| 自分の胸に張り付き眠っている子供に嘆息し、ロイは起こさないように抱き上げようとしたが、エドワードはしっかりと胸元を握りしめすやすやと眠っている。 「おやおや、どうやら気に入られたようだね」 「流石婚約者だな」 目の前の父親達は好きなように言い、困惑しているロイなどお構いなしである。 「そんな呑気なことを言っていないでどうにかしてください。私はこれから仕事が」 「ああ、心配には及ばん。キミ」 キングが近くにいた将校を呼び寄せ、一枚の書類を渡す。 「これをグラン大佐に渡してくれたまえ」 「Yes.sir」 将校が立ち去るとともにロイは口を開いた。 「大総統、先ほどの書類は?」 「決っているだろう。早退届だ」 「は?!」 キングの言葉にロイは目を見開いた。 「遠方から婚約者が尋ねてきたのだから相手をしてあげなさい」 「してあげなさいって・・・・」 「そうだね。こちらに一週間はいるつもりだからその間、エドワードのお世話を任せてもいいかな?」 っておい! 恩師まで・・・・。 「お互いのことを知るには時間を共有するのが一番だよ」 「そうだとも。我が友よ」 楽しそうに父親同士が談笑しあう中、ロイは頭を抱え盛大な溜息を吐いたのはいうまでもない。 それから大総統が視察に来ているということが知れ渡り、食堂はより一層慌しくなった。 ロイはその間になんとか父親から離れ婚約者が起きないように優しく抱きしめながら司令室へ足を向けた。 早退するにしてもホークアイ少尉とヒューズ大尉に引継ぎをしなければ、このままだと一週間は出勤ができないのは確実だろう。 頭を痛めながらも足を進めると喫煙ルームの人影が目に入った。 「ハボック准尉」 「あ、少佐」 そこには煙草がトレードマークである彼、ジャン・ハボック准尉がいた。 ってことは・・・・。 「キミがここにいるということは」 「司令室には鬼がいるっス」 鬼とはグラン大佐のことである。 私利私欲の為に軍に入ったようなもので冷酷非道ではあるが、それは自分が優位に立っている時だけ。 本当は気の小さい男なのだ。 「そうか」 さて、どうしたものかと思案しているロイにハボックが首を傾げて見詰める先はエドワードで。 「それは?」 指を指して質問してくるのは当たり前のこと・・・・。 どう説明したものか。 これまた思案していると司令室から人が出てきた。 その中にロイが目当の人物もいた。 グットタイミングだな。 「ヒューズ、ホークアイ少尉」 「おう!ロイ、今日はもう早退・・・・」 ロイの呼び声に元気良く答えてくれたヒューズの語尾が下がり胸元に視線を向けて。 「コレは?」 訝しげに尋ねてくるヒューズに苦笑して。 「ホーエンハイム・エルリック氏のご令嬢、エドワード・エルリック」 「ホーエンハイムってお前の恩師の?」 「ああ」 「来ているのか?」 「大総統とともにな」 「「「!」」」 その場にいたハボック、ヒューズ、ホークアイは目を瞠った。 「大総統が?何で!」 「エルリック氏と大総統は親友なんだそうだ」 「で、大総統は?」 「さぁ、食堂で高らかに笑っているんじゃないか?」 なんて迷惑な、とその場にいた全員が思ったのは言うまでも無い。 「しっかし良く寝てるな〜。こんな騒がしいところで」 ヒューズが近づいて顔を覗こうとした所で寝入っていたエドワードがパチッと目を開けた。 大きな金の瞳がヒューズを映した途端、声を上げて泣きだした。 「え、え、え!」 「ヒューズ、お前何をした!」 「な、何もしてねーって」 「じゃ何故泣く!!」 「知らねーよ!!」 張裂けんばかりに泣くエドワードをロイはあやす様に背中を撫でて宥めた。 「どうした?エドワード」 エドワードの両脇に手を入れ抱き上げ顔を見上げる。 「ロイお兄ちゃん?」 「そうだよ」 「さっき、変な人がいた〜」 「それは彼のことかな?」 ロイは苦笑してヒューズに視線を向けた。 するとエドワードも釣られるように向けるや否やまた泣き出した。 ロイの軍服を掴んで顔を埋める。 「嫌われたな。ヒューズ」 「・・・・オレってそんなに怖い顔をしているか?」 半泣き状態で横にいるホークアイに問うと。 「いいえ、普通の顔です」 「・・・・それは慰めの言葉か?」 「もちろんです。それよりも少佐、早退理由はもしかしなくても」 「ああ、この子のお守りだ。一週間は出勤が出来ない」 「「「!」」」 その言葉に三者とも驚愕した。 「ロイ、一週間って」 「彼女とその父親が滞在するらしい。だからその面倒を」 「お前じゃなくても大総統がいるだろう」 「・・・・そうもいかなくてな」 目を逸らして答えるロイにヒューズは口の端を上げて。 「お前、何か隠しているな」 ギク! 「ほほう。どうやらオレ達に知られては困ることらしい」 「ヒューズ・・・・」 「へ〜〜〜そうなんっすか?」 「フフフ、ロイとは士官学校からの付き合いだ。どんな隠し事もこのオレには通用しない!!!」 胸を張って言い切るヒューズにハボックが拍手する。 はぁ〜〜〜こういう時は親友(もとい悪友ともいうが)は面倒だ。 「で、何を隠している」 眼鏡を光らせて問うヒューズにロイは降参した。 「実はな」 「実は?」 「この子は」 「この子が?」 既に泣き止んでロイの胸に頬を寄せて笑っているエドワードに視線を向けて。 「婚約者なんだ」 「・・・・・・・・・・誰の」 「私の」 「・・・・・・・・・・!!」 「なぁ!」 「!」 ヒューズを筆頭にハボックとホークアイが目を瞠った。 「ロイ、お前・・・・子供が好みだったのか?」 「違う!親が勝手に決めたんだ」 「親が?」 「そうだ」 「ですが」 それまで沈黙していたホークアイがエドワードに視線を向けて。 「エドワードちゃんは少佐のことを気に入られてますよ」 その言葉にロイはエドワードへ視線を向けるととても嬉しそうに微笑んだ。 「おお!面食いっすね〜」 「二十で少佐、将来有望。顔良し、頭脳良し、性格良し(?)と三拍子揃っているからな。ハボックよりはず〜〜〜っとマシだな!」 「ヒッデーーーー!!」 断言するヒューズにハボックが半なき状態を横目にロイは咳払いをして。 「とりあえずヒューズとホークアイ少尉に引継ぎだけでもと思ってきたのだが」 「そうですね。では」 ロイがホークアイ達に視線を向けた途端、エドワードの両手がロイの頬を挟み自分の方へ向けさせた。 「エ、エドワード?」 「ロイお兄ちゃんはオレを見てなくちゃ駄目!」 「「「「!」」」」 その言葉に四者とも驚愕した。 「・・・・ロイ、これは一目惚れされたんじゃないのか?」 「・・・・・・」 「うわ〜〜〜少佐、年齢問わずですね」 「流石というべきでしょうか」 皆して好きなことを言っているな。 などと思っているとエドワードが涙目で三人に顔を向けて。 「ロイお兄ちゃんを苛めちゃ駄目!」 「エドワード」 「オレとロイお兄ちゃんはどこも可笑しい所なんてないもん」 そんなエドワードにヒューズとハボックは苦笑し、ホークアイは視線を逸らした。 どうやら仕事の鬼も子供には弱いようだ。 「エドワード、私は苛められてないよ」 「本当?」 「本当だとも」 優しく微笑むとエドワードは安心したのかポフと胸元へ顔を埋めロイを見上げ笑った。 「これでは引継ぎもままなりませんね」 「ホークアイ少尉なら大体のことは把握しているんだろ?」 「はい、ですが一つだけ確認をしてほしい書類があったのですが」 困ったようにエドワードを見詰めるホークアイにロイは苦笑した。 「その書類は今持っているか?」 「はい」 ファイルから一枚の書類を取り出しロイへ差し出す。 「この前の事件の処理についてだな」 「はい、どうも納得いかない所が多々ありまして」 ホークアイの言葉にロイは書類から視線を逸らした。 代わりにヒューズが受取り報告文を読み上げる。 「なになに、現場には爆発物はなければ発火物なども見当たらなかったにも関らず・・・・・・・・・ロ〜イ〜お前またやったな」 「何のことかな」 「すっとぼけるな!発火布使っただろ」 「・・・・・・・・・・」 「無言で済ますな!たく、今度は何を試したんだ?」 「いや〜その発火布をね新しくしたから・・・・・・威力を試そうと思ってね」 ヘラッと笑うロイにハボックは呆気に取られ、ヒューズは頭を抱えた。 そして。 ホークアイはというと。 「これはどのように提出をすれば宜しいのでしょうか?」 グラン大佐に見つかればお怒りだけでは済みませんよ、と安易に語っている。 確かに。 グラン大佐には嫌われているからな。 さて、どうしたものか。 「その事件って大事件だったの?」 エドワードの可愛らしい声がホークアイに首を傾げながら尋ねる。 「いいえ、そんなにはただ」 「ただ?」 「建物が」 「壊しちゃったの?」 今度はロイを見上げて尋ねると彼は渋々頷いた。 「じゃ元に戻して証拠隠滅しちゃえばいいんじゃないの?」 「エドワード」 「簡単だよ。だってロイお兄ちゃんもオレも錬金術師なんだから」 ニッコリと天使の笑顔を見せてロイに現場へ向かうよう急かした。 その後にヒューズ、ハボック、ホークアイが続いたのは言うまでも無い。 そして。 現場へ着いた途端、エドワードはポケットからチョークを取り出し、壊れた家の周囲に錬成陣を描いた。 「おい、ロイ。あんなに小さいのに錬金術が使えるのか?」 「さぁ」 「さぁって」 「あの子と会ったのは今日が初めてなんだよ」 それまで会ったこともなければ話しも出なかった。 「それはまた可笑しな話だな。普通は婚約者のことをこと細かく言うもんじゃないのか?」 「そうなのか?」 「オレに聞いてどうする」 「や、そういうのはわからない」 「・・・・・・・・・・そうか」 「ああ」 「出来た!」 エドワードの明るい声でヒューズとロイは顔を向けた。 「ロイお兄ちゃん!見ててね」 手を振りながら満面の笑みを見せるエドワードに釣られてロイも手を振り返す。 「おいおい、お前が釣られてどうするよ」 ヒューズが呆れ顔で呟いた。 「さって、じゃいきま〜す」 錬成陣の手前に両手を置くや否や青白い光がエドワードを包むと同時に壊れた部分が元に戻っていく。 「すっげー」 「本当に」 ハボックが口を開けて見入って感嘆するとそれに同意するようにホークアイが頷いた。 「おい、本当にあの子六歳か?」 「そのはずだが」 ヒューズとロイも目を瞠ってエドワードの錬金術を見入った。 もちろん街中であるから人は何事かと戯れ始めた。 そうして。 建物の修復が終えるや否やエドワードはその場に倒れた。 「エドワード!」 ロイは慌てて駆け寄り抱き上げた。 するとエドワードは青い顔で冷汗を流しながらもロイに微笑んで。 「これで・・・・ロイおにい・・ちゃ・・ん・・・・怒られない・・・・よ・・ね・・・・」 息も荒く声も擦れていた。 考えれば簡単なことだ。 こんな大きな物質をこんな小さな子供が再構築したのだ。 体力、気力ともに使い果てるのは必死。 「すまない」 「・・・・にい・・・・・ちゃ・・ん・・・・・」 優しく抱きしめ、エドワードの耳元に口を寄せて。 「有難う」 心を込めて感謝の言葉を紡いだ。 エドワードはとても嬉しそうに微笑んで。 「どう・・・・いたしま・・し・・て・・・・」 ロイお兄ちゃんの役にたてて嬉しい。 目蓋を閉じたと同時にエドワードは温かい腕に包まれて意識を手放した。 - 続 - 04/05/09UP |