10年の歳月が流れて。 東の田舎・リゼンブール。 季節は春。 真っ青な空に緑豊かな自然と長閑な風景。 今日も平和だと思われた。 が。 「エド!!」 村に響き渡る怒鳴り声が一軒の家から発せられた。 「五月蝿い!ウィンリィ」 「五月蝿くもなるわよ!イーストに行くですって?!」 「ああ」 「なんで!」 「なんでって仕事が決まったから」 「仕事なんてここでもできるじゃない」 エドワードの部屋に顔を真っ赤にして乗り込んできたウィンリィがダン、と床に足を叩きつけた。 「そうだけど、親父からあの人のことを教えてもらってさ」 「あの人ってあしながさん?」 「うん。どうやら軍人らしいんだ」 荷物をトランクに詰めながらエドワードは嬉しそうに言った。 「軍人?!」 「そう」 「え、じゃ、エドは軍人になるの?」 「まっさか。オレの性格じゃ軍の縦社会には馴染めねーよ」 「それじゃ」 「まかない」 「は?」 「いわば、食堂のおばさんってとこ」 「はぁ?!!」 素っ頓狂な声を出すウィンリィにエドワードは笑って。 「オレの得意分野は家事一般だから」 「そうだけど」 「親父やアルみたいに錬金術を使うことはできないし」 理解は出来るが、錬金術よりも家事が楽しいと毎日のように言っていたエドワードらしい言葉にウィンリィは苦笑した。 「アンタらしいわ」 「だろ」 「で、あしながさんは軍の何処に居るって?」 「今はイーストだって、親父が」 「フ〜ン、イーストね」 「ああ、セントラルよりはいいだろ」 「そうね。マシね」 盛大な溜息を吐いて、ウィンリィはベッドに腰を下ろした。 それを横目にエドワードは荷物を纏めていく。 「でも、驚いたな」 「何が?」 「アンタがそんなにあしながさんに興味を持つなんて」 「そうか?」 「そうよ」 エドワードから椅子に座っている大きなクマのぬいぐるみにウィンリィは視線を向けた。 「クリスマスや誕生日と祝い事には何かしらとプレゼントを贈ってくれるあしながさん。名前も住所もわからない人にエドがそんなに執着するなんて、ちょっと驚きよ」 「名前も住所もわからないから、だよ」 「?」 トランクの蓋を閉め、エドワードはクマを抱き寄せた。 「お礼の手紙は親父を通して渡してもらってたけど、手紙じゃ言い切れないほど、沢山貰ったからオレは直接会って言いたいんだ」 「エド」 「プレゼントだけじゃない。同封されていた手紙にも………オレは何度と無く救われたから」 祝いの言葉と添えられた優しい言葉。 時には厳しく、励ましてくれた。 あしながさん。 オレの状況を親父から聞いていたのかはわからないけれど、何かしら悩んでいた時には必ずと言っていいほど手紙が届いた。 そのお陰で、今のオレがいる。 あしながのことを想い、エドワードは頬を染めてクマに顔を埋めた。 「………なんだか。今のアンタを見ていると恋する乙女みたい」 「な?!」 ウィンリィの言葉にエドワードは驚愕した。 「何を言って」 ワタワタと顔を真っ赤にして慌てるエドワードを横目にウィンリィは苦笑した。 あ〜あ、エドに先を越された感じ。 私も恋がしたいな〜。 あ〜でもその前に機械鎧の修行よね! 「ま、頑張って。私も近々、リゼンブールを離れる予定だし」 「え?!」 「ばっちゃんの知り合いが機械鎧技師の聖地・ラッシュバレーにいてね。修行も兼ねて行くことにしたのよ」 「そっか。そういや、アルもセントラルの学校に行くとか言っていたな」 「昔のままではいられない、か」 「そうだな。けど」 エドワードは右手拳を前に出して。 「オレ達の友情は不滅だぜ」 「当然!」 それにウィンリィは自分の右手拳をコツンと重ねた。 「けどさ」 「ん?」 「お前もここを出るなら、オレを責めることないだろ」 「ああ、あれは」 「あれは?」 「ちょっとした演出よ」 「は?!」 こめかみに青筋を立てたエドワードがウィンリィを拳固する為に追いかけるまで後三秒。 そうして。 エドワードは両親と弟のアルフォンス、隣に住む機械鎧技師のピナコばっちゃんとウィンリィに見送られてイーストシティに向かった。 − 続 − 06/07/16UP |