□ 見えない発信機 U−Y □










 頭には紺のパンダナ。
 顔を隠すほどの大きな黒縁眼鏡に古びた大きな長袖のシャツにジーンズ。
 その上に茶のエプロンをかけて厨房を走り回る。

「小汚い小僧がいるんッスよ」

 エドワードが東方司令部の厨房で働き出して一ヶ月が経った。
 その間。
 司令部は小汚い子供の噂に持ちっきりだ。
 そして。
 今、その噂を私に教えてくれているのが、直属の部下であるジャン・ハボック中尉。

「ほう。そうか」

 ロイはハボックを従え、廊下を歩きながら彼の言葉に相槌を打ちながら胸中で嘆息した。

 やれやれ。
 あの子が司令部にきてから、この噂で持ちっきりだな。
 外見は小汚が、料理は舌鼓を打つほど美味しいとの評判。
 しかも。
 小汚い男の子、という噂で持ちっきりだ。
 ま、あの子の地では女の子などとは到底、思えないからな。
 正直。
 私としては助かっている。
 黒縁眼鏡も不細工な顔を隠している、だの。
 古びた服は貧乏だからだろう、だの。
 頭にくる言葉は延々と耳にするが、その手に関して興味を持つ噂は入ってきていない。
 ロアンに感謝だな。

「って聞いてます?准将」
「ああ、聞いているよ」
「興味はないんですか?」
「ないな」
「うっわ〜〜〜言い切りましたね。そういえば、准将は食堂で食事をしなくなったのも一ヶ月前ぐらいでしたね」

 その言葉にロイは内心で舌打ちをして。

「そうだったか」
「そうっすよ」
「覚えてないな」

 サラリ、と受け流し、ロイは執務室のドアノブに手を掛けて。

「ハボック、書類」
「あ、はい」

 ロイの命にハボックは踵を返し、バタバタと走り去っていった。
 それを横目で確認して、ロイは執務室に入り扉を閉めたと同時に、溜息を吐いた。

「まったく」

 アイツはいらんことばかり、覚えている。

 部屋を横切りデスクを迂回して、チェアーに身を投げるように腰を下ろした。

「エディ」

 思わず漏れた名に、ロイは沈痛な顔で目蓋を閉じた。

 エディが厨房で働くようになって一ヶ月。
 私はマーナ叔母さんの店で再開してから、彼女の前に姿を見せていない。
 否。
 見せられないのだ。

 クルリ、とチェアーを回転させて、窓の外に視線を向ける。

 青い空。

 そうだ。
 十年前のあの日も、こんな青空だった。



 十年前。
 エドワードを言葉で傷つけた私は自分を恥じて悔やみ、後悔した。
 もう。
 私には会いたくないだろう。
 けれど。
 一言だけでいい。
 会って、謝りたい。
 謝って自分の犯した罪が許されるわけではない。
 それでも。
 純粋なあの子に一目だけでいい。
 もう一度会いたい。

 そうして。

 私は思いのままに行動を起こし、リゼンブールに向かった。
 汽車から降りたった私が目にしたのは、見渡す限り一面の青々とした草原。
 馬、羊、牛といった農牧に、こじんまりとした教会。

 なんとも心が和む長閑な村にロイは頬を緩ませた。

 こんな所で生まれて育てば、あのような純粋な子が育つのか。

 ― ロイおにいちゃん ―

 脳裏にエドワードの声が反芻する。

 エディ。
 キミに会いたい。

 ロイは駅員にエルリックの家を訪ねれば、ここからは遠いとかで荷馬車で送ってもらうことになった。 
 荷馬車に乗り込んだロイはゆっくりと過ぎ行く景色を堪能した。

 セントラルでは目まぐるしい程の人と時間が過ぎていく。
 師匠であるホーエンハイムから錬金術を教わったのもセントラルだった。

 こんなにも長閑なのは、生まれて初めてかもしれない。

 そんなことを思いながら、ロイはエルリック家に辿り着いた。
 突然の訪問にも関わらず、エルリック夫妻は笑顔で出迎えてくれた。

『よく来た。ロイ君』
『久しぶりね。ロイ君』

 二人の温かい出迎えに、ロイは強張っていた身体から力を抜いた。
 リビングに通されて、お茶をご馳走になり他愛無い話をしてから、ロイは口を開いた。

『あの、エディは』

 その言葉で、二人は一瞬だが、顔を強張らせた。

『?』
『実はね。ロイ君』
『はい』
『エドは………覚えていないのだよ』
『え?』

 覚えていない?
 何を………。

『キミと過ごした一週間のことを全て、忘れてしまったんだよ』
『!』
『リゼンブールに帰ってきてから、エドは高熱を出してね。三日三晩魘されて、目が覚めたときにはもう』

 忘れていたのだよ、とホーエンハイムは目を伏せて言った。

 高熱で忘れた。
 否。
 忘れたかったのだ。
 エディを傷つけた私のことを………。

『そ、ですか』
『ロイ君、すまない』
『ど、どうして、師匠が謝るんですか。謝るのは私の方です。私がエディを傷つけたから』

 だから。

 ギュと両手を握り締めて、ロイは沈痛な顔を俯かせた。

『そ、それでは私はここに居ては迷惑でしょうから』
『そんなこと言わないで』
『そうだよ。ロイ君。キミの所為じゃないんだ』

 トリシャとホーエンハイムが、ロイの所為ではないと主張する。
 その優しさにロイは更に胸を痛めた。

『有難うございます。ですが、私はこれで』
『ロイ君』
『突然、お邪魔して申し訳ありませんでした』

 ロイは腰を上げ、深く頭を下げて玄関に足を向けた。

『一目エドに会っていっても』

 背後からホーエンハイムがひきとめようとするが、ロイは頭を左右に振った。

 会いたいけれど、私が彼女に会う資格はない。

『それじゃ、こっそりはどうかしら?』

 トリシャの言葉にホーエンハイムが目を丸くして。

『おお!いい案だ』

 と、言うや否や、ホーエンハイムはロイの腕を掴んで颯爽と外に飛び出した。
 土道を駆けて、辿り着いたのは。

『学校、ですか』
『小学校だよ。エドはここで勉強中だ』
『ここで』

 小さな小学校。
 セントラルはこれの数倍はあるが、小さな村ではこの大きさで十分なのだそうだ。

『ああ、ほら、今は休み時間らしい。グランドで走り回っているよ』

 ホーエンハイムが指を指した方に視線を向ければ、そこには満面の笑顔で友達らしき子供と遊んでいるエドワードの姿があった。

『エディ………』

 太陽のような笑顔。
 ああ、初めてであった時に見せてくれたエディの笑顔。
 私が一度は曇らせてしまったキミ。
 そのキミは私のことを忘れることで笑顔を取り戻した。

『忘れて良かった』
『!………ロイ君』

 ロイの言葉にホーエンハイムは驚きで目を見張った。
 だが。
 ロイは穏やかな笑顔を見せて。

『出なかったら、あの子の笑顔を見れなかった』
『ロイ君』
『師匠』
『なんだい』
『私は影ながらエディの手助けをしたいと思います』
『ロイ君』
『これからも、あの子の前に姿を見せず、いえ、一生見せずにあの子の幸せを思って手助けをしていきたい』

 その言葉にホーエンハイムはロイに向き直って。

『………それでいいのかい?』

 真摯な顔で問うた。
 ロイもホーエンハイムに身体ごと向いて。

『はい。それが私の幸せでもあります』

 エディの幸せが私の幸せ。

 その日から、私は名を明かさずに誕生日、クリスマスなどの祝い事にはメッセージカードとプレゼントを贈り続けた。
 そんな私に師匠とトリシャさんからは月に数回。
 日々成長していくエディの写真と手紙。
 そして。
 時折エディからのお礼の手紙が添えられ、送ってくれた。
 そのうち、エディから直接送られてくる手紙が増えていった。



 彼女はいつしか素敵な男性と巡り会い付き合って結婚するだろうと思っていた。
 なのに。
 エディは足長を探しにイーストに来たというのだ。

 何故、師匠やトリシャさんは止めなかったのだろう。
 いや、それよりもそれを聞いて喜んでいる自分がいるのだ。

 ロイは自嘲めいた笑みを漏らして。

「困ったものだ」
「ええ、そうですね」

 いつの間に室内に入ってきたのか。
 副官であるホークアイが書類を両手にデスクの前に立っていた。

「ノックを」
「しましたが返事がなかったので」
「そうか。それはすまない」
「いえ」

 ロイの謝罪にホークアイは胸中で嘆息してから、書類をデスクに乗せた。

「これはまた多いね」
「中央からの催促が先ほどありまして」
「ほう」
「一週間後のものを本日中に、だそうです」
「それはそれは」

 愛されているな〜と皮肉交じりに言えば。

「そうですね。とっても愛されております。准将」

 ニッコリと寒気がするほどの笑顔を向けてホークアイが答えてくれた。

「では、定時に終わるよう頑張るとするか」
「はい。その前に」

 手を伸ばしたロイから書類を取り上げて。

「食事をしてください」
「したが」
「いいえ、していません。コーヒーを一杯飲んだだけだと伺っております」

 その言葉にロイは眉間を寄せて。

「誰からかね」
「准将が毎日通っている喫茶店のオーナーからです」

 ニッコリと笑って答えるホークアイは先ほどよりも冷徹な笑顔で、ロイは思わず背筋に冷や汗を伝わせた。

「准将、倒れるおつもりですか?」
「倒れるなんて」
「ない、と」
「あ、ああ」
「では、何故この一ヶ月で一回りも痩せたのかご説明をお願いします」
「!!」
「知らないとでも思いましたか」

 ホークアイは口の端を上げて。

「甘いですよ。准将」

 私に隠し事など言語道断、とでも言いたげに、ホークアイはロイを見据えた。
 そんなホークアイを目の前に、ロイは肩を竦めて。

「キミには敵わないな」
「当然です。とりあえず、先に食事をとってもらいます」
「わかった」

 カタン、と席を立とうとしたロイをホークアイは制して。

「私が食堂から何か見繕ってきます」
「え、だが」
「その間」

 ドン、と書類を目の前に置いて。

「書類の決裁をお願いします」

 食堂に行って食事をするまでの時間が無駄ですから、と付け加えてホークアイは執務室を後にした。
 それを見送り、ロイは背凭れに身を預けて。

「彼女には、お見通し、か」

 エドワードのことで苦悩していることがバレバレだ。
 その所為か。
 食事がまともに食べれない日々が続いていた。
 確か。

「昨夜は栄養保存食を食べただけだったな」

 そうだ。
 それが続いていた。
 とにもかくにも、自分のことよりエドワードをどうやって故郷に帰そうか、そればかりを考えていて。

 そこで、ロイは自嘲気味に笑った。

「これでは軍人失格だな」

 目蓋を閉じれば、金のキミ。

 早く。

「足長など探さずに帰りたまえ」

 キミの故郷に。
 私は。

「キミが幸せであることが、私の幸せなんだよ」

 私を探すことなどしないでくれ。
 それはキミの幸せには必要ないことだろう。

「エディ」

 愛しき者の名を声にして、上体を起こし、パンと両手で頬を叩き、ロイは書類に手を伸ばした。





      §            §





「すみません」
「はい」

 厨房を覗くホークアイの呼びかけにケイトが答えた。

「あら、ホークアイ中尉。どうしました?」
「すみません。ちょっとお願いがありまして」
「珍しいね。なんだい?」
「准将に食事を作って欲しいのですが」
「准将に?」

 ケイトは目を丸くして問うた。
 ホークアイは頷いて。

「ええ、この一ヶ月、まともに食事をとっていないようで」
「おやおや、それは身体に悪い」
「ええ、今日こそは無理やりにでも口に放り込もうと思いまして」
「そうだね。軍人は身体が資本だ。その元となるのが食事だからね」

 ケイトはドン、と胸を叩いて。

「任せな」
「有難うございます」

 礼を述べれば、ケイトは水臭いと言ってロアンを呼んだ。

「どうした?」
「准将が一ヶ月、食事をろくに食べてないそうなんですよ」
「准将が?」

 ロアンがホークアイに視線を向ければ、彼女は無言で頷いた。
 それを確認したロアンは盛大な溜息を吐いて。

「そうかい。じゃエドに作らせよう」

 元凶にな、と胸中で呟きを漏らす。

「ロアンさん」

 ホークアイはその言葉に一瞬目を見張り、フワリと笑った。

「有難うございます」
「な〜に、かまいやしないさ。あと」
「はい?」
「その食事をエドに運ばせてもいいかい?」

 ロアンの提案にホークアイは顔を輝かせて。

「ええ、願ってもないことです」
「そりゃ良かった。じゃついでにエドにも執務室で食事するように言っておくよ」

 一人の食事はつまらないだろ、と言うロアンにホークアイは目を見張った。

「え?」
「実はね。エドも近頃少食でね」
「エドワード君が、ですか」
「ああ、何やら思いつめているみたいなんだがね。ここ最近のことだし、今は見守っている最中なのさ」
「そうですか。では、お願いします」
「おうよ」

 ホークアイが背を向けて食堂を後にしたのを見送り、ロアンは振り向くと同時に。

「エド!」

 食器類を洗っていたエドワードに声をかけた。





      §            §





 ホークアイに持ってこられた書類があと少し、という所で扉がノックされた。

「入れ」
「し、失礼します」

 扉越しで緊張をしているのか掠れた声ではあったが、聞き知ったそれにロイは思わず顔を上げた。

「しょ、食事をお持ちしました」

 入ってきたのは、食堂の新人料理人。
 エドワード・エルリック。

 な、何故?!

 ダラダラ、と頭から汗を流すロイの目先では、エドワードが部屋の中央に置かれているテーブルに食事を乗せたトレーを置いて、用意をしていた。

「准将、食事の用意できました」
「あ、ああ、有難う」

 ペンを置いて、席を立ちソファに歩み寄ったロイは腰を下ろした。
 すると。
 エドワードがロイの間向かえに腰を下ろして。

「いただきます」
「は?」
「え?」
「い、いや、いただきます、とは?」
「ロアンさんが准将と一緒に食事をしてきなさい、と」

 な、なななな、なに---------------------------------------------------!!

 思わず顔を引きつらせたロイにエドワードは場違いなのだと、今更ながらに思い腰を上げて。

「迷惑ならオレは」
「い、いやいやいや、迷惑ではないから」

 ロイは慌てて止めた。

「………顔が引きつってますが?」

 その言葉にロイは両手で顔を揉み解した。

「す、すまないね。ちょっと驚いただけだから迷惑だなんて思ってないよ」

 先ほどよりも少しはマシな笑顔を向けているだろうと思いながら、ロイが答えた。

「それではここで食事をしても?」
「構わないとも」

 ニッコリと笑って頷けば、エドワードは安堵の吐息を漏らした。
 そして。
 早速食事に取り掛かろうとしたエドワードを制して。

「食事をする前に、パンダナと眼鏡を取りなさい」
「え?」
「ここで変装は無意味だよ。マーナ叔母さんは元気かい?エルリックさん」
「!………覚えて」
「もちろんだよ。仕事上、人の顔を記憶するのは得意でね」
「そ、そうですか」

 エドワードは全身から力を抜いて、パンダナと眼鏡を取り外した。

 ああ。

 ロイは思わず目を細めた。

 エディ………。

 正面から真っ直ぐに見つめたのはこれで二回目。
 やはり、綺麗になったな。

 眩しそうに目の前の少女を見つめながら、ロイは口を開いた。

「叔母さんの店の手伝いはどうだい?」

 慣れたかね、と問えば、小さく頷いて。

「はい。随分と慣れました。今ではコーヒーを淹れさせてもらってます」
「それは凄いな。叔母さんの合格をもらうなんて。厳しかっただろう」
「うん。だけど、凄く勉強になったっあ、」
「ん?どうした」
「あ、いやではなくいえ」

 言葉を言い直すエドワードにロイは苦笑して。

「地で構わないよ」
「でも」
「私は堅苦しいのは苦手でね」
「ほ、本当に」
「ああ」

 優しい笑みを向けて頷けば、エドワードは嬉しそうに笑い。

「そ、それじゃオレのことエルリックじゃなくて名で呼んで欲しいんだけど」
「名で?」
「だ、だって、言われ慣れてないから、なんだかくすぐったくって」
「了解した。それではエドワード、で構わないかね」
「うん」

 笑顔で頷くエドワードにロイは小さく微笑んで。

 本当はエディと呼びたいけれど、ね。

 その思いにロイは小さく頭を振った。

「あ、あの准将。聞きたいことがあるんだけど」

 少し、緊張した顔のエドワードがロイを真っ直ぐに見つめた。

「なんだい?」
「パスタ、不味かった?」
「………え?」

 何を突然。

 ロイは思わずテーブルに並べられている料理を見つめた。
 そこに置かれているのは、食事をしていなかったロイのことを考慮してか。
 胃に優しい食事ばかりで。
 パスタなどは見当たらなかった。

「ちげーよ。この料理じゃなくて、ほら、初めて会ったとき作っただろ」
「あ、ああ、いや、美味しかったが」

 ロイの言葉にエドワードはピクリ、と肩眉を吊り上げた。

「本当に?」
「ああ、本当に」
「じゃ」
「ん?」

 テーブルに両手をついて、ずずいっとエドワードは身を乗り出し、ロイに顔を寄せた。
 ロイは思わず、身を引いた。

 な、何だ?!

「じゃ、どうしてあれから店に来てくれないんだよ!」
「へ?」
「へ、じゃねー。マーナさんが言うには毎日のように通っていたっていうじゃねーか!!」

 それはキミが居たからです、と本音を言えるはずもなく、ロイは視線をさ迷わせた。

「そ、それは仕事が忙しくて」
「嘘」
「え?」
「定時に上がるアンタをオレは見た!」

 ヒ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

「それに」
「それに?」
「他の店で食事をしているのも見かけたぞ」

 い、いつの間に………。

「本当は不味かったんだろ」
「い、いや、本当に美味しかったよ。嘘はついてない」
「じゃ何で来なかったんだよ」
「それは………」

 ああ、これじゃ堂々巡りじゃないか。
 どうすれば、これを回避できる?

 あーうー、と言いながらロイは言い訳をする為に頭をフル回転させた。
 が。
 これといった言い訳が思い当たらず、視線をさ迷わせる。
 そんなロイを見据えて、エドワードは身を引きソファに腰を下ろした。

「………ずっと」
「エドワード」
「ずっと、悩んでいたんだからな」

 ギュ、と両手を膝の上で握り締め、絞るような声でエドワードが言った。
 それを耳にしたロイはツキッと胸を痛めた。

 ああ。
 そうだった。
 この子は、自分のことよりも他人のことを思い気を配る優しい子だった。

「す、すまない」
「………店に来いよ」
「ああ、行くよ」
「オレの料理は出さないから」
「それは困る」
「え?」
「キミの料理を食べてたいのに」
「!………来なかったくせに」
「それは………すまない」
「オレの料理を食べたいの?」
「ああ、是非」

 ニッコリと笑って言えば、エドワードは頬を仄かに染めて。

「じゃ来いよ」
「行くよ。今夜辺りにでも」
「待ってるからな」

 トクン。

 待っている。

 その言葉にロイは胸を弾ませた。
 ただ、店に食事をしに行くだけなのに、エディに待っていると言われて心が歓喜している。

「ああ」

 ロイが頷けば、エドワードは満面の笑顔を向けて。

「約束だぞ」
「わかったよ」
「よし!じゃ食べようぜ」

 両手を合わせて、いただきます、と声にしてエドワードはフォークを手にした。

 美味しそうに食事をするエドワードを眺めながら、ロイも両手を合わせて。

「いただきます」

 スプーンを手にした。

 温かいスープをすくい、口に含む。
 身体を満たす。
 優しい味にロイは目を細めた。

 ああ、これはエディが作ったスープだ。

 そう、思うと目頭が熱くなった。

 私は幸せ者だな。
 エディの食事を口に出来て………。
 本当はエディの食事など、口にしてはいけない立場なのに………。


 なんて。


 幸せ者なんだろ。


 ロイはスープをゆっくりと味わった。
 いつかはこの幸せがなくなることを思い。

 けれど。

 今だけは、と願う自分が浅ましくて………。


 今更ながらに。


 ロイは自分自身に吐き気をした。





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   06/09/05UP