□ 見えない発信機 U−U □










 イーストシティに降り立ったエドワードはあしながさんが手配してくれた店に足を向けた。
 そこは創作料理店。
 料理が好きなオレの為にと、あしながさんがイーストで美味しいと評判の店の主人に頼んでくれたのだ。

「そこまでしてくれなくてもいいのに」

 恐縮したけど、本音はとても嬉しかった。
 イーストシティは今回で二回目。
 はっきり言って街のことはさっぱりだった。
 それに。
 リゼンブールと違い人が多いし、犯罪も多いと聞いている。
 そんな所でオレ一人、どうやって生活をしていこうかと途方に暮れていたのも事実。

「感謝しなきゃな」

 改札を出て、大通りに踏み出した。
 様々な露店に喫茶店や飲食店などなど。
 賑やかな街並みを眺めながら、エドワードは一軒の店の前で足を止めた。

「ここだよな」

 手紙に添えてもらっていた地図と店名を確認してから、ドアノブに手を掛けた。
 カランカラン、と鉦が鳴る。
 暗い店内。
 カウンターとテーブルには逆さにチェアーが上げられ、掃除の途中だろうか。
 床にはモップとバケツが置かれていた。

「すみません」
「はーい」

 エドワードの掛け声で奥から一人の女性が現れた。
 白髪の長い髪を一つに纏め上げ、空のように青い瞳。
 ほっそりとした体には白いTシャツに黒のズボンを穿いている。

 カッコいい。

 目の前の女性にエドワードは思わず見惚れてしまった。

「誰だい?」
「あ、今日からお世話になるエドワード・エルリックです」
「!………アンタが」

 白髪の女は目を見開き、エドワードを頭から足の爪先まで眺めた。

「これはこれはまた若いお嬢ちゃんだね」
「えっと」
「ああ、話は聞いているよ。うちがこの店のオーナーでマーナ・ブラッド。宜しく」
「宜しくお願いします」

 マーナが右手を差し出し、エドワードはそれを握り返した。

「聞いているとは思うけど、ここは夜だけ開く創作飲食店だ」
「はい」
「エド、でいいかい?」
「はい」
「じゃエド、仕事は司令部だったね」
「はい、食堂の仕事です」
「時間は?」
「朝8時から午後の5時までです」
「休みは?」
「それはまだ決まっていません」
「そうかい。料理の腕は普通よりも上と聞いているが」
「そう自負しております」
「うん。じゃここで住み込みをする条件を言うよ」

 条件。
 それは手紙にも書いていた。
 宿代は一切不要。
 その代わり、店主の条件を全てのむこと。
 エドワードは顔を引き締め、マーナの言葉に耳をすませた。

「店を手伝うこと」
「!………店をですか」
「そうだ。この店を切り盛りしているのはうちだけでね。近頃はどうにも人手が足らなくて困っていたんだよ。そこにエドの話を耳にしてね。それじゃってことで引き受けたのさ。仕事が終えてから直ぐに入ってもらうことになるが、構わないかい?」

 申し訳なさそうに尋ねるマーナにエドワードは笑顔で構いませんと答えた。

 マーナさんの料理を直で見れるチャンス!

「有難う。助かるよ。エドの部屋は二階の奥だ」
「有難うございます」
「荷物はそれだけかい?」
「はい。足りなければここで揃えようと思ってます」
「そうかい。あと」
「はい」
「敬語はなしだ」
「!」
「言いにくいだろう」

 ニカッと笑って見透かすマーナにエドワードは目を見張り、素直に頷いた。

「それじゃ改めて、宜しく。エド」
「宜しく。マーナさん」

 ギュと握手を交わし、マーナとエドワードは荷物を置く為に二階に上がった。
 目に入ったのは30畳ほどのリビングとキッチンが繋がっている部屋。
 キッチンの傍に楕円形のテーブルにチェアーが2つ。
 リビングには足蹴の長い絨毯がしかれ、その上に2人掛けのソファが置かれていた。
 右のドアは洗面台と風呂場で。
 左のドアはマーナの自室。

「エドの部屋はここだよ」

 リビングを突っ切り、マーナがドアを開ける。
 18畳ぐらいの部屋に入れば右の壁にセミダブルベッド。
 窓辺に丸いテーブルとチェアーが1つ置かれていた。
 マーナは窓に歩み寄り、カーテンを左右に開いた。
 カタンと窓を左右に開けば。

「大通り」
「そうさ。ここは通りのまん前だよ」

 日当たり、眺めともに良好でエドワードは思わずいいのかと尋ねてしまった。

「良いに決まっているだろ」
「だって」
「エドが来るまでここは空き部屋だったからね」
「!………そんな勿体ない」
「そうなんだが、どうも私はこの部屋は落ち着かなくてね」
「そうなの?」
「そうなんだよ」

 苦虫を噛んだような顔をするマーナにエドワードは何かあるのかと問うた。

「ん〜〜〜別にないんだがね」

 なんとなくだよ、と苦笑するマーナにエドワードはそれ以上問わなかった。

「それじゃ荷物を解いてゆっくりしな」
「はい」
「今夜から店には入ってもらうよ。ああ、それと」

 マーナは部屋を出て自室から大きな紙袋を2つ持ってきた。

「これは店の制服だよ。これは預かりものだ」

 それらをエドワードに手渡し、店は5時からと伝えてマーナは部屋を出た。
 パタン、とドアが閉まってエドワードは一息ついた。
 手渡された紙袋をベッドに置き、中を確認する。
 一つは朱のTシャツに黒のズボン、黒のギャルソンエプロンロングが三着ずつ入っている。
 あと、黒の運動靴が入っていた。
 そして。
 もう一つの紙袋を覗くと同時に、エドワードは目を見張った。

「服に靴、帽子まで」

 それらをベッドの上で広げて、再度紙袋を覗くと一通の封筒が目に入った。

 まさか。

 それを手に取り、封を切って手紙を広げた。


『エドワードへ

就職、おめでとう。
これらは就職祝いだ。
気に入ってくれると嬉しい。
これから大変だとは思うが、身体には気をつけて無理はしないように。

R』


「やっぱり」

 あしながさんだ!

 エドワードは部屋を出て一階にいるマーナに駆け寄った。

「マーナさん!」
「どうした?エド」
「紙袋」
「紙袋がどうした?」
「誰から預かったんですか!」

 手紙を片手にエドワードはマーナに詰め寄った。

「知らないのか?」
「は、はい。いつもRとしか書いていなくて………父の友人だとは聞いているんですが」
「会ったことがない、と」

 コクン、と頷くエドワードにマーナはなるほど、と小さく呟きを漏らした。

「あーすまないが、教えられないね」
「どうして!」
「そういう約束だからさ」
「!」

 約束。

 ギュ、と両手を握り締めて。

 そこまでオレには会いたくないのか。

 悔しい。
 否。
 悲しい気持ちで胸が一杯になった。
 それを感じ取ったのか。
 マーナはポンポンとエドワードの頭に手を置いて。

「エド、勘違いするなよ」
「え?」
「何で教えられないか理由があるんだよ」
「理由」
「そうだ。決してエドのことが嫌いというわけじゃない。嫌いだったら服などくれないだろ」

 確かにそうだ。
 嫌いなら物など贈ることなどしない。

「じゃ何故?」
「実は」
「じ、実は?」

 コクン、と唾を嚥下するエドワードをマーナは真っ直ぐに見つめて。

「恥ずかしがりや、なんだよ」
「……………え」
「人前に出れば、顔を真っ赤にしてね。金魚のように口を開閉して言葉を発することなどできない程、緊張する奴なんだ」
「そ、そんなに」
「そんなに。そこに、可愛がっているエドを目の前にしたら、アイツは卒倒するね」
「卒倒って」
「事実だ」

 そんな大袈裟な、と思ったエドワードの言葉は否定された。

「だから、教えられないんだ」
「そ、そうだったんだ」

 でも。
 それでも。

「会いたいんです」
「エド」
「会ってお礼を言いたい」
「お礼を?」
「お願いです。教えてください!」
「エド」
「無理を言っていることはわかってます。でも」
「すまないね。うちは約束を違えるのは嫌いなんだ」
「っつ」
「会いたいなら自分で探すことだ」
「マーナさん」
「探すことには反対はしないよ。但し、ノーヒントだがね」

 ニタリ、と笑うマーナにエドワードは手紙に視線を下ろし、キュと口唇を引き締めた。

「はい。絶対に探し出します」

 オレはその為にここに来たんだ。
 待ってろよ!
 あしながさん。

「見つけ出して、面と向かって礼を言ってやるぜ!」

 燃え上がるエドワードを横目にマーナは小さく笑って。

「アイツもこれから大変そうだな〜」

 楽しそうに呟いた。





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   06/07/17UP