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両手一杯の赤い薔薇。
貴方は誰にプレゼントをしますか?
十二月中旬。 街はクリスマス一色でとても華やかだ。
しかし。
ここ中央司令部と大総統府は事件と書類の嵐であった。
「おい!この書類はこっちじゃねーぞ!」 「街中で事件だ!」 「このダンボールをどけろ!」
男どもの荒々しい罵声が飛び交っていた。 上着を脱ぎシャツの袖を捲り上げてデスクに噛り付いて書類を手がける者。 目を血走らせながら走り回る者。 働きすぎで顔を蒼白にする者。 他にも様々な者達が『仕事』に立ち向かっていた。 一言で言い表せば『地獄』である。 今年最後の大仕事といわんばかりの量がどこからか埃を被って現れるのだ。 地獄以外に何者でもない。
それに。
数日後はクリスマス。 恋人、家族がいるものはその日を勝ち取る為に必死だ。 その光景は………余り直視できるものではない。 場所が変わって大総統府の三階の突き当たり。 重厚な扉の先に居る人物。 ロイ・マスタングも例に漏れずに書類に埋もれていた。
「少将、この書類にもサインを」
積み上げた書類の上に更に積み上げたエドワードは腕を回し自席に着いた。
「エディ………」
恨みがましそうにロイが唸る。 それを一瞥しエドワードは書類に視線を落として。
「口より手を動かせ」 「私を殺すきかね」 「骨は拾ってやろう」
無常なエドワードの言葉にロイはデスクに項垂れた。
「エディ〜」 「情けない声を出すな!ロイも忙しいが部下も忙しいんだ」 「わかってはいるがね」
愚痴りたくもなるのだよ、と付け足し上体を起こし書類に手を伸ばす。
「気持ちはわかる。だがな。毎年、その愚痴を聞いている身にもなれよ」 「そんなに愚痴っているかね」 「ああ、かなりな」 「そうか。それはすまない」 「別に攻めているわけじゃねーよ。…………気持ちはわかるからさ」 「エディ」
部下よりも仕事が多いロイの愚痴を聞くのはいい。 苦痛じゃない。 気持ちもわかる。 けれど。
「でも」 「でも?」 「手は動かせ!」
ビシと人差し指をロイに指して命じた。 ロイは渋々、書類に視線を落とした。
けれど。 今年のクリスマスは二人だけで過ごしたいと思うのは贅沢だろうか。
そっと気付かれないように溜息を吐いてエドワードは視線を落とした。
結婚してからというもの。 十二月中旬からは残業が続き、下旬には仕事場に泊まりが決定づけられる。 そうなるとクリスマスの日はロイの部下達と一緒に過ごすことになるわけで………。 嫌ではないけれど………。
書類にペンを走らせる。
一度だけでいいから他の恋人達のように二人っきりで過ごしたい。 って思っているのはオレだけかな。
斜め前に座って書類と格闘しているロイに視線を向ける。
なぁ、ロイ。
左手をギュと握り締め、顔を俯けた。
オレだけ………女々しい望み………かな。
キュと口唇を引き締めてペンを持ち直し頭を切り替え書類に向った。
十二月二十四日 クリスマス・イヴ。
だけど。 やっぱりというか。 当たり前というかでオレの望みは一昨日に粉砕された。 オレとロイは二十一日から宿泊決定の身となったからだ。
「はぁ」
ファイルを片手にエドワードは悩ましげに溜息を吐いた。
年末まで家に帰れない。 その上、ロイと二人っきりにもなれない。 なれたとしても。
執務室の扉を開けて思わず視線を逸らした。
仕事がついてくる。 それでも、リザ母さんよりはマシか。
いつもこの時期になると寂しげに玄関を見詰める義母。 寂しいとか辛いなど一切、言葉にはしなかった。 けれど、それがとても痛々しかった。
今年も帰れないのかな?
少将であるロイがこの多忙さだ。 無理か。 でも、できれば帰って欲しい。
などと。
少しは期待していた所にキング義父さんが秘密の抜け穴を通って執務室に遊びに来た。 切れたのは言うまでもない。 ちょっとカマをかければすぐさま自分の執務室に駆け戻っていった。 その時にロイが一言。
『エディはそんな思いはしていないかい?』
そう、問われたからオレは。
『激務の際はロイの熱を感じられないからちょっと寂しい………』
こう答えた。 本音の言葉。
けれど。
少し深読みして欲しかったもの本音。 でも、ロイは言葉のままを受け止めた。
『激務が終わったら思いっきり愛してあげよう』
嬉しい言葉。 でも、激務が終えたら新年を迎えている。
「っつ」
当然の返事だ。 返事だけれど………。
ロイの抱擁に目蓋を閉じ、体の全てで感じながら心で雫を零した。
多忙な時ほど時間が過ぎるのは早い。 エドワードは決済の書類を分別し、手早くファイルに綴じて整理をしていく。 しかし。
「一向に減らない」
目の前の山の書類をジト目で見詰めて何度目かわからない溜息を吐いた。 窓の外に視線を向ければ既に真っ暗。 続いて時計を確認すると午後二十時。
一休みするか。
コーヒーでも入れようと席を立つと同時に扉が勢いよく開かれた。
「エディ、帰るよ」 「?!………はい」
執務室に入ってきたのはロイ。 素早くコートに袖を通し、エドワードの腕を掴むや否や部屋を出た。
「え、おい、ちょ」
帰るって、帰るって? 何故? どうして? デスクの上には書類が山のようにあるというのに。
「そうそう、帰りにケーキを買わなくては」 「へ?」 「あと、赤い薔薇もね」 「??」
怪訝な顔でロイを見上げれば彼は振り返ってウィンクをして見せた。
「今夜はクリスマス・イヴだよ」 「!」 「恋人達の夜だ」 「ロイ………」
驚愕とともに目を見開くエドワードにロイは物陰に引き寄せて抱きしめた。
「結婚してからクリスマスを二人で過ごしたことがなかった」 「っつ」
ギュとロイのコートを握り締める。
「ずっとエディと出会って結婚してから思っていた。クリスマスを恋人のように過ごしたいってね。女々しい願いかもしれないが、心の奥底から願っていた。だから副官であり妻であるキミに相談しようとしたのだが…………」 「………だが?」
先を促すエドワードにロイは苦笑して。
「部下も忙しいんだ、と言われては相談などできなかった」
あっ。
エドワードはしまったと自分に叱咤し、額をロイの胸にこすり付けた。
「ごめん」 「いや、本当のことさ。けれど、私はどうしてもキミとクリスマスを一緒に過ごしたかった」
どんな犠牲を払ってもね、と怖いことを口にするロイにエドワードは笑みを漏らした。
「どうやってハボック大尉達を言いくるめたんだ?」 「言いくるめたとは酷いね。お願いをしただけだよ」
ロイのお願いほど怖いものはないと思うけど。
それを口にはせず、エドワードはクスリと笑って。
「いけない上司だ」 「エディの所為だよ」 「オレ?」 「そうだよ。エディがそうさせるんだ」
エドワードの頬を両手で挟み。
「私を狂わせ全てを奪っていった愛しいキミだから」 「狂わしてなんか」 「いるよ」
尖がらせた口唇に触れる口付けを落として。
「エディと出会ってから私の心はキミのものだから」 「ロイ」
そっとロイの手に自分の手を重ねる。
「オレの心もロイのものだよ」 「当然だな」
仄かに頬を染めて微笑むエドワードにロイも蕩ける様な笑み向けてゆっくりと顔を近づける。
「愛しているよ。エディ」
エドワードの後頭部に片手を回した。 その時。
「少将〜。早くしてください」
ドキッ!
壁を叩き、お邪魔しますと呟くのは煙草がトレードマークのハボック大尉。
「おあつ〜いのはいいことですが、俺は一人身なんで目の毒なんっすよ」 「それは私の所為ではないだろう」
エドワードを離さず答えるロイにハボックはワザと盛大な溜息を吐いた。
「へぇへぇ、どうせ俺は年がら年中振られっぱなしっすよ」
その場に座り込みいじけたハボックにロイは見てみぬ振りをしてエドワードにすかさずキスをした。
「っロイ!」 「続きは帰ってからだ」
耳元に甘く囁いたロイにエドワードは顔を真っ赤に染めて飛び退いた。
こ、この〜〜〜!
嬉しいけれど少し悔しくて睨みつければ、そんなエドワードも愛しいといわんばかりの微笑みを向けられた。
こ、このやろ〜〜〜家に帰ったら見てろよ! オレの全てでロイが腰を抜かすほどに愛してやるからな!!
ハボックを一応励ましているロイにエドワードは満面の笑顔で駆け寄った。
最高のクリスマスにしよう。 ロイ!
そうして。 二人はハボックの運転で帰路についた。 途中でケーキと両手一杯の赤い薔薇を買った。 ロイに何故、と問えば。 「エディには赤い薔薇が似合うから」
蕩ける様に低くて甘い声で言うものだからエドワードは一瞬にして顔を真っ赤に染めた。 そうして二人の世界にいってしまった。
しかも。
後部座席で………。
「酷いっす。少将、大将………」
今回の一番の犠牲者は涙ぐむハボックであろう。
なにはともあれ。
メリー・クリスマス。
END
04/12/21UP
もう直ぐクリスマスってことでらせんシリーズの二人を書いてみました。 このお話は微妙に親馬鹿日記の『キングの年末年始』と繋がっています。 よければそちらの方も読んでみてください。
どちらも楽しんで頂ければ幸いですvv
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