□ 綺麗になること □
〜 片思い3 〜










 近頃よく言われる言葉がある。


『綺麗になったね』


 初めて言われた時には怒りまくった。

 でも。

 否定してもそれは途切れることなく言われ続けて、今では受け流してしまっている。

 そういえば。

 恋する女性は綺麗になるというが、もしかしなくても今のオレがそうなのだろうか?
 つか、オレは女じゃねー。

「一緒よ」

 オレの愚痴(?)を駅前のカフェで聞いてくれているのは幼馴染みのウィンリィ。
 本日は祝日。
 前回のお礼も兼ねて今日は朝からショッピングに映画と振り回され、満足したのかやっとのことで腰を降ろしお茶を飲んでいる最中だ。

「一緒?」
「そうよ。一緒よ。恋すれば人は何かしら変わるわ」
「そうか?」
「そうよ。実際はエド変わったもの」
「そ、そうか?」
「うん、可愛さが増した」
「おい!それ嬉しくねーよ」
「でも本当のことだもん」
「あのな〜」
「いいじゃない。それだけ先生に愛されているってことよ」

 この寒い日にストロベリーパフェを食べながら一人納得しているウィンリィにエドワードは盛大な溜息を吐いた。

「それより聞きたいことがあるんだけど」
「なんだよ」

 真剣な顔で尋ねるウィンリィにエドワードは姿勢を正した。

「あんた、痴漢にあってない?」
「……………………………は?」
「耳が遠くなったの?痴漢よ。チ・カ・ン」
「聞こえているって!オレは男だぞ!!あうはずがないだろう!!」
「本当に?」
「本当だ!」
「なら、いいんだけど」

 エドワードを繁々と見詰めて吐息を吐く。

 手入れが行き届いた金の髪。
 きめ細かい白い肌。
 色づいた口唇。
 そして。
 男にはない色気。
 それを無意識に振り撒いているんだからマスタング先生も苦労するわよね〜。
 ま、ここまで色めき立ったのは先生の所為だけど。

「なんだよ〜。気になるじゃねーか!」
「言っても怒らない?」
「怒らせることなのかよ!」
「そうね〜。エドが嫌がる言葉ではあるわね」
「じゃいい」

 気になりつつもエドワードが身を引けばウィンリィは一口アイスを頬張ってから口を開いた。

「一つだけ注意をしておくわ」
「?」
「満員電車、夜道には気をつけなさい」
「……………………………………は?」
「聞こえなかったの?電車」
「いや、聞こえた!つか、何で男のオレが気をつけなければいけないんだ!!」

 ダンっとテーブルに拳を叩きつけるエドワードにウィンリィは盛大な溜息を吐いた。

「アンタ、一度じっくりと鏡を見るかもしくは周囲を注意深く見てみなさい」
「なんで?」
「私が言いたいことがわかるから」
「??」

 訳がわからないとばかりに首を傾げるエドワードにウィンリィは頭を軽く左右に振った。

 鈍い!鈍すぎる!!

 胸中で激を飛ばしながら嘆息して。

 ま、それがエドなんだけどね。

「ま、いいわ。それよりも先生の電話番号を一桁に登録をしなおしなさい」
「………は?」
「どうせアンタのことだから自動登録したんでしょう」
「あ、ああ」
「今すぐに変えなさい!」
「なんで?」
「いいから言うこと聞かないと」

 何処からかスパナーがウィンリィの右手に握られ振り上げられていた。

「ま、まて!落ち着け!!」
「か・え・な・さ・い」
「は、はひ」

 脅しともとれるウィンリィに促されエドワードは短縮0にロイの番号を登録しなおした。

「何かあったら直ぐにかけなさい!」
「何かって?」
「何かは何かよ!いいわね。私とアルよりも先生にかけなさい」
「お前達よりも?」
「そうよ。私達じゃきっと間に合わないから」
「?」

 間に合わないってなにが?

 首を傾げながら怪訝な顔を向けるエドワードを一瞥しウィンリィは何も言わずアイスを頬張った。

 一度、怖い目にあって自覚するといいわ。

 なんとも恐ろしいことを胸中で呟き、パフェを食べることに専念した。















 それからウィンリィと別れ、エドワードはロイの自宅に向う為、電車のホームに足を向けた。
 時刻は午後十九時。
 空は闇に覆われていた。

 遅くなっちまったな。

 ホームに電車が滑るように入ってきた。
 ドアが開き乗り込もうとしたが、余りの人込みに目を瞠ると同時にウィンリィの言葉が脳裏を横切った。

『満員電車には気をつけなさい』

 気をつけなさい、か。
 ………ま、いっか。

 隙間が殆どない車両に乗り込むと同時にドアが閉まった。
 電車が発進し、エドワードはドアの前に立って外を眺めていた。
 するとカーブの所為か、立っている人が押し寄せては引いての繰り返し。

 あ〜気持ち悪い。
 人込み苦手なんだよな〜。
 早く着かないかな。

 電車が次の駅に到着し、またもや人が増えた。
 今度は密着だ。

 勘弁してくれ〜。

 ゲンナリしながらドアに押し付けられたエドワードの下半身に何かが触れた。

 へ?

 さわさわと人の手が太股を撫で回している。

 う、うそ?
 もしかして、痴漢?!!

 徐々に手は這いあがり、エドワードのお尻を撫でるや否や揉み始めた。

 !!!!

 エドワードは慌てて逃れようとしたが、動けない現状ではどうしようもなく、下唇を噛み締めギュッと目蓋を閉じた。
 カタカタと身体が震えだす。

 何で?
 どうして??

 疑問ばかりが脳裏を横切る。

 オレは男だぞ!
 それなのにっっ………。

 手は執拗に尻を揉み、そしてスルリと前に回った。

 ?!!!!!

 流石にエドワードは耐え切れなくなり声を上げようとした。
 その時。

『到着〜○×駅〜○×駅〜』

 アナウンスが流れると同時にエドワードが立っていた方のドアが開いた。
 すかさずエドワードはホームに駆け出た。
 恐怖で心臓が早鐘し、振り返れば気持ち悪い笑みを向けた男がエドワードの全身を目で舐めいるかのように眺めていた。

「っつ!」

 慌てて視線を逸らし、エドワードは震える手で携帯の短縮を押した。
 男から目を逸らすことはできず電車が発車するまで身体を震わせてながら眺めていた。

『……ディ、エディ?』

 いつの間に繋がっていたのか。
 耳元でロイが呼んでいた。

「ロ、ロイィ………」
『どうした?』

 声が震えているエドワードにロイは何かあったのだと察した。

「ごめ、もう電車に乗れない」
『エディ、今何処だ』
「神田宮線の○×駅」
『わかった。直ぐに行くからそこで待っているんだよ』
「う、うん」
『あとホームにいなさい。着いたら電話をする』
「わかった」

 携帯を切り、エドワードはベンチに腰を降ろし両腕を前で交差し震える体を抱きしめた。















 それから間もなくしてロイが駅に着いた。
 改札を出て直ぐにロイを見つけるや否やエドワードはポロポロと涙を流した。

「エディ?!」
「ロイ〜〜〜」

 エドワードはロイに駆け寄り抱きついた。

「どうした?何があった?」
「っ」

 頭を左右に振り、ロイの背中に両腕を回し震える体を押し付けた。

「エディ」

 エドワードの頭を優しく撫でて口付ける。

「ひっ………ふぅ」

 泣き声をかみ殺している姿はとても痛々しくて。

「エディ、ここでは身体が冷える。車に行こう」

 優しく宥めるように促すが、エドワードは頭を左右に振りギュギュと両腕に力を込めた。

「エディ」
「や、離れたくない!」
「エディ」

 困ったなと呟きながらもロイはエドワードの背中を摩り髪に口付けを繰り返して。

「エディの両腕を私の首に回してくれないか?」

 屈むロイにエドワードは言われたとおり両腕を腰から首に回すや否やエドワードを抱き上げた。

「うひゃ」
「ほら、ちゃんと捕まって」

 突然のことに驚きながらもロイに言われたとおりギュっとしがみつく。

「いい子だ」

 チュと頬に口付けてロイは車に足を向けて助手席のドアを開ける。

「や、まだ離れたくない!」
「わかっているよ」

 ロイはエドワードを抱いたまま、助手席に乗り込みドアを閉めた。
 エンジンがかかっていたお陰で車内はとても温かった。

「………温かい」
「そうか」
「うん、とても温かい」

 ロイの胸に頭を乗せて幾分か落ち着いたエドワードにロイは心から安堵した。
 髪どめを取り、長い髪を指で優しく梳いた。
 ゆっくりと丁寧に。

 そして。

 キスも忘れずに。
 エドワードの心を解していった。

「……あのね」
「ん?」
「さっき」
「ああ」
「電車に乗ったんだ」
「そうか。この時間だと満員だっただろう」

 その言葉にエドワードはビクリと身体を震わせた。
 ロイは何も言わずにそっと頭に口付ける。

「うん。凄い人で………でも、ロイに早く会いたかったから乗ったんだ」

 顔を胸に押し付けて。

「二駅目でまた人が増えてドアに押しつぶされていた時に知らない男がオレに触れてきたんだ」
「エディ」
「太股に触れられてそれから徐々に手が上がってきてっ」

 ギュっとロイの服を掴む。

「尻を撫でて揉まれてっ」
「もういい。エディ」
「気持ち悪かったぁ!」

 今度は声を上げて泣き出したエドワードにロイは辛い顔で抱きしめた。
 泣いている間、怖かったと呟くエドワードにロイはもう大丈夫だよと囁く。
 そして。
 そっと顔を上げさせ額、頬、鼻先、唇に口付けを落した。
 零れ落ちる雫を唇で拭う。

「ロイ、ロイ、ロイ」
「大丈夫だから、私はここにいるよ」
「んっ」
「エディ、次からは無理に電車に乗るんじゃないよ」
「うん」
「私が迎えに行ってあげるから」
「それじゃ迷惑に」
「ならないよ」
「ロイ」

 エドワードの顔を両手で挟んで。

「キミは私の恋人なのだから。その恋人が危険な目に合う事ほど私にとって辛いものはない」
「っつ」
「いいね。次からは私を呼びなさい」
「ん、うん」
「ああ、ほら泣くんじゃない」

 ロイは慌てて涙を親指で拭う。

「そんなに泣くと目がはれ上がってしまうよ」
「っ」
「さ、帰ろうか」

 その言葉にエドワードはロイを見上げて。

「今夜………ロイの家に泊まっていい?」
「もちろん、そのつもりだったよ」

 ロイの言葉に安堵の息を吐きながらも思いつめた瞳で見上げ口を開けた。

「そ、それとね」
「ん?」
「この手と」

 ロイの右手に頬を摺り寄せて。

「この唇で」

 指でロイの唇をなぞり。

「消毒………してほしい………」
「っつ!」

 頬を染め、潤んだ金の瞳はロイの下半身に直撃だった。

「まだ、感覚が残っているんだ。気持ち悪くて吐き気がする」
「エディ」
「ロイしか弄って欲しくないのに………オレはロイのものなのに他の男の手の感覚があるなんてっっ!」
「っつ」

 ロイはエドワードの唇を貪るように口付けた。

「ふうっ……んぁ………ん」

 ピチャリと音をたて、離れるとうっすらと目蓋を上げたエドワードに微笑んで。

「エディ………手加減が出来そうも無いんだがそれでもいいかい?」
「うん。ロイで満たせて………」

 エドワードの両腕がロイの首に周り引き寄せて。

「ロイ、ごめん。大好き」

 再度、口唇を重ねた。



 忘れさせて。
 貴方の熱で。
 外も。
 内も。
 焔のように焦がして………。
 


 もう二度と他人に弄わせたりしないから。



 オレはロイのものだから………。

 だから。

 ロイもオレ以外を抱いちゃ駄目だよ。





   END



   04/12/13UP






今回のテーマは綺麗と痴漢でした。
痴漢は怖いですよね。
ニュースを見ては真っ青な毎日です。
皆様、満員電車・夜道はお気をつけください(><)