□ 初 恋 □










いつからだったか。

 アイツを想うと胸が痛むようになったのは。
 アイツに会うと胸が苦しくなったのは。

 わけがわからないこの想いを賢者の石を探すことで紛らわそうとしたが・・・・無駄なあがきだと思い知らされたのはつい最近の事。

 アイツと会っても。 

 嫌味を言われるだけなのに。
 からかわれるだけなのに。
 子供扱いされるだけなのに。

 それでも。

 会うだけで嬉しい。
 話しをするだけで楽しい。

 でも。

 近頃はそれだけでは物足りなくなってきて・・・・。

 オレこれ以上アイツに何を求めているんだよ。

「わっけわからねー」

 オレの下へ国家錬金術師のスカウトとして来た彼は今や上司である。

 ロイ・マスタング。

 地位は大佐。
 二つ名を『焔の錬金術師』。
 漆黒の瞳と髪そして整った顔立ちを持つ大佐は女性にもてる。
 道端で立っているだけで声がかかるぐらいだ。
 えっとこれを確かギャクナンって言うんだよな。
 ハボック少尉とかすごく羨ましがっていたっけ。
 何がそんなに羨ましいのかは謎だけど・・・・・・。
 オレにしてみれば胸がムカムカする上に痛みがあるというのに。
 
「大人ってわからねー」

 あ〜あ、わからないことばかりだ。

 青い空を見上げ目を細めて溜息を吐いた。
 
「にいさ〜ん」

 買出しに出ていた大きな鎧が両手一杯に買い物袋を抱えて駆け寄ってくる。

「おう!アル」
「必要な物は全て買えたよ。兄さんの方は何かいい文献見つかった?」
「いや、全然。オレたちが探しているモノは無かったが面白い文献は見つけたぜ。あと以前アルが探していた文献も見つけた」
「え、本当?」

 厳つい鎧に似合わない幼い声色で花開いたような嬉しそうな仕草を見せるアルフォンスにエドワードも笑みを漏らして。

「それじゃさっさと宿に帰って読もうぜ」
「うん、あ、その前に東方司令部へ寄らないと」
「・・・・・明日でいい」
「兄さん、それ昨日も言ったよ」
「・・・・・そうか」

 そっぽ向いて答えるエドワードにやれやれと言わんばかりに溜息を吐いて。

「そうだよ。今日という今日は絶対に行かなきゃ駄目!それに報告もまだなんでしょ?済まさなきゃ次の街に行けないよ」
「わ、わかっている・・・・けど・・・・」

 会いたくないんだよ。
 オレたちは一昨日の夕方イーストシティに着いた。
 その次の日に旅の報告書を大佐へ提示し旅立つ予定だった。
 だが。
 この街に着いた途端オレは司令部へ行くことに躊躇いがでた。
 
 『会いたくない』
 
 それが胸中を占めている。

「兄さん・・・・ボクも着いて行ってあげるから」

 ね、だから行こうと宥めるアルフォンスに背を押されて。

「・・・・わかった・・・・」

 渋々承諾したエドワードは一度宿へ戻り買い物の荷を置いて代わりに封書を片手に宿を後にした。
 ノロノロと歩くエドワードの背を大きな鎧の両手で押して。

「兄さんシャキッとして」
「ん〜」
「あ、兄さん!司令部の皆へ茶菓子を買っていこうよ」
「そうだな」
「じゃボク買ってくるね」

 重々しい音とともに目の前の店へと駆け出して行った。
 
 アルは本当に司令部の皆が好きなんだな。
 家族を亡くしたオレたちを温かく迎えてくれる唯一の場所。
 もちろんオレも好きだ。

 だけど・・・・。

 重々しい溜息を吐いて。

 今は・・・・・・。
 この感情の意味がわからないうちは行きたくない。
 
「兄さん」

 いつの間に戻ってきたのか。
 茶菓子の買いだしに行っていたアルフォンスの片手にはドーナツの箱。

「早かったな」
「どうしたの?ボーとして」
「ん、どうもしないぜ。じゃ行こうか」
「う、うん」

 司令部へ足を向けるエドワードの背中を眺めて。

 兄さんが近頃おかしい。
 近頃・・・・じゃないなぁ。
 随分前からだ。
 確か・・・・1年前ぐらいからかな。
 報告書を提出する為にイーストシティに寄ると全身が緊張していたことを覚えている。

 ナニに?

 その疑問は司令部へ着くや否や解かれた。
 原因はロイ・マスタング大佐。
 大佐を目の前にするや否や視線を逸らしソワソワして落着き無い上に緊張が一気に高まる。
 それは傍目からはわからない程の態度で。
 あ、でも目敏い大佐のことだからバレているとは思うんだけどな。
 
 しかし。

 何で大佐に緊張するのかが不思議で首を傾げたっけ。
 その理由は直ぐにわかったけど・・・・。
 本当にわかり易い性格なんだよね、兄さんって。
 黒の髪と瞳を持つ青年を見つけたら視線で追っているし、軍服を見つけたら体を強張らせるし。
 それに。
 とある宿でポツリと呟いた言葉。

「大佐ってさ、女好きでタラシで無能だよな」
「そう?ボクはカッコイイし有能だと思うけど」
「・・・・・・そう思うか?」
「え、うん、実際にそうじゃない」
「そ、そうか。へへ」

 嬉しそうに微笑む頬にはうっすらとピンクに染まっている。
 アルフォンスは首を傾げて。

「どうしたの急に」
「ん、別に・・・・・・な、アル」
「なに?」
「近頃さ、ある奴のことを考えると胸が痛くて苦しいんだ」
「・・・・・・」
「で、考えないようにしようとしてもいつの間にか考えているんだ」

 に、兄さん・・・・それって・・・・、

「これってなんだろうな」

 なんだろうなってそれは『恋』というものではないのですか??

 背中に冷汗を流しながらエドワードの疑問を聞き眩暈を覚えたのは言うまでも無い。
 あいかわらず鈍感だ。

 しかし。

 大佐に目をつけるとは兄さんもやるな〜。
 
 兄に春が来たことに喜んだのも束の間。

 あ、でも。
 大佐は気づいているのかな?

 首を傾げてうにゅと可愛らしい顔を見せる。

 兄さんのことばかり考えていたけど・・・・どうなんだろう・・・・。
 女性好きだというのは知っているけど・・・・。
 ・・・・・・もしかしてもしかしなくても失恋かな。
 じゃこのまま気づかない方がいいかも・・・・。
 兄さんが傷つく所見たくないし・・・・。
 うん、黙っておこう。

 エドワードのモヤモヤの原因を気づいたと同時に答えまで出したアルフォンスはその日から温かい眼差しで兄と大佐の仲を見守って1年。
 
 月日が経つのは早いな。 

 などと考えているうちに司令部へ到着した。
 チラッと横にいる兄へ視線を向けると全身緊張を走らせていた。

 うう〜ん、肩が懲りそうだ。

 エドワードは深呼吸を数回して。

「行くぞアル!」

 気合をいれて二人は重々しい門を潜った。

 中に入ると見知った面々が「久しぶり〜」「元気にしてたか?」「いつ戻ってきたんだ」と四方八方から声を掛けてくる。
 それをご丁寧に返事をしながら目的の部屋へと辿り着いた。

 とうとうきたか・・・・。

「兄さん」
「わ、わかってるって」

 横から急かされエドワードはドアノブに手をかけ回した。
 ガチャと軽やかにドアが開くとそこにはいつもの面子が二人。

「よ!久しぶりじゃねーか大将」

 いつもの如く銜えタバコがトレードマークのハボック少尉。
 
「お帰りなさい、エドワード君、アルフォンス君。今回は長旅だったわね」

 唯一の女性であり大佐のお目付け役であるホークアイ中尉。
 他3名は街へ繰り出しているとかで不在。

 ついでに大佐も不在だったら良かったのに・・・・。

 だが。
 そんなに甘くないのが世の中である。

「大佐は奥の部屋にいるわ」
「イルンデスカ」

 すっごく嫌そうな顔で言うとホークアイ中尉は首を傾げて。

「ええ、居ては駄目なの?」
「イエ・・・・ソンナコトハ・・・・」
「ほら兄さん仕事仕事」
「わ、わかってるって!」

 再度背中を押されエドワードは仕方なく奥の部屋へと足を向けた。
 それを見送ったアルフォンスはやっと行ったといわんばかりに溜息を吐いた。

「エドワード君もどこか調子が悪いの?」
「も?」
「そうそう、オレ等の上司も調子が悪いの何のって」
「大佐も?」
「ええ、表面上に出さないけれど大佐らしくないポカをするの」
「そうそう、この前は焔の加減し忘れて家ごとドッカン!」
「・・・・始末書大変だったでしょう」

 他に言うことがあるのに出てきた言葉はハボック少尉とホークアイ中尉の苦労を表すであろう『始末書』の言葉であった。

「本当にあの時は参ったぜ。二度とないことを願うね」
「現在進行中です。ハボック少尉」
「あ、そうでした。ホークアイ中尉」
「進行形?」
「「書類!」」

 二人は同時にアルフォンスを見て言った。

「そ、そんなにポカを?」
「ああ、呆れるぐらいにな」

 ホークアイ中尉はハボック少尉の言葉に頷いて。

「原因はなんですか?」
「・・・・それはー・・・・」

 言いにくそうに視線を向けた先は先ほど兄を見送ったドアで。

「えっと・・・・もしかして・・・・兄さん?」
「「ビンゴ」」

 またもや同時発言。

 この二人って気が合うな〜。

「兄さんまた何かやらかしたんですか?」
「やらかしたらお前さんの方が身に覚えあるだろうが」
「う、うん」

 確かに行く街ごと暴れてはいるけれど・・・・・・。
 ここ数ヶ月はそんなに大きな事件を起こした記憶はない。

「じゃなんだろう?」
「ま、きっとエドにとっては迷惑この上ないだろうがな」
「迷惑?」
「ええ、そうね。手を出したその時は」

 腰から銃を取り出し構える。

「遠慮なく打ちます」

 冷静に言うホークアイ中尉に二人は真っ青な顔で。

「「や、そこまでしなくても・・・・」」
「そう?私にとってエドワード君もアルフォンス君も大切な子なの。その二人に何かあった時はいくら上司であろうとも容赦しません」
「・・・・・・まるで母親のような口調っす、ホークアイ中尉」
「いけませんか?」
「や、いけなくはないですが」

 二人のやり取りを横目にアルフォンスは感動していた。

 ホークアイ中尉がボクたちのことを子供のように接してくれているのは知っていたけどここまで思ってくれていたなんてすっごく嬉しい。
 しかもこんなごつい鎧のボクを子供だなんて感動だ!

「で、大将の調子悪い原因はなんだ?」

 感動しているアルフォンスにハボックが疑問を投げつけてきた。

「えっとですね。兄さんは大佐のことが好きなんです」
「「・・・・それは親代わりとしてだろ・でしょ」」
「いえ、違います。恋愛感情だと」

 アルフォンスの言葉に二人は絶句し盛大な溜息を吐いた。

「なぁ〜んだ、二人とも相思相愛かよ」
「まったく人騒がせですね」
「えっとどういう?」

 今一事態を飲み込めてないアルフォンスは首を傾げて問う。

「さっき言っただろ。迷惑この上ないって」
「はい」
「大の大人が子供に恋愛対象として想っているとしたら」
「・・・・誰がですか」
「「大佐が」」

 二人の言葉に驚愕して。

「ほ、本当ですか?!!」
「本当です」

 青筋をたてた額に手を当てながら溜息を吐くホークアイ中尉の肩を宥める様にハボック少尉が手を置いて。

「あ、でも兄さん自分の気持ちに気づいてないから・・・・」
「そのうち否応なしに気づかされるぜ」
「ええ、無理やりにでも」

 その言い方、まるで大佐が極悪人のようです。

「そ、そうですか」

 に、兄さん。
 大変な人を好きになってしまったみたいだよ〜。

「こりゃ面白くなりそうだな。オレたちは高見の見物を行こうぜ」
「ハボック少尉!」

 ホークアイ中尉が睨みつけるや否や姿勢を正して視線を天井へさ迷わせる。

「きっとそれは無理だと思います」

 トラブルメーカーの兄さんと大佐じゃきっとボクたちも巻き添えをくうことだろう。
 でも兄さんの幸せの為ならボク頑張るよ!

 気合を入れ直したアルフォンスは手土産を持ってきたことを言うなりいそいそとヤカンへ手を伸ばした。

 
 さて。
 3人が話している間エドワードと大佐はというと・・・・・・。





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   04/1/14UP