| 仕事の帰り道、小さな悪魔と出会った。 私を破滅に追い込む為に来た、というその小悪魔は子供で、どこからどうみても悪魔には見えなくて、その証拠を見せろ、と言ったら、手の平サイズの小悪魔に変化した。 それを目にした私は思わず、腹を抱えて笑ってしまった。 とても。 可愛くて。 「…っ笑ってんじゃね――――――!」 顔を真っ赤にして、怒る小悪魔ことエドワード。 「いやいや、可愛くてね」 「可愛い言うな!」 ガウ、と噛みつくように言い返してくるエドワード。 それさえも可愛くて、クツクツ、と笑いながらロイは口を開いた。 「それで、どうやって私を殺すんだい?」 「もっちろん、呪いと事故と」 「呪い、ね」 「あ、馬鹿にしたな。呪いは怖いんだぞ!」 「はいはい」 「信じてないだろ」 「いや」 そうでもないさ。 「可愛い悪魔がこうして目の前にいるのだから」 「可愛い言うな!」 「はいはい」 さて。 「そろそろ、家に帰って寛ぎたいんだ」 そう言って、ロイは子悪魔を両手で捕らえた。 「な、何を!」 「立ち話もなんだし、キミを家に招待するよ」 「な?!」 招待するだと?! 悪魔のオレをか? ひくひく、と片頬を引き攣らせるエドワードに、ロイは微笑み。 「では、帰るか」 軽やかな足取りで帰宅するロイの手にとらわれたエドワードは、ガウガウ、と終止吠えていた。 が。 家に帰り着く頃には、疲れてへばっていた。 「やれやれ、元気な小悪魔だな」 「うるへー」 「なんだ。まだ話せる元気があるのか」 「とうぜん」 だ、と言う前に、ぎゅるるるるる〜〜〜、とエドワードの腹の虫が鳴った。 ロイは噴出すように笑って。 エドワードは顔を真っ赤にして、笑うな、と吠えて。 玄関から居間まで、そんなやり取りの応酬。 「すまないが、食べ物はないんだよ」 エドワードをソファのクッションの上に座らせて、ロイは台所に足を向けた。 「何でだよ〜〜〜」 「料理をしないからだよ」 居間からのブーイングを受け流し、ロイは冷蔵庫を漁った。 やはり、何もないな。 冷蔵庫から水が入ったペットボトルを片手に居間に戻った。 「水ならあるが」 「水で腹は膨れねー」 「文句を言うな」 ほら、とエドワードに手渡す。 が。 手の平サイズでは、ペットボトルなど持てるはずがなく。 「身体を大きくできるか?」 「無理〜〜〜」 腹が減って力が入らない、と、うつ伏せるエドワード。 ロイは軽く溜息を吐いて、壁時計に視線を向けた。 午後十時。 流石に店はもう開いていない。 開いていてもバーぐらいだ。 まともな食事は置いていない。 ロイは廊下に出て、電話機に歩み寄った。 受話器を手に取り、ダイヤルを回す。 コールが数回。 『はい。ヒューズです』 「マースか」 『ロイ、どうした?』 「遅くにすまないな。食べ物はあるか?」 『食べ物?』 「ああ、夕食の残りでもいい」 『夕食の残りって、珍しいな。お前がそんなことを言ってくるなんて』 「あるか?」 『夕食の残りはないが、グレイシアに言って作ってもらうよ』 「すまないな」 数十分後に取りに行く、と言いおき、受話器を置いた。 居間に戻れば、腹がへった、とぼやきながら、エドワードはソファの上で左にゴロゴロ、右にゴロゴロと転がっていた。 「元気じゃないか」 「元気なもんか。腹がへりすぎて死ぬ〜〜〜」 「悪魔も死ぬのか?」 「死なないよ!」 ものの例えだ、と怒鳴るも、元気がない。 「先ほど、友人に頼んで食事を用意してもらっている」 少し、待ちなさい。 「少しってどれぐらい?」 「数十分ぐらいだ」 それよりも。 「食事は人間が食べるものでいいのか?」 「……ん」 小さく頷くエドワードを確認して、ロイは居間の隣室、寝室に向かった。 軍服から私服に着替えて、居間から台所に向かい、戸棚からグラスを取り出し、冷凍庫の扉を開けて氷を入れて、ブランデーを注ぐ。 ロイがグラスを片手に居間に戻れば。 「ぐーぐー」 ソファの上で口からよだれを垂らし、お腹を出して寝ているエドワードの姿があった。 「………お腹が空いていたんじゃなかったのかね」 溜息を吐いて、ロイはエドワードの横に腰を下ろし、グラスに口をつけた。 家に帰ってきたら、風呂に入って寝るだけだと思っていたのに。 「とんだ拾い物をしたな」 犬や猫ではなく、悪魔を。 しかも。 私を破滅させようとしている者を連れ帰るとは。 「私も焼きが回ったかな」 エドワードに視線を向けて、ロイは小さく笑った。 「どうみても、私を破滅させるほどの力を持っているとは思えないけどね」 クツクツ、と笑んで、ロイはブランデーを飲み干し、腰を上げた。 家の鍵を持って、玄関に足を向けた。 外に出て鍵を閉め、アパートを出た。 月の光に照らされた夜道を歩くこと五分。 一軒の家の前に辿り着いた。 インターホンを押すと。 「はーい」 元気な声で玄関の扉を開けたのは。 「マース」 「よ、ロイ」 親友で悪友でもあるマース・ヒューズ。 同じ軍人で、階級は中佐。 「悪いな」 「いいってことよ。立ち話もなんだ。入れよ」 「いや、ここでいい」 「ロイ?」 「お持ち帰りは可能かな?」 「あ、ああ、大丈夫だが」 「じゃ、頼むよ」 マースは驚いた顔をして、一旦家に入った。 それから暫くして、手提げ袋を片手に外に出てきた。 「ほら」 ロイは手提げ袋を受け取り、中を確認して。 「すまないな」 「いいってことよ」 「この礼はいずれ」 「おう!」 ロイはマースに背中を向けて、家路についた。 マースはロイを見送り。 「家に誰かを招いたのか?」 珍しいな、と思いながら、マースは家に戻った。 ロイは家に戻り、居間に踏み込むと。 「何処に行っていたんだ!」 ソファから怒鳴り声。 プンプン、と怒っているエドワードに出迎えられた。 「何処って」 手提げ袋を掲げて。 「食事の調達だが」 「!」 「お腹がすいているんだろ」 ロイの言葉に、エドワードのお腹がぐーぐーと鳴る。 恥かしいのか。 顔を真っ赤に染めて、エドワードはロイを睨み付けた。 ロイはクツクツ、と笑って、テーブルに袋を置き、二段弁当箱を取り出した。 「さ、好きなだけ食べたまえ」 蓋を開ければ、一段にはおにぎりがぎっしり。 二段目には、ウィンナー、卵焼き、コロコロステーキ、ハンバーグ、肉団子などなど。 子供が喜びそうなものばかりが詰め込まれていた。 エリシアの弁当みたいだな。 などと思いながら、ロイはエドワードに視線を向けた。 エドワードは目を輝かせて。 「な、な」 「ん?」 「これ、全部食べていいのか?」 「いいよ」 どうぞ、とエドワードをソファからテーブルに移動させる。 すると、飛びつくように弁当に顔を突っ込んだ。 おにぎりにかぶりつき、美味しそうに食べてから、おかずの弁当箱に移り、肉団子、ハンバーグ、卵焼きと制覇していくのを見て、ロイは小さく笑う。 「水はここに置いておくから」 「うぐうぐ」 「私は風呂に入ってくる」 「んぐんぐ」 コクコク、と頷くエドワードの頭を指先で撫でてから、ロイは風呂場に向かった。 脱衣所で服を脱ぎ、風呂場に踏み込み、シャワーの蛇口を捻る。 頭上から注がれる温かい湯に、ほっと息を吐いて、今日の疲れと汗を洗い流した。 「ふぅ」 ガラ、と風呂場の扉を開けて、バスタオルで頭を身体を拭ってから腰に巻いて居間に戻ると。 「おやおや」 ご飯粒を身体中につけて、服の裾から膨れ上がったお腹を出し、気持ちよさそうに大の字で眠るエドワード。 ロイは苦笑して、弁当に視線を向けた。 「あれを全部食べたのか」 驚きに目を見開き、ロイは再度、エドワードに視線を向けた。 こんな小さな身体の何処にアレだけの食事が入るのか。 「不思議だ」 ま、存在自体があり得ない者だしな。 テーブルに置いていたグラスを手に取り、台所に向かう。 冷蔵庫から水のペットボトルを取り出し、グラスに注ぎ込む。 水を一気に飲み干して、グラスをシンクに置く。 欠伸をしながら、居間に戻る。 テーブルの上にはゴロゴロ、と右側に転がって今にも落ちそうなエドワードの姿で。 「危ない!」 ロイは慌ててエドワードを両手で救い上げた。 本人はぐーぐーと幸せそうに寝ている。 呆れたようにエドワードを見つめて。 「警戒心が全くない」 本当に悪魔なのか? 「と、いうか。これでいいのか?悪魔が」 やれやれ、とロイはご飯粒を指で取り除き、ソファに鎮座するクッションの上に寝かせた。 脱衣所からタオルを手に取り、エドワードの上に被せた。 むにゃむにゃ、とタオルに潜り込むエドワードに、笑いが込みあがる。 「おやすみ」 ロイは居間の電気を消して、寝室に入った。 明日は休みだから、ゆっくり眠れる、と思い欠伸をしながら、腰に巻いたバスタオルを取り外し、床に放り投げて、ベッドに潜り込んだ。 − 続 − 08/06/27UP |