄ばむ口付けを繰り返し徐々に深くしていった。
「ふっ………はふ」
互いのキスを堪能し、口唇を離せばエドワードは小さな声で願いを言葉にした。 それに驚きながらもロイは嬉しそうに微笑んで。
「もちろん」
受け入れてくれたロイにエドワードはほっと安堵し、そして幸せそうに微笑んだ。
そして。
二人だけでクリスマス・イブの夜を過ごす為に人込みに紛れていった。
空からは真っ白な雪が静かに降りはじめた。
寒い夜は愛しい人とともに温かく過ごしましょう。
メリークリスマス。
その後、髪を切ったことがロイにバレて散々怒られたとか。 エドワードはそれすらも嬉しくてごめんと謝罪し、ロイの為にのばすことを約束した。
END
04/11/26UP
20万打お礼企画で書き上げた小説です。 11月22〜30日までのフリー小説でした。(配布は終了しております)
皆様に感謝を込めて。
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