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とても大切な日なの。
そう、リザ義母さんは言って柔らかく微笑んだ。
□ 大切な日 □
深夜。 アルフォンスは目蓋を手の甲で擦り欠伸を漏らしアイスコーヒーを冷蔵庫から取り出した。
「あともうちょっとなんだけどな」
論文が最後の最後で行き詰ってしまった。 早く仕上げてあの本を読みたいのに・・・・。
先日、兄の旦那であるロイから医学書を貰い受けた。 それはずっとアルフォンスが探していた本で手放して喜んだのは言うまでも無い。
だが。
十冊は流石に一日で読み終えるわけも無く、仕方なくアルフォンスは論文を仕上げてからゆっくりと読むことにしたのだ。 さて、もう一分張りってあれ?
アイスコーヒーが入ったグラスを片手に自室に戻ろうと廊下を歩けばリビングから光が漏れていた。
「まだ誰かが起きているのかな?」
少し開いているドアから中を覗き見る。 すると、そこにはリザが一生懸命ナニかをしていた。
お義母さん? こんな夜遅くに何をしているんだろう??
アルフォンスは首を傾げながらドアを開け中に足を踏み込ませ。
「お義母さん」
そっと脅かさないように呼んだのだが、それでも驚いたようでリザはビクリと体を震わせアルフォンスに驚愕の面持ちで振り返った。
「ア、アル・・・・もう、脅かさないでよ」 「驚いたのは僕の方だよ。こんな夜遅くに何をしているの?」
リザに歩み寄りながらアルフォンスが問う。
「これを作っていたの」
そこには色とりどりの薄い布が広げられていた。
「見たことが無い布だね」 「私も一昨日、初めて見たわ」 「そうなんだ。で、これで何を作っているの?」 「浴衣を作っているのよ」 「浴衣?」
首を傾げるアルフォンスにリザは緑の浴衣を肩にかけた。
「・・・・・・・・・・マント?」
怪訝な顔で浴衣を見詰めるアルフォンスにリザは苦笑し、帯を片手に服の上から着せた。 それを不思議そうに見詰めるアルフォンスにまた笑いを誘われ帯を後ろでしめた。
「こうやって着るものなのよ」 「へ〜すごいや」
浴衣の袖を掴み広げて物珍しそうに見つめた。
「やっぱりアルには緑が似合うわね」 「そうかな。あ、兄さんは?」 「エドはコレ」
広げられた浴衣は白の絹に赤が波のように染められ藤の柄がはいっていた。
「・・・・・・なんだか僕のとはちょっと違うね」 「そうね。女性の柄らしいから」 「・・・・・・兄さん、怒らないかな?」 「言わなければバレないわ。それに」 「それに?」 「こっちの方が似合うでしょう」
ニッコリと微笑みながら言われアルフォンスは素直に頷いた。
「ロイ義兄さんは?」 「これよ」
紺の浴衣を指した。
「うん、ロイ義兄さんは紺だよね」 「そうね」 「お義父さんは?」 「只今製作中よ。色は白」 「そうなんだ。お義母さんのは?」 「柄はエドと変わりないけど赤の部分が紺なの」 「じゃ色違いのお揃いなんだね」 「ええ」 「で、これはいつ着るの?」 「二日後よ」
二日後? 何かあったかな??
「七夕よ」 「!」 「勉強勉強でお祭りは忘れ去られていたようね」
リザの言葉にアルフォンスは苦笑いで答えた。
「明日から街はお祭りで大騒ぎよ」 「え?!祭りが開かれるの?!!」 「ええ、大総統命令でね。街中に笹が立てられているはずよ」 「笹が!じゃ短冊も?」 「もちろんよ」 「うわ〜僕もお願いを書かなきゃ」 「そうね。でもお願いは三つまでよ」 「わかってます。今年も庭に笹をたてるの?」 「もちろんよ」 「そっか。じゃ早々に論文を終わらせないと」
お祭りと本。 楽しみが増えた。
「頑張るのはいいけれど無理はしないように」 「うん」
じゃおやすみなさい、とグラスを片手にアルフォンスはリビングを後にした。 それを見送りリザは手にしていた白い浴衣を頬に寄せて。
「もう・・・・あなたは覚えてはいないかしら」
そっと囁きかけた。 この場に居ない愛しい人へ・・・・・・。
7月7日 七夕。 夏祭りとも称されセントラルはお祭り騒ぎである。 その中、軍人は街の警護についていたのだが、いつもの軍服姿では面白みが無いと言い大総統であるキング・ブラッドレイは男性に『甚平』を着ることを命じた。 もちろん、不平を言う者は一人もいない・・・・わけではなかった。 将軍等がそれでは仕事にならないと言い張ったがキングは頑固として無視し。 「街が祭りなのだから軍服で歩かれると迷惑だろう。やはりそれなりの色を纏わんとな」
その一言で事をおさめた。
しかし。
キングの本音は。 「自分はリザ義母さんの手作りの浴衣を着たいからそう言っただけだろ」
息子であるエドワードがリザに着せてもらった浴衣を纏いロイに言い切った。
「そうなのか?」 「そうだよ。それに」 「私達だけでは目立つでしょう」
はい、終わりとエドワードの髪をアップしたリザに礼を述べる。
「さ、次は少将の番です」 「ああ」 「あ、まってリザ義母さん。ロイの着付けはオレがやる」 「エドが?でもやり方は知らないでしょう」 「さっきリザ義母さんの着付けを見てたから。あ、でも傍で見ててね」 「はいはい」 「では、エディお願いするよ」 「うん」
紺の浴衣を片手にエドワードはロイの前に立った。 服を脱ぎ捨てたロイに浴衣に袖を通させ着せていく。 前を交差し、帯を巻く。
「苦しくない?」 「ああ、大丈夫だよ」
エドワードは着崩れないように結び目をしめた。
「本当に記憶力がいいわね。エド」 「エヘへ」 「有難う、エディ」 「どういたしまして。じゃ街に行こう!ロイ」 「そうだな」 「リザ義母さん、行って来る」 「ええ、気をつけてね」 「そうだ。アルも一緒に」 「アルはもう街に出たわよ」 「え?!」
驚いたエドワードはリザに向き直った。
「一人で?」 「いいえ、女性と一緒に」 「女性?」 「えっと確か名前はウィンリィって」 「「ウィンリィ?!!」」
ロイとエドワードが声を揃え驚愕した。
「あら、知っているの?」 「知っているも何も幼馴染みだよ」 「幼馴染み?」 「リゼンブールで隣に住んでいたんだ。でもいつセントラルに来たんだ?」
首を傾げるエドワードにリザは苦笑して。
「明日わかることじゃない。ほら、いってらっしゃい。祭りが終わっちゃうわよ」 「それもそうだな。ロイ行こう」
ロイの腕を引っ張りエドワードは早足で部屋を後にした。
「まったく忙しない子ね」 「本当にな」
息子達の入れ替わりのように入ってきたのは眉間に皺を寄せたキングだった。
「あなた」 「まったく父に一言もなしに行きよった」 「いいじゃありませんか。それよりあなたもコレに着替えてください」
リザは白の浴衣を片手にキングに歩み寄ろうとしたが。
「動くな」 「?」
キョトンとした面持ちでキングを見詰めると一瞬、光が放った。
「え?」 「お前の浴衣姿などそうそう見れないからな」
そう言ってキングは写真機を掲げた。
「用意周到ですね」 「もちろん、アルとエドも撮ったぞ!」
高らかに笑うキングに呆れた顔を見せ、そっと微笑んだ。
「さ、服を脱いでください」 「うむ」
リザはキングに歩み寄り浴衣を着せていった。
月明かりの下、浴衣を身に纏い二人は庭にでた。 そこには大きな笹がたてられ葉には色とりどりの短冊が飾られ皆の願いが風で舞っていた。 「今年は晴れてよかった」 「ええ」 「リザ」 「はい」 「何を願った?」 「秘密です」 「なんだ。教えてくれないのか」
拗ねた顔でリザを見詰めるキングに笑いを誘われて。
「そんな顔をしても駄目です。秘密は秘密です」
言ったらあなたに呆れられると思うから・・・・・・。 そして、こう言うでしょう。
『絶対にありえない』と・・・・・・。
それでも願わずにはいられないから・・・・・・。
「仕方が無いな」
盛大な溜息をとともに諦めたキングの腕にリザは両腕を絡ませ、肩に凭れた。
「リザ」 「少し、こうしていてもいいですか」
キングは優しく微笑みリザの手にもう片方の手を重ねた。
「いつまでも」
静かに目蓋を閉じ、リザはキングの温もりを身体で感じた。
『とても大切な日なの』
先日エドワードに漏らした言葉。
『大切って?七夕だから?』 『違うわ』 『じゃなに?』 『聞きたい?』 『うん!』
目を輝かせリザを見詰めるエドワードに微笑んで。
『お義父さんが私にプロポーズしてくれた日なの』 『!』 『沢山の星と綺麗な月の下、真摯な眼差しで言ってくれた日だから』 『大切な日なんだ』 『そうよ。あの人は・・・・・・忘れているかもしれないけれど』
哀歓の眼差しをエドワードに向け、静かに笑った。
そう、忘れているかもしれないけれどこの日は。
「今夜の月はあの日とよく似ている」
静かに囁くキングの言葉にリザは目を見開いた。 まるで自分の心を見透かした言葉だったから。
「リザが私のプロポーズを受取ってくれたあの夜の月に」 「あなた・・・・覚えていて」 「忘れるわけがないだろう」 「!」
覚えていてくれたことがとても嬉しくてリザは両腕をキングの首に回し抱きついた。 キングもリザの背中に両腕を回し、力強く抱きしめる。
嬉しい・・・・。 嬉しい!
歓喜に打ち震えているリザの耳元に唇を寄せて。
「私の願いはこれからもリザとともに」 「あなた・・・・」
一筋の涙が頬をつたうのを感じ、キングの肩に顔を埋めた。
私は幸せ者です。
愛だの。
恋だのを否定していた私にあなたは諦めずに手を差しのべてくれた。
女の幸せは結婚だというけれど本当にその通りね。 そうして。
二人は静かに見つめあい月の下、唇を重ねた。
- 終 -
04/07/08UP
今回はリザが主です。 七夕の日にプロポーズだったらいいな〜と思って書きました。
ロイとエドの話も書きたかった〜(;)
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