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「あ」
忘れてた。
本日晴天。 そして。 オレとロイ、二人して休日を満喫していた。
の、だが・・・・。
「エディ?」
リビングのソファに座り新聞を開いていたロイが顔を上げた先は真っ青な顔でうろたえている愛妻の姿だった。
「どうした?」 「今日の約束忘れてた」 「約束?」 「リザ義母さんと一緒にレモンパイを焼くって言ってたんだ」
レモンパイ。 甘いものが好きなエディにしては珍しい物を作る。
「アップルパイの間違いじゃないのか?」 「ううん、レモンパイ!ああ、電話しねーと。今から家を出ても三十分は遅れる!!」
膝に乗せていた文献を放り投げエドワードは電話へ駆け出した。
やれやれ、忙しない。
ロイは苦笑を浮かべながら新聞を折りたたみテーブルの上に置き、変わりに冷めてしまった紅茶が入ったカップを手にした。 それから少ししてエドワードは二階に駆け上がる足音が聞こえて来た。
「今日はまた一段と騒がしいな」
ロイは腰を上げてエドワードが居るであろう二階の寝室に足を向けた。
「えっと確かこの辺にあったはずなんだけど・・・・」
寝室に着いた途端、クローゼットを開けて服を探す姿が目に入りロイは首を傾げた。
「エディ。家に帰るだけで何故服を探すのかね?」
入口のドアに凭れながら尋ねるロイにエドワードは一旦顔を上げて。
「オレじゃないよ。ロイのだよ」 「私の?」 「リザ義母さんが『折角の休日に夫を邸で一人お留守番にしておくのは忍びないから連れてきなさい』って」 「そこで何故私の服なんだい」 「だってオレの実家までかなり距離あるからさ。その・・・・えっと・・・・」
言葉を濁すエドワードの頬は赤く染まり手に持っていた服で顔を覆う。
可愛い。 今すぐにでも抱きしめたい!
己の欲望を押し留め、ゆっくりと驚かさないようにエドワードに近づいた。
「距離があるから?」 「そ、その・・・・近頃忙しかったし、今日は天気もいいから・・・・」 「デートのお誘いかな」
ロイの言葉とともにエドワードの顔はボンッと真っ赤に染め視線を落としてそっと頷いた。
ああ、やっぱり可愛いvv
ロイは思わずエドワードを抱きしめた。
「ロ、ロイ?!」 「じゃエドワードの服は私が見立ててあげよう」 「え、いいよ」 「私だけでは不公平だろう」
エドワードの額に口付けロイはクローゼットに視線を向けた。
「もう春だから私としては白を基調とした服を着て欲しいな」 「あ、それオレも思った」
互いを見合いクスリと笑って。
「では「じゃ白で」」
お互いが選んだ服を着て二人は手を繋ぎ寄り道をしながらブラッドレイ邸に向かった。 結婚して早一年が経つにも関らず初々しく熱々な二人である。
そんな二人を出迎えてくれたのが、額に青筋を立てながらも笑顔を見せているのはキング。 その夫を半分呆れながら見詰めているのがリザで。
「キング義父さん?」
いつもと様子が違うキングにエドワードは首を傾げながら呼ぶ。
「エド」 「ん?」 「いつまで」 「へ?」 「いつまで手を繋いでいる気かね!」
言うや否やキングは片腕を振り上げ繋いでいる手に振り落とした。 ロイとエドワードはすかさず手を離し危機を免れた。
「それで宜しい」
先ほどとは打って変わって満面の笑みを見せるキングにエドワードは頭を抱え、ロイは苦笑を漏らした。
「キング義父さん、オレとロイは夫婦なんだから手を繋いでても文句を言われる筋合いは無い!」 「フ、私の目の前で繋がれていること自体が罪なのだ」 「なんで!」 「大総統だから」
胸を張って言い切るキングにエドワードは呆れた眼差しを見せて。
だから何故そこで『大総統』という地位がでてくるんだよ!
盛大な溜息を吐き。
「ごめんな。ロイ」 「気にしなくて良いよ」
笑顔で答えたロイをキングはまたもや額に青筋を立てながら。
「そういえばキミはチェスは得意かな?」 「まぁ得意とはいえませんが」 「フフフ、そうか。ではレモンパイが焼けるまで私の相手をしてもらおうか」 「構いませんよ。お義父さん」 「お義父さんと呼ぶな!!」 「では何と?」 「いつも通り、大総統でいい」 「はぁ」 「ではいくぞ!」
エドワードからロイを引き離そうとキングはある意味必死であった。 それがわかっているロイはなんとも言えず、ただただ苦笑を漏らすのみ。 二人がリビングに向かってエドワードとリザは溜息を吐いた。
「キング義父さん、相変わらずだね」 「ええ、気苦労が耐えないわ」
ほぅ、と疲れたといわんばかりの吐息を吐くリザにエドワードは微笑し、二人はキッチンに向かった。
「そういえば何故レモンパイなの?」 「え?」
シンプルなエプロンをかけているエドワードにリザは?マークを頭上に浮かばせながら尋ねてきた。
「エドならアップルパイの方が好きでしょう」 「オレはね。でもロイは甘酸っぱい方が好きだから」
その言葉にリザはクスリと笑みを漏らして。
「本当にエドはあの人が好きなのね」 「好きじゃ物足りないよ。愛しているんだ」 「まぁご馳走様」 「へへ」
照れた笑みを見せてエドワードは仕度に取り掛かる。
「そういえば、リザ義母さんからキング義父さんのことを聞いたことないね」 「そうかしら?」 「そうだよ。公私もなくプロポーズされたって聞いたことはあるけど自慢話は無かった」
そう。 オレはロイのことを聞くだけでキング義父さんとリザ義母さんの馴れ初め話とかは一切聞いてない。 ううん。 聞いたことが無い。
「聞いてもつまらないわよ」 「そんなことない!」
言い切るエドワードにリザは目を瞠って。
「聞きたいな。キング義父さんとリザ義母さんの馴れ初め」 「本当につまらないわよ」 「構わない」
頑として聞きたいと言い張るエドワードにリザは苦笑を漏らした。
「あの人とはイーストシティからセントラルに移ったときに出会ったの」
冷蔵庫からレモンを取り出しながら懐かしそうな瞳の色を見せ言葉を紡いで言った。
大総統の執務室にロイとともに右腕であるリザも一緒に向かった。 その時に初めてキングと出会った。 もちろんリザは上司としか見ていなかったのだが。
「そちらの方は?」
ロイの報告を聞き終えるや否やキングはリザに視線を向けて尋ねた。
「は、私の部下で名はリザ・ホークアイ、地位は中尉です」
ロイが身を横にずらしリザをキングの目前に曝した。 リザは緊張な面持ちでキングを見詰めた。 彼は威厳を垣間見せ真っ直ぐにリザを見据えていた。
な、何か失敗したかしら。
「ホークアイ少尉」 「はっ」 「今晩、食事を一緒にどうかね」 「・・・・・・は?」
先ほどの無表情とは打って変わって満面の笑みで食事を誘うキングにリザは目を丸くした。 もちろん傍にいたロイも目を瞠りキングを見詰めた。
「色々とキミのことを知りたいのだが」 「はぁ」
今一状況が掴めないリザに変わってロイが一歩前に出た。
「大総統、それでは彼女には通じません」 「そうかね」 「ええ、もっと率直に述べないと」 「フム、では」
デスクを迂回し、キングはリザの目の前に立ち。
「私と結婚前提で付き合ってください」
リザの右手を軽く掴み手の甲へ口付ける。
今、この人は何て言ったの? 結婚前提? ついさっき初めて会ったばかりなのに?!!
クラリと眩暈を起し掛けたが、そこは何とか押し留めリザは気力だけで持ちこたえた。 横目で上司を見れば、声を押し殺して笑っている姿が目に入った。
まったく面白がってるわ。
「大総統」 「何かね」 「お断り申し上げます」
キッパリと言い切ったリザにロイはやはりなと嘆息したのも束の間。
「何故だ?」 「何故と申されましても私は結婚する気など毛頭ありませんから」
淡々と告げるリザにキングは掴んでいた手を引き寄せ抱きしめた。
「な、何を!」 「私は諦めん」
耳元で囁かれた言葉に一瞬胸が高鳴った。 だが。 それは一時の迷いと気にせずにリザは目蓋を閉じて。
「ご自由に」
大総統がどういう行動を起そうとも私は揺るがないわ。 絶対に。
執務室を後にしたリザは盛大な溜息を吐き、ロイは未だに笑っていた。
「中佐!」 「す、すまない。でもね」
キミにプロポーズするとは流石大総統だ、と楽しそうに笑うロイを睨みつけて。
「それよりも今日中に処理して欲しい書類があります。さ、執務室に戻りますよ」
嫌がる上司の襟元を掴み、リザは頭を仕事に切り替えた。
の、だが。
「何故、大総統がここに?」
どうやって先回りしたのか。 自分の執務室にいた大総統がロイの席に座り寛いでいるのだ。
「やぁ、ホークアイ少尉」 「ご自分の執務室へ戻ってください」 「何を言っている。キミがいる所が私の執務室だよ」
ピキッと額に青筋をたてながらも無表情にキングを見詰めて。
「ご冗談はよしてください」 「私は至極本気だ」 「どうやら私の耳が詰まっているようです。今夜にでも掃除をしなければ」 「別に掃除などしなくても大丈夫だよ。だから私のプロポーズを」 「却下です」 「何故!」 「結婚に興味はありません」 「嘘をつくな」 「嘘ではありません。本当のことです」
軍に入ってロイ・マスタングと出会い彼が切り開く未来の為に私は今ここにいる。 結婚など二の次、三の次。 それよりもしない可能性の方が大いにありうるわ。
「そういうことで大総統、ご自分の執務室へお戻りください」 「どうしても受け入れてくれないのか」 「申し訳ありません」
深々と頭を下げるリザにキングは言葉を詰まらせた。 とても、とても悲しい瞳で見詰めていたと後ほどロイが教えてくれた。 しかし、当時のリザはそんなことはどうでも良かった。 ロイが上に行くことが喜びであるのはリザを筆頭に司令室の全員の願望。 それ以外はどうでも良かったのだ。
かと言って。
それだけで簡単に引き下がるキングではなかった。 用もないのに司令室に来てはリザに話をかけてきては居座り、高らかに笑いながら話をするキングに堪忍袋の緒が切れた時には愛銃をぶっ放す始末。 その銃弾の音で秘書がキングを連れ戻すということが四ヶ月程繰り返されていた。
ある日のこと。
銀行強盗が起こったと司令室に通報があった。 警察でどうにかできないのかと尋ねたら犯人の中に錬金術を使う者がいるらしい。
「錬金術とはまた厄介な」
吐き捨てるように言い、ロイと部下は司令部を後にした。
現場に着くや否や建物の周りには野次馬がぎっしり。
「暇人だな。ファルマン、フュリーは民間人を散らせ。何が起こるかわからん」 「Yes.sir」 「ハボック、ブレダは裏を回れ」 「Yes.sir」 「ホークアイは私に着いて来い」 「Yes.sir」 「では私も行こう」 「「!」」 その声にリザとロイは一斉に振り返った。 いるはずの無いキングが満面の笑みでいたのだ。
「大総統!」 「ここは危険です。後方へ」 「何をいう、キミが危ない所へ行くというのに私が安全な所にいけると思うのかね」 「そういう問題ではありません!貴方は大総統です。国を支えている柱なのですよ!!」 「だが、キミの前では私はただの男だよ」 「!」
満面の笑みで言い切るキングにリザは言葉を詰まらせた。
こ、この人は我が上司並み、いや、それ以上にたらしかもしれない。
リザが頭を抱えている姿にロイは苦笑して。
やれやれ、私は優秀な右腕を無くすかもしれないな。 かなりの痛手だが・・・・彼女の幸せの為ならば仕方が無い。
「では、大総統行きますよ」 「うむ」
上着を秘書に渡し、素早く四本の剣を腰にかける。
「私は前をホークアイ少尉と大総統は後方をお願いします」 「Yes.sir」 「わかった」
発火布を両手に嵌めてロイは頷き建物に向かって駆け出した。 その後にリザとキングが続いた。 中は錬成した後なのか道という道がなかった。
「酷いな。誰が後始末をすると思っているんだ」
愚痴りながら胸ポケットからチョークを取り出し錬成陣を描く。 それに手を合わせて赤い光がロイを包むと同時にそこは元に戻ったと、同時に奥から錬金術の光が垣間見えた途端、一直線に床が盛り上がりリザに向かって攻撃してきた。
「ホークアイ少尉!!」
ロイの叫びにキングがリザを抱きしめた。 「ぐぁっ」
リザに向けられた攻撃はキングの背が受け止めた。
「「大総統!」」 ロイは犯人に振り返り指を鳴らした。 ボンッと火花が散る。 「ホークアイ少尉は大総統とともに表に」 「ですが!」 「私は大丈夫だ」
キングが擦れた声で言い、ゆっくりと立ち上がった。
「大総統!」 「大丈夫だ。私はキミよりも修羅場を潜り抜けてきている」
顔を上げたキングの口は笑みをかたどり瞳は鋭い程に研ぎ澄まされていた。
「行くぞ。マスタング中佐」 「Yes.sir」 「ホークアイ少尉、いつまで座っている気だね」 「!」
リザは慌てて立ち上がる。
「怪我が無くてよかった」 「大総統・・・・」
とても。 とても優しい微笑みを向けられてリザは鼓動が早くなった。
「その時に思ったの。この人にならって」 「結婚なんてしないって思っていたのに」 「人の心はちょっとしたきっかけで変わるものよ」 「そうかな」 「そうよ」
そう思わないとあの時の私の気持ちはどう説明すればいいのかわからないわ。
あとは焼き上がりを待つだけの二人は話に華を咲かせていた。
その時。
「許さん、許さん、許さ〜〜〜ん!!」
リビングにいるであろうキングの叫びがキッチンまで轟き、エドワードとリザは見合い首を傾げた。 と、同時にチンッとオーブンが焼きあがりを知らせた。 二人はパイを皿に入れて数枚の取り皿とフォークそしてお茶の用意をしてからリビングに向かうとそこには青筋を立てながらチェス盤を見詰めているキングと涼やかな顔で座っているロイの姿があった。
「どうしたの?さっきキング義父さんの声が聞こえたけど」 「ああ、エディ。いい匂いだね」 「上手く焼けたよ。食べるだろ」 「もちろんだよ」 「で、キング義父さんどうしたの?」 「〇勝五敗」 「?」
首を傾げるエドワードにロイはクスリと微笑んで。
「チェスの勝敗だよ」 「〇勝ってもしかして」 「お義父さん」 「ってことは」
ロイが全勝・・・・・・。
「キ、キング義父さん」 「何故だ。何故だ。何故だ〜〜〜!!」
頭を抱え込むキングにロイはただただ困ったように苦笑するばかりで。 リザはお茶の用意をしてからキングに声をかけた。
「あなた、少将は強いですよ」 「なに!」 「東方司令部で将軍に鍛えられましたから、勝つことはできません」 「!」
リザの言葉に驚愕し言葉を失うキング。 エドワードはロイに顔を向けて。
「そうなの?」 「え、ああ、まぁね。でも将軍には負けっぱなしだったんだよ」 「何故」
打ち震えながらキングは呟いた。
「何故黙っていた!!」
どこから取り出したのか日本刀を掲げロイに翳す。
「黙っていたわけではありませんよ。お義父さん」 「お義父さんと呼ばれる筋合いは無い!!」 「ですが、賭けに勝ちましたから」 「ぐっ!」
ロイの言葉にキングは言葉を詰まらせ完敗し、その場で項垂れた。
「賭け?」 「エディのお義父さんだからそう呼びたいのに本人に拒否されては呼べないだろう。だからゲームを始める前に賭けをしたんだ。私が勝ったらお義父さんと呼ばせてくださいってね」 「キング義父さんが勝ったら?」 「エディを一ヶ月独り占め」
その言葉にエドワードは盛大な溜息を吐き、リザはまたかといわんばかりにキングを見据えて。
「あなた、そろそろ子離れをしては如何ですか?」 「しかしだな」 「しかしもなにもないでしょう」 「だがな」 「寂しいのはわかりますが、エドに迷惑をかけるようならば」 「な、ならば?」 「私が実家に帰ります」
ニッコリと笑って言うリザにキングは真っ青な顔で縋り付いた。
「そ、それだけは!!」 「だったら余り駄々をこねないでください」 「はい」
縋り付くキングを宥めるリザはとても嬉しそうに微笑んだ。 そんな二人を横目にロイとエドワードはレモンパイを味わっていた。
結局の所、親馬鹿と称されてはいるがキングはリザが一番なのであった。
− 終 −
04/05/17UP
てなことで今回はキングがこれだけカッコいいんだ!!ってことを書きましたが、結局は親馬鹿っすね(^^;) 落ちが落ちだわ(;;) でも書いてて楽しかったですvv
もうキング最高!!そしてロイエド超最高!!!
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