カラン、カラン、カラン!

「おめでとうございます!!三泊四日温泉の旅にご招待!!」

 鐘を鳴らしながら大声で叫ぶお兄さんを目の前にエドワードは目を丸くして転がった金の玉を見詰めていた。
 
「マジかよ」

 このクソ忙しい時に温泉旅行なんて行けるわけないだろう!!










                
□ 温泉対決! □










 季節は秋。
 残暑はまだ続くものの夜はそれなりに冷えてきた。
 そんな中、ロイが帰宅した。

「ただいま」
「お帰り」

 玄関まで出迎えに出てきたのは愛妻のエドワード。
 白の長袖シャツに短パン、その上にシンプルなエプロンを着けてのお出迎えにロイは動きを止めた。

「ロイ?」

 エドワードが怪訝そうに首を傾げる。

「え、エディ・・・・」
「なに?」
「もしかしなくてもその格好で買い物に行ったのかい?」

 エドワードは一瞬キョトンとしてから自分の服を確認して。

「そうだけど」

 頷くエドワードにロイは撃沈した。

「ロイ?」

 その場に沈むロイを不安げに見詰めるエドワードの両肩に手を置いて。

「エディ・・・・お願いだから下は隠して外に出てくれ」
「は?」
「生足を見せるのは私の前だけにして欲しいと言っているのだよ」
「・・・・生足って・・・・」

 ロイの言葉と自分の足を見比べ、エドワードはやっと理解が出来たのか頬を染めて。

「オレに欲情するのはロイだけだって」
「甘い!エディは日に日に綺麗になっているんだぞ!!」

 キング義父さんと同じことを言うなよ〜。

 脱力するエドワードの脳裏にいつか言っていたリザ義母さんの言葉が浮かんだ。

『人はね特別な人から愛を注がれると綺麗にそして美しくなっていくものなのよ』

 ってことは。

「オレを綺麗にしているのはロイだろ」
「・・・・エディ」

 目を瞠るロイにエドワードは恥ずかしそうに俯く。

「ロイがオレをそれだけ愛しているから」
「エディ!!」

 エドワードの言葉を遮りロイは思いっきり抱きしめた。

「ロ、ロイ。苦しい!」
「愛しているよ。エディ」

 言葉とともに口付けがエドワードの顔中に注がれる。
 それを嬉しそうに受け止めるエドワード。

 
 相変わらずの夫婦であった。



 ロイの抱擁からやっとのことで抜け出したエドワードは服を着替えてくるように命じた。
 その間にエドワードはダイニングテーブルに夕飯の用意をする。  
 本日はカレーとサラダ。

「温泉?」

 紺のトレーナーとジーンズというラフな服に着替えたロイがダイニングに足を踏み込むなり「温泉」の言葉が投げられた。

「うん。買い物に行ったらポイントがたまっててさ。期限が今日までだったから福引に行ったんだ」
「で、当たったと」

 ダイニングチェアーに座りながら答えるとエドワードが頷きながら自分も席に着いた。

「温泉か。いいね」
「いいね、じゃねーよ!こんなクソ忙しいのに行ける訳がないだろう」

 言い切ったエドワード自身がとても辛そうな顔をし、ロイは苦笑を浮かべた。

「わかっているよ。しかし、そのまま捨てるのも勿体無いからお義父さんにあげたらどうだい」
「・・・・・・それでいいのか?」
「良いも悪いも無いだろう。私たちは使えない。だったら身近な人に使ってもらった方がいいじゃないか」

 それはそうだけど・・・・。

 食事を進めるロイを横目にエドワードは吐息を吐いた。

 近頃、馬鹿な奴が多くロイはかなり疲労困憊だ。
 できればロイに行って欲しいのが本音。
 つか、休ませてやりたい。
 ・・・・・・リザ義母さんに相談してみるかな。

 スプーンを片手にエドワードは決意を固めカレーを頬張った。





 次の日。
 エドワードは実家に立ち寄り温泉旅行チケットをテーブルに置き、リザに相談した。

「そう、近頃忙しいものね」
「うん。その上、古狸が出張っててさ」
「それも聞いてるわ。そうね。じゃ家族温泉旅行といきましょうか」
「え?」
「これ十人までいけるらしいから、あの人とアルとエド、少将そして私で五人行けるでしょう」
「行けるってそんな簡単に」
「簡単よ。三泊四日の休暇なんて死ぬ気でやれば取れるわ」

 不敵に微笑むリザにエドワードは顔を蒼白にした。

 リザ義母さん。
 お願いだからこれ以上ロイを多忙させないで!

 そんなエドワードの心中を悟ったのかリザは微笑んで。

「させないと行けないわよ」
「・・・・・・ハイ」

 エドワードは泣く泣く了承した。
 決まった途端、リザはキングの秘書に連絡をとりエドワードは司令部に戻りロイの仕事を調整した。
 もちろん、キングとロイからは苦情の言葉が漏れたがリザが一喝するとともにおさまったという。



 それから一週間後。



「うわ〜絶景だね」

 山奥の温泉宿に着き、部屋に通され障子を開けると長閑な風景が視界一杯に広がっていた。

「本当だな」

 木々と川そして山に覆われた宿はとても静かで。

 これだったらロイがゆっくり休める。

 畳の上で寛いでいるロイを横目にエドワードは嬉しそうに微笑んだ。

「では早速温泉に入ろうか」

 キングがホクホクと用意をすればアルフォンスも一緒に行くと言い出した。

「ロイ義兄さんと兄さんはどうする?」
「オレは後から行くよ」

 その返答に頷き、アルフォンスはロイに視線を向けると目を丸くした。

「ロイ義兄さん、寝てる」

 いつの間にか横たわっていたロイは睡魔に身を委ねていたらしい。

 当然か。
 この一週間、休みを取る為とはいえ死に物狂いの仕事をさせられたのだ。
 疲れているのは当たり前だし、静かな上に長閑な所に放り込まれたら睡魔が襲うのは当然というべきだろう。
 に、しても。

 張り切って浴衣やらを用意するキングに視線を向けてエドワードは胸中で嘆息する。

 ロイと同じ、否、それ以上働いているはずなのに何故こんなに元気なんだ?

「じゃエド、ゆっくり休んでいなさい」

 ニッコリと微笑むリザの両手にはいつの間にか真っ赤な顔で怒っているキングの口を塞いでいた。

「うん、いってらっしゃい」

 三人を送り出した後、エドワードはロイの頭を膝に乗せて。

「お疲れ様。ロイ」
 
 漆黒の髪にそっと口付けた。





 その言葉を言うにはまだ早いのだと気づかされたのはロイとエドワードが温泉に入って直ぐのこと。





 夕食を済ませ、温泉で日々の疲れを取るかのようにと浸かったロイとエドワードの前にキングが立ちはだかった。

「勝負だ!」

 は?

 勝負宣言するキングにロイとエドワードは首を傾げた。
 するとキングの後ろからアルフォンスが苦笑を漏らしながら歩み寄り。

「実はね。さっき卓球台を見つけてさ」
「卓球?」
「うん。何でも温泉に入ったら必ずするスポーツらしいよ」

 嘘だ!

 アルフォンスの台詞に二人は頭を抱えた。
 そんな二人など気にせずキングはロイに詰め寄り勝負を吹っかけていた。

「さぁ!勝負だ!!マスタング君」
「はぁ」
「ちょっとキング義父さん、ロイは疲れているんだから」
「この勝負に勝ったら更に一週間の休みをやるぞ!」

 その言葉にエドワードはピタリと動きを止めた。

 一週間の休みって冗談!
 そんなに休みを貰ったら仕事が。

「それでは仕事が」

 エドワードの思いはロイも同じで困ったように言うと。

「心配するな。その一週間、私が代理でしておいてやろう」

 その言葉に三人は口を噤んだ。

 大総統であるキングの仕事量は半端じゃない。
 その上、ロイの仕事を請負ったら寝る暇などなくなるのは明白で。

 一体何を考えているんだ?

 エドワードの気持ちはロイも同じらしく疑わしげにキングを見詰めた。
 少し考えてからロイは口を開けた。

「・・・・・・もし私が負けたら?」
「エドを一週間返せ」

 満面の笑顔で言い切るキングに。

 まだ諦めてなかったのか!

 その場に居た三人は呆気に取られ項垂れた。

「どうする?」
「さて、どうしようか」
「休みをくれるっていうんだから挑戦を受けたらどう?」

 エドワードの問いにロイは唸り、アルフォンスはあっけらかんと申し出を受けろという。

「負けたらどうするんだよ!」

 一週間もロイと離れるのはイヤだ!と瞳で訴えるエドワードにアルフォンスは苦笑して。

「大丈夫だよ。ロイ義兄さんは兄さんのことになると負けないから」

 そう言い切るアルフォンスにエドワードは怪訝な面持ちで首を傾げる。
 ロイは苦笑し、キングに顔を向けた。

「お義父さん、約束は守ってくださいますか?」
「もちろんだ!男に二言は無い!!」

 胸を張って言い切るキングにロイは勝負を受けた。

「え、ちょ、おい!」
「大丈夫だよ。エディ」

 慌てるエドワードの頭に片手を乗せ、宥めてから卓球台が置かれている部屋にキングとともに向かった。

「あんな簡単に安請け合いしていいのかよ〜」
「大丈夫だってロイ義兄さんが言っているんだから大丈夫だよ」
「お前、人事だと思って・・・・」

 アルフォンスを睨み、エドワードは盛大な溜息を吐いた。

「二人してそんな所で突っ立ってどうしたの?」

 風呂から上がってきたリザが首を傾げながら問う。

「リザ義母さん!キング義父さんを止めてよ」
「止めるって?」

 今一事情が飲み込めていないリザにアルフォンスが説明した。
 すると。

「そう、なら放っておきなさい。止めても聞きはしないわ」

 それだけ言い残すと部屋に戻っていった。

「リザ義母さん・・・・」

 頼みの綱が切れてエドワードは項垂れつつもキングとロイの後を追った。

「本当に心配症だな〜」

 呆れながらアルフォンスもエドワードの後に続いて卓球場に着くや否や年の割りに動きがいいキングと涼しげな顔で相手をしているロイの姿があった。

 これってやる前から勝負ありなんだよね〜。

 勝ち負けうんぬんの問題ではない。
 体力の問題だ。

 心配するだけ無駄骨って感じ。

 チラリと兄を見ればとても不安そうな面持ちでロイを見詰めている。

 あ〜あ。
 ロイ義兄さん、愛されているな〜。

「うぉのれ〜〜〜!エドを独り占めしよって〜〜〜!!」
「独占欲の塊ですから」
「一週間返せ!!」
「イヤです」
「エドは私の息子だぞ!!」
「今は私の妻です」

 息遣いが荒いキングに対してロイは息を乱さずにピンポン玉を打って返している。

「勝負ありだね〜」
「そ、そうなのか!」
「どうみてもありでしょう」

 体力的に、ね。
 いくら現役軍人でも年が年なんだから考えて行動してほしいのだ。

 さて。

 そろそろ止めるか。

「はい、それまで」

 アルフォンスが割って入り手で玉を捕らえた。

「アル!何を」
「お義父さん、駄目ですよ。これ以上は」
「しかし!」
「僕が駄目だと言っているんですよ」

 穏やかな顔で言いながらも瞳は鋭くキングを捕らえる。
 キングは言葉を噤み両手を上げて降参した。

「と、いうことでロイ義兄さん。一週間の休暇はちょっと無理があるので三日でも構いませんか?」
「え、や、でも」

 途中で勝負を止められ、休暇もへったくれもないだろうと顔をするロイに微笑んで。

「お義父さんが言い出したことですから」

 それだけを言い残し、アルフォンスはキングとともに部屋を後にした。

「どういうことだ?」
「さぁ?」

 釈然としない二人は首を傾げながらも汗をかいてしまった為、二人は風呂にUターンするはめになった。

 ここだけのお話。

 貸切状態の温泉風呂で一時間もしないうちにのぼせてしまったエドワードを甲斐甲斐しく世話をするロイの姿があったとか。



 そして。



「あなた!年を考えてやってください!!」

 部屋に戻るなり倒れたキングは愛妻であるリザの説教を横たわりながらくらっていた。
 それを横目にアルフォンスは夜空に浮かぶ月を見上げて。

「明日も晴れるかな」

 楽しそうに呟いた。

 明日は今日の反動でいつも以上のことを仕出かすお義父さんの姿があることだろう。

 ま、身体に無理さえしてくれなければいいのだ。

 とりあえず。

 お義母さんに言われた通りロイ義兄さんの仕事をお義父さんが請負うことは成功した。
 なんでも古狸を黙らせたいとか言っていたけれど僕には何のことかさっぱりだ。

 ま、なんにしても。

 程ほどに頑張ってね。

 お義父さん。





   - 終 -



   04/06/14UP




温泉ものをとうとうサイトで上げちゃったよ(;;)
オフで上げるつもりだったのですが、話が膨らんで止まらなくなり「うわ〜書きたい!!」と思ったら最後、書いちゃいました(^^;)
すみません。
キングが主な部屋なのに、何故かロイとエドが出張ってますって当たり前なんですが、話の内容事態がこの二人メインだったので(滝汗)
しかし。
久しぶりにアルフォンスを書いて思ったことは、リザにそっくりだということです。
エドもリザに似た一面はもっているけどアルの方がより一層受け継がれているかな〜と思ったり。
久々にアルが書けてとても楽しかったですvv
キング義父さん!今度は身体に負担がかからない苛めをしてくださいねvv